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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第四章 第三の女
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第37話 武士

 三時限目の休み時間。


 この時も一朗はトイレに行こうと廊下を歩いていた。


 すると二階から何人もの生徒が降りてくる。


 移動教室があるのだろう。


 気にせずトイレで用を済ませ、廊下に出た時だ。


 教科書やらを抱えた女子生徒が階段から降りてきて、一朗の前を横切る。


 直後彼女から、シャーペンがカランと乾いた音を立てて落ちた。


 筆箱が開いていたのだろう。


 すぐに気付いて拾うものとばかり思ったが、そんな素振りすら見せずに、少女はどんどん先へ行く。


 おいおい気づいてないのか? 


 ……仕方ないな。


 一朗はシャーペンを拾い、声を掛けた。


「あの、シャーペン落としたよ」


 くるりと少女が振り返る。


 そこでようやく一朗は落とし物の主の正体に気付いた。


 あっ、確か野原……。


 そう、朝見掛けた野原早雪だったのだ。


 彼女はツカツカと早足でこちらに近付き、奪うようにシャーペンを取ると、こう礼を述べる。


「かたじけない!」


 かた……じけない……? 


 確かに露骨に態度変わってるけど、方向性が意外過ぎる……。


 でもこれ、別に女子から嫌われるような変化には思えないけど……。


 そう感じた次の瞬間。


 周囲との繋がりを断絶するかのような彼女の分厚い前髪の奥に、チラリとその目が見えた。


 一朗は全てを理解する。


 やはり、見た目への嫉妬か――と。


 以外にもくっきりした二重のアーモンド型の目に長い睫毛と、雪女を思わせる程に整った顔立ちの美少女。


 雪野のようなコミュニケーション能力にも、黒戸のような女子ウケする性格も持ち合わせていない美少女ゆえの、定めなのかもしれない。


 うっかり見とれていた一朗に、野原が告げる。


「では拙者、移動教室があるゆえ、これにて失礼つかまつる」


「あ、ああ、達者でな……」


 律儀にぺこりと頭を下げてから、野原は駆けていった。


「ぷっ」と、失笑してしまう。


 野原早雪……面白いヤツだな。


 この時すでに一朗は、彼女が理不尽な理由でいじめられているのなら、助けてあげたいなと、そう思い始めていた。




 ◇

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