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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第三章 中間テスト
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第22話 テスト期間来襲

 ゴールデンウィークも終わり、高校生活にも慣れてきた五月。


 中庭の自販機前にある藤棚の下は降るような甘い香りに満ちていおり、他に人さえ居なければ一朗はよくこの場所で、紙パックのレモンティーを片手に一息ついていた。


 しかしこの日は一息というよりも――。


「はあ」


 大きな溜め息を溢した。


 なぜならば――。


 ……なんでこの世界に、テストなんてものがあるのだろうか。


 そう、目前に中間テストが迫っていたのだから。


 もう来週から、テスト期間に突入する。


「はあ」


 一朗の成績は中の下。


 その上高校に入ってから初のまともなテストということもあり、ナーバスになっていたのだ。


「溜め息で雲でも作る気かい?」


「……チッ。なんだお前か」


 いつ来たのか、そこには黒戸の姿があった。


 彼女はしゅんとしながら告げる。


「さすがにボクだって、舌打ちまでされたら傷付くんだけど……」


「溜め息で雲ができるわけねぇだろ」


「……今日はまた、随分とご機嫌斜めだね」


「テスト前に機嫌よくなんていられねぇよ」


「ああ、そういうことか。確かにそうかもしれないね。……それにしても、とも思うけど」


「顔もよくて頭もよかったらキレそうだが、もしかして黒戸って頭よかったりしないか?」


「……答えにくい質問の仕方をするなぁ。まあ、君よりはいいんじゃないかな?」


「殺すぞ……成績的には? 中学の時とか学年何位だったんだ?」


「大体一位か二位かな」


「殺すぞ……頼む、勉強を教えてくれ!」


「とても人にものを頼む態度には思えないね……。凄く君らしいよ一朗」


「殺すぞ……で、どうなんだ? 今日からよろしく頼めないか? 友として……いや、親友としてさぁ!?」


「……まあ教えてもいいんだけれど、とりあえず今日は無理かな」


「ノリ悪っ」


「ノリとかの問題じゃあ無いだろう」


「彼女と俺とどっちが大事なんだよ!?」


「急にメンヘラこじらせてくるね……。言っておくけど、栞は関係無いからね」


「じゃあなんなんだよ?」


「今日はちょっと、見たい電柱があるんだ」


「見たい電柱ってなんだよ!! えっ見たい電柱ってなんだよ!?」


「二度見ならぬ二度訊きとは珍しいね」


「珍しいのはお前だよっ!? 逆に気になって来ちゃったじゃねぇか!? どんな電柱なんだ!?」


「ボクのことはいいだろう? それよりも勉強を教えてくれる人間に心当たりがあるから、紹介してあげてもいいんだけど」


 その瞬間一朗は掌を返し、態度を一変させた。


「マジか!? さすがは黒戸様! ……あ、ただし条件があるとか言い出さないよな!? まあ今の俺は、人としての尊厳を損なうような条件でも飲むけどな! もし食えと言われれば――」


 それを遮るよう、黒戸が言葉を被せる。


「――いやいや、プライドは持っておいてくれ……。それに条件も別に無いよ」


「……お前が神か?」


「人だよ」


「出来た人間だ……。それで一体、誰なんだ? 俺に勉強を教えてくれるかもしれないって酔狂な暇人は?」


「……なんだか紹介したくなくなってきちゃったなぁ」


「ふざけましたッ! ごめんなさいッ! 不機嫌なのを隠そうともせず、あまつさえ当たり散らして申し訳のしようもございませんッ!! 殺すとか言って、ごめんね!?」


「あ、ああいや、冗談を言ってるってのは雰囲気からちゃんと伝わっていたし、謝らなくていいよ」


「ならよかった……」


「それでなんだけど」


 黒戸はそう前置いてから、本題を切り出した。


「栞に頼むっていうのはどうかな?」


「えっ」


 その予想を上回る回答に、一朗は素直に驚き、何も言えなくなってしまう。


 質問をしてこない一朗に対し、黒戸がその根拠を話した。


「中学の時はテストでボクが一位じゃない時は、栞が学年一位だったんだ」


「マジかよ……。神はお前らに二物を与えやがったのか……。俺にはイチモツしか与えなかったくせに……」


「……とにかく、これならなんの申し分も無いだろう?」


「いや、ある。そもそも、雪野が俺に勉強を教える役を引き受けてくれるとは思えないんだが」


「栞は元来世話焼きだし、一朗のことは気に入ってるみたいだから問題ないよ。ボクが保証する」


 でも――と、一朗は躊躇する。


「……」


「……黙っちゃったけど、どうしたんだい?」


「俺が雪野のこと好きなのを知ってるのに、いいのか? 近づけちゃっても……」


 黒戸は優しく微笑んでから、厳しい現実を突き付けた。


「一朗がボクの恋のライバルになるとでも? 君が入り込む余地なんてボクらの間には無いよ」


「なるほど、自信ゆえか……。というか、俺が舐められてるのか……。確かにお前に勝てる要素は一つもないがな。そもそま百合の間に男が入り込むことなんてできねぇか……」


「そういうことさ。じゃあボクの方から頼んでおくよ。それでいいだろう?」


「お、おう」


 こうして一朗は、黒戸の紹介で雪野からテスト勉強を教わることになる。


 しかし、その場所には大きな問題があった。




 ◇

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