第3話 出会い、再会
「ご入学おめでとうございます!」
少し大きな着なれぬブレザースラックス姿の一朗は、新入生を祝福する教職員に会釈し、他の多くの生徒と共に校門を抜けていく。
そして案内の図に記された学級発表が張り出されている掲示板へ向かうと、そこにはすでに人だかりができていた。
その様子に辟易したが、さっさと自分のクラスの確認をしようと、集団の後ろの方から背伸びをして確認する。
……あった。
一朗のクラスは一年二組。
それさえわかればもうこの場所に用はない。
そう思い踵を返した時だ。
「あっ! あった! 私一年二組だっ!」
その朗らかな声に思わず横を見る。
日に透けて琥珀色の、色素が薄い茶色のミドルヘアー。
溢れ落ちそうな大く垂れ目がちな、タヌキのような目。
それを更に大きく見開き、ぴょんぴょんとその場でウサギがやるように飛び跳ねている、およそ百五十センチにも満たないだろう低身長の少女。
柔らかそうな頬と、口元。
次にどんな動きを見せるのか、その挙動を追いたくなってしまう。
そんな魅力に溢れていた。
まるで彼女を中心に、すでに散ったはずの桜の花が咲いていくかのような錯覚に一朗は陥る。
釘付けだった。
彼女は嬉しそうに、近くに居た別の友達であろう少女に向かって続ける。
「明美ちゃんも一緒のクラスだねっ! やったぁっ!」
「もぉ、ユキノンは可愛いなぁよしよし」
デレデレとしながら頭を撫でる、同じ中学校出身なのだろう友達。
低身長少女も「えへへ」と、満更でも無い様子だ。
いや可愛い過ぎんだろっ!?
そうやって見詰めたまま悶える一朗の様子に少女が気付き、目が合う。
やっばっ――!?
「あっ、もしかして君も一年二組っ?」
「えっ」
突如話し掛けられたことに動揺しながらも、なんとか一朗が答えた。
「あ、ああうん、一年二組だけど」
「そうなんだぁっ! 一緒だねっ! 私、雪野栞! よろしくねっ!」
「あ、ああ、よろしく。斎木です」
「斎木君ねっ! 私のことは栞って呼んでねっ! あだ名のユキノンでもいいよっ!」
それはさすがに馴れ馴れしいだろうと、常識的に返すことにする。
「わかったよ、雪野さん」
これを聞いた雪野はぷくーと頬を膨らませ、不満をあらわにした。
あざとっ!?
でも可愛過ぎるッ!!
「……せめて呼び捨てにして?」
「じゃあ……雪野」
「えへへ、よくできましたっ!」
雪野は背伸びをして目一杯手を伸ばし、一朗の頭を撫でた。
可愛いの暴力ッ!?
熱暴走からフリーズした一朗に、雪野は告げる。
「じゃあまた後でねっ! 斎木君っ!」
ハッと正気に戻って、一朗は返事をした。
「あ、ああ、また」
去り行く雪野と、その友達の明美と呼ばれた少女の背中をぽけーっと見送りながら、一朗は思う。
……そっちは君付けなのかよ。
それにしても、雪野栞……か。
変な子だな……。
「……」
……好きだ。
めっちゃ好きだ!
恋など糞食らえと、そう思っていた一朗は、もはやもうどこにも居なかった。
その片鱗ごと、雪野の弾けるような笑顔に消し飛ばされてしまったのだ。
女子の一挙手一投足、一喜一憂してしまう。
これこそかなしき男子の性。
一朗は心から思う。
桜の樹、伐らなくてよかったな――と。
そんなことを考えている時だった。
「一朗」