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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第四章 第三の女
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第38話 こいつも武士

「なあ、野原早雪って知ってるか?」


 昼休み。


 一朗は一緒に弁当を食べていた黒戸にそう訊ねた。


 彼女は何かを思い出そうとしているのか、目線を中空に上げてから答える。


「……ああ、名前とよくない噂なら聞いたことがあるね」


「やっぱりか」


「それがどうかしたのかい?」


「たまたまその野原と話したんだけどさ」


「うん」


「面白いヤツだったよ」


 黒戸がじとりとした視線を寄越した。


「なるほど、一朗はすっかり魅入られてしまったようだ。どうやら彼女が男の前で態度を変える魔性だという噂は、本当みたいだね」


「それが違うんだ。いや、違わないんだが」


「チャームに加え、コンフューズの状態異状にも掛かってしまっているね」


「まあ聞いてくれよ」


「世迷い言を?」


「……まあそれでいいや」


 怪しむ様子を隠そうともしない黒戸に、一朗は今日起こったことを話す。


 するとようやく、黒戸もそれまでの態度を解いた。


「……なるほど、武士言葉と来たか。確かに面白い子みたいだ」


「その上顔もいいんだよ。普段は前髪で目元を隠してるがな」


「……大体事情は理解したよ。一朗が何を考えているのかもね」


「察しがよくて助かるよ。で……だ。なんとかならないか? 悪いヤツじゃないと思うんだよ」


 黒戸が考え込む。


「難しそうだね……」


「まあ、そうだよなぁ」


「でも彼女の置かれている状況は今のところ、そこまで悲惨なものではないと思うよ。積極的ないじめを受けているというよりも、野原さんには関わらないようにしよう……くらいのものだろう」


「……確かに」


「放っておいても平気な気はするけど」


「余計なことに首を突っ込まない方がいいって言いたいのか?」


「まあね。例えば一朗が野原さんをいじめから救う目的で近づいたと、いじめている意識が少しでもある者達がそれに気付いたならば、きっといい気分はしない」


「俺にもなんらかの悪意が向くってことか」


「それだけじゃない。確実に野原さんの状況も悪くするだろう」


「はあ」と、一朗は大きな溜め息をついた。


「難しいな。わかっちゃあいたが」


「でも現時点でそこまでのいじめには至っていないことは幸いだよ。自然な流れで野原さんの周囲に、彼女に対して好意的な者が集まれば、いじめる側は悪意を持った接触が難しくなる。それこそ野原さんの周囲の人間に、いじめたりシカトしていることを悟られたくないがために無視すらできなくなるだろうね」


「……やっぱり、難しいじゃないか。現実的には思えないんだが……」


「そうかい? 確かに野原さんに近付く最初のきっかけ作りは難しいけど、それさえ一朗ができたならボクだって協力のしようがある」


「えっ、協力してくれるのか?」


「して欲しいからこそ、ボクに相談したんだろう?」


 ……クッソ、こいつマジでイケメンだな!? 


 女じゃないけど濡れそうだぜ……。


 黒戸は続ける。


「こう見えてボクは学年でも人気があるんだ。そんなボクが野原さんの友達であると、そういじめっ子達が認識したなら、きっとこの件はあっさり解決するはずだよ?」


「心強いぜ……」


「ただボクからの接触は難しいから、きっかけ作りは一朗に任せるよ」


「ああ」


「わかっているだろうけど、生半可な関わり方や、やり方じゃあ駄目だ。本当にごく自然な流れでなきゃあね」


「……やっぱり難しいな。まあなんとか方法を考えてみるよ。ありがとな、黒戸」


「いいさ、ボクと君の仲じゃないか」


 ……ああ、ノロケを聞かされる仲だったな。

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