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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第四章 第三の女
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第43話 いじめ対策開始

 それから一週間程、昼休みは黒戸、一朗、野原の三人で昼食を共にするということを続ける。


 これにより二組の生徒のみならず、周囲に野原が孤立していないことをアピールした。


 同時に時代劇口調で話す野原の面白さも周知。


 興味本意から話し掛ける者も現れる。


「野原さんって上のクラスだよね?」


「あっあっ、そ そう……だよ……」


「あれ、ござるって言わないの?」


「あっ、あっ、それは……」


 こうして野原の時代劇口調に関して疑問を持たれたことで、既に広まっていた、女子と男子で態度が違うという悪い噂の真相と、そこにまつわる誤解も解くことができた。


 それに伴い、野原の評価も変わり始める。


「男子にはござるだし、女子にはなぜかキョドってるし、なんか野原さんって面白いね」


 そういったポジティブなものへ――。


 そんな彼女に対する評価の変化を、近くで目の当たりにした一朗は驚いていた。


 こんなにもうまく行くものなのか……。


 これも黒戸によるところが大きいんだろうな……。


 人気の高い黒戸が絡むような子なら、野原は別に悪い人間ではないんじゃないかと、そんな魔法のようなバイアスが掛かったはずだ。


 この周囲の変化は波及し、それに伴って野原へと注目が集まったことで、実は彼女が隠れた美少女であることもすぐにバレ、その情報が再び周囲に伝わっていく。


「野原さんかわいー!」


「なんで前髪で目元隠しちゃうの?」


「前髪切りなよー! 絶対モテるよー!」


 こうした周囲の反応に野原も最初の内は戸惑い、動揺していたが、一応の返答ができるようには成長していった。


「あ、ま、前髪を伸ばしておけば、授業中眠い時……とか、ごまかせるので……」


「面白ーい!」


「モテより眠りを取るとかウケる!」


 時代劇口調抜きの、素の野原節もまた、周囲に受け入れられていく。


 結果、学年全体で野原人気は高まり、やがては彼女を無視していた五組のクラスメイト達すら話し掛ける姿を一朗は目撃した。


 ……マジかよ。


 まだ野原と絡み始めて二週間程度なのに、ここまでトントン拍子で行くとか……。


 一朗は思い出す。


 始めに黒戸が言っていた通りになってきたな――と。




「自然な流れで野原さんの周囲に、彼女に対して好意的な者が集まれば、いじめる側は悪意を持った接触が難しくなる。それこそ野原さんの周囲の人間に、いじめたりシカトしていることを悟られたくないがために無視すらできなくなるだろうね」


「こう見えてボクは学年でも人気があるんだ。そんなボクが野原さんの友達であると、そういじめっ子達が認識したなら、きっとこの件はあっさり解決するはずだよ?」




 あの言葉も自信も、寸分の狂いも無く本当だったのだ。


 今更ながら、こんなに影響力のある、スクールカースト上位の人間と親しくしていたのだなと、一朗は少しだけ怖くなってしまう。


 だが黒戸いわく、野原に対するいじめ対策は、まだこれで終わりではない。


「そろそろ栞にも協力して貰おうか」


 ――そう、駄目押しとも言うべき最後の切り札、雪野の投入だ。

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