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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第二章 オリエンテーション
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第16話 合宿二日目 伝播する元気

 そして合宿二日目。


 この日は今回のメインイベントである、班ごとに地図を見ながら時間内に定められたチェックポイントを通り、最終的なゴールを目指すスコアオリエンテーリングが行われる。


 それに伴い、集まった生徒に向かい担任の蓬沢は言った。


「去年は死者行方不明者共に二名出ました」


 ざわっと、その物騒な発言に皆がどよめく。


 だが蓬沢は――。


「冗談です」


 冗談言うタイプなのかこの教師……。


 そうは見えないから質が悪いな……。


 一朗だけでなく周囲の者も多くが真に受け、まったく笑えない冗談になっていた。


 それから新入生達は朝食を取ってからバスに乗り込み、オリエンテーリングの開始地点にまで移動する。


 当然、ここから先は歩きだ。


「だる」


「ギブアップしようよ」


 などなどの弱音が早速周囲の、特に女子達の口からチラホラと上がる中にあっても雪野は――。


「自然いっぱいで、川も綺麗っ! みんなでがんばってゴールしようねっ!」


 誰よりもやる気満々。


 何よりも楽しそうである。


 さすがのポジティブさだ……。


 もうそれだけで可愛い。


 一朗も雪野に引っ張られ、自分でも意外な程のやる気に満ちていた。


 雪野が先頭に立つ。


 そして振り返ると言った。


「あ、でも地図はよくわからないから二人に任せるねっ!」


 じゃあなぜ先頭を行こうとしたんだ……。


 一朗は鈴木に訊ねる。


「鈴木君さ、一応訊くけど地図読める?」


「いや、俺そういうのよくわからないから……」


 だよなぁ。


 普通なら地図アプリとか使っちゃうし、事前に簡単な説明を受けたとはいえ、こんな等高線の描かれた紙の地図なんて見ないもんな……。


「俺も詳しい訳じゃないからミスるかもしれないけど、まあやってみるよ」


「じゃあ任せたよっ、斎木隊員っ!」


「了解だ、雪野隊長」


 茶番もそこそこに、一朗達も他の班に合わせて出発した。


 始めの内こそゾロゾロと皆の足並みは揃っていたし、雪野へ話し掛けに来る者らも多かったが、それも徐々に疎らになっていく。


 やる気の無い者などは第一チェックポイントに辿り着いてすらいない、序盤のはずの現時点で早くも脱落しているようだ。


 あっさり諦めれば内申に響くかも知れないし、そうでなくても教師の心証は悪くなるだろうに……。


 一朗はそう分析した。


 それにせっかくのこういう機会なのだからこそ、楽しんだ者勝ちだとも思う。


 いつもならそんな考え方をしないが、これも雪野の影響が大きかった。


「景色もいいし空気も綺麗だし、天気もいいし最高だねっ!」


「そうだな」


「この今鳴いてる鳥さんの歌声も綺麗でうっとりしちゃうよっ」


 これを受け、鈴木が食い気味に答える。


「多分、あれはミソサザイ……」


「へぇっ! ミソサザイっていうんだ!? 鳥に詳しいんだねっ! 鈴木君っ!」


「まあ、親が野鳥とか好きだから……」


 ……へえ。


 鈴木が自分から会話に加わるなんて、今回初めてのことだと一朗は驚く。


 どうやら彼もまた、雪野のポジティブな影響を受けつつあるようだ。


 他にも普段は聞くことがないようなタイプの小鳥の囀りが響く、気持ちのいい森林の中、木漏れ日の射す柔らかな腐葉土を踏みしめながら一行は進んでいく。


 だが、そんな景色も続けば飽きてくるもの。


 やがて口数が減るのも仕方のないこと。


 しかし、一朗達はそうならなかった。


 雪野の提案で、しりとりを始めていたのだ。


 そうこうしている内に景色も移り変わり、道に沿うように小川が現れる。


 そしてその先には見事な滝も待っていた。

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