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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第四章 第三の女
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第44話 栞投入

 一年生の中でも上から一、二の人気を誇る雪野と黒戸。


 その二人が揃って野原の友達だと認識されたなら、もはやいじめが再会される余地も、その種も消し飛ぶだろう。


 短期間に学年人気一位と二位が接触することで不自然に思われぬよう、雪野にはあえて野原接触禁止令を出していた。


「私も混ぜてよっ!? 私だって早く野原さんと話してみたいのっ!」


 そんな調子だった雪野を、まだその時ではないと宥める方が大変だったくらいだが、ついにその封印を解く。


 自身を拘束する鎖を引きちぎり、たがの外れた好奇心の化身とも言える暴走機関車は、満を持して野原と接触した。


「野原さんっ! 今度私とも一緒にお昼ごはん食べよっ? あっ、私雪野栞って言うのっ! よろしくねっ!」


 いきなりテンションマックスな雪野に、野原は思い切り狼狽する。


「えっあっあっ、あの、あっあっ、し、知って、え、えっと、あっ、あの、あっ」


「そっ、そんなに動揺しなくてもっ!? えっ、どうしよっ!? あっ、あわあわあわあわあわっ!?」


 二人してあわあわとしてしまうハプニングは起こったが、その五分後には二人共の笑い声が聞こえてきた。


 人との心の壁をハンマーフルスイングで打ち壊すのは、得意なようだ。


 流石は雪野であると、一朗も感心する。


 ……これでようやく、目的は達したな。


 この時を境に人気の高まり過ぎた野原と一朗が、以前のように昼食を共にする機会は相対的に減っていった。


 多少寂しくはあったが、彼女のことを思えばその方がいいことも理解している。


 本来であれば、自分の教室でクラスメイトと交流を持った方がよいのだから。


 そんな日々が続いてしばらくのこと。


 一朗が夜に自分の部屋でゲームに興じていると、スマホがメッセージを届いたことを報せた。


 ……黒戸か? 


 一度ゲームパッドを置き、スマホを取る。


 そこに映し出された名前は――。


 えっ野原? 


 メッセージは野原からだった。


 画面にはこう書かれている。


「なんだか、少しだけ久し振りだね。今、いいかな?」


 まさか何か問題発生か? 


 またいじめが――。


 嫌な可能性が過り、心配になった一朗はすぐに返信した。


「おう。どうかしたか?」


 だが、そういう訳では無いようで――。


「なんだか周りというか、環境が一気に変わって正直まだ慣れないよ」


 なんだ、そういう話か……。


 まあ、そりゃそうだわな。


 ホッと胸を撫で下ろしながら、こう返す。


「じきに慣れるさ」


 すると直後、意外な言葉が野原から返ってきた。


「斉木君、本当にありがとう」


「何がだ? 別に礼を言われるようなことはしてないぞ?」


「だとしても、あの日斉木君と出会ってから私の周囲は一変したの。いい方へ」


「そうか、よかったな。まあ俺は関係ないけど」


「関係なくはないよ。私、友達とか居なかったから、斉木君と話をして、ご飯を食べて、一緒に過ごしたことで凄く救われた。正直、それまで学校は嫌いだったけど、斉木君と話すようになってからは毎日が楽しくなって、登校するのも苦じゃなくなってた」


 なっが!? 


 どう返したものかと一朗は悩んだが、そんなことはなんてこともないという意図も込め、あえて短文にする。


「俺なんかが、いいきっかけになったみたいでよかったよ」


「好きです」


「うぇっ!?」

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