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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第三章 中間テスト
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第32話 キューピエロッド

「……まったく一朗は。ボクらの裸が見たいからって、おかしなクスリを盛るなんてね……」


「いやそれは誤解だから!? お前らが勝手におかしくなっただけだからな!?」


 あらぬ疑いを掛けられ、必死に否定した一朗を見た黒戸が、何かを思い出す。


「そういえば栄養ドリンクには表記されていない、微量のアルコールが含まれている場合があるって言うのを聞いたことがあるな……。もしかしてそれで、おかしくなったのかも……」


「そうだったんだっ!? じゃあ斉木君は悪くなかったんだねっ」


「いや、待つんだ栞。そこまでを知った上での犯行かもしれない」


「どうしても俺を犯人にしなきゃ気が済まないのかよ!?」


「あはは、ジョークだよ? ごめんごめん」


「ったく、人が悪いぞ黒戸」


「えっ、あっ、冗談だったの?」


「おい雪野が真に受けてるじゃねぇか!?」


「だからボクはそれを含めてごめんと謝っただろう?」


「お前なぁ……」


「それくらい、いいだろう? ただで美少女二人の下着姿を拝めたんだからさ」


「百理あるな……」


「ふふ、喜んでくれたのならボクも本望だよ」


 この黒戸の発言に、一朗は違和感を覚えた。


「なんであんまり嫌がってないんだよ?」


「ん? 一朗を喜ばせることができたからさ。お礼がしたかったからね」


「なんで俺を喜ばせたいんだよ? それにお礼とか意味がわからないんだが……」


「それはねっ」と、雪野が割り込んでくる。


「斉木君が私達の恩人……キューピッドだからだよっ!」


 なるほど、そういうことか。


 ようやく理解した上で、一朗はこう返した。


「いや、俺はピエロだよ」


「そう言うなよ」


「そうだよっ!? ピエロでありキューピッドなんだよっ!」


 そのフォローできているのかできていないのか、よくわからない雪野の発言に一朗は失笑してしまう。


「ははっ、まあそれでいいか。お前らといい関係が築けたことは、俺も嬉しいんだ」


「一朗……」


「斉木君……」


「……まあなんだ、なんだかんださ、結局は諦めなかったお前らが凄いんだよ。普通なら進めないような逆風も無視して、道ならぬ恋に突き進んだんだからな」


「本当、諦めなければ奇跡は起こるんだね」


「悠希君……。うん、奇跡はあるよねっ」


 そう愛を確かめ合う二人を見た一朗は――なぜか涙を流した。


「お、おいどうしたんだい一朗?」


「えっなんでっ!?」


 困惑する二人以上に、困惑しながらも一朗は決壊した胸の内を吐露する。


「……ピエロの俺も、雪野のことを諦めなければ、まだ奇跡の芽はあるんでしょうか……? いやわかってる……。俺だけは一生一人なんだ……」


 どうやら一朗も気づかぬ内に酔っぱらい、泣き上戸になってしまったようだ。


 黒戸が背中を擦りながら、優しく宥める。


「なっ、泣くなよ一朗? ね?」


 一方雪野はますます混乱を極めていた。


「ガチ泣きっ!? あわわ!? あわあわわっ!?」


「ほら、一朗が無茶を言うから論理的思考を放棄した栞が阿波躍りを始めちゃったじゃないか……」


 一朗も立ち上がり、阿波躍りに加わる。


「一朗も!? ……こうなったらボクも――!」


 かくして阿波躍り大会が、雪野の部屋で急遽開催された。


 そのお陰か、直前までのごちゃごちゃとした色々なことがうやむやになる。


 阿波躍りでバカになれば、様々な問題の幾つかは解決するのかもしれないなと、一朗達は思わされるのだった。

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