第11話 両手に花※
黒戸の腕に抱き締められながら、興奮した様子で真上にある黒戸の顔を見上げながら雪野が続ける。
「今私幸せ過ぎてっ! 頭がどうにかなっちゃいそうだよっ!?」
対して、黒戸の方は動揺していた。
「ボクもだよ……。まさか、まさかこの告白が、成功するなんて……」
雪野が至近距離から、黒戸の目を見詰めたままで告げる。
「こんなことって……こんな奇跡って、本当に起こるんだ……。諦めなくて、ずっと好きでよかったよぉ……」
「ああ、ボクも今そう思っていた。君を諦めなくてよかったよ……」
マジかよ……。
あの台詞を……俺が雪野に言わせたかった……。
その顔も俺に向けて……!?
……クソ!!
一朗は失恋をした。
それも告白をしないままで、盛大に――。
しかも相手は、高校で最初にできた友達というオマケ付きだ。
色恋にうつつは抜かさないと高校入学前からこじらせ、ひねくれはしたが、それを自覚した上で入学後には青春を諦めずに行こうと前向きにもなったのに……。
それなのに完全に出鼻を挫かれた……いや、もはや出鼻を削ぎ落とされた気分だ。
なんなんだよ……。
そもそも、前向きになるきっかけをくれた……恋をした雪野の恋愛対象ですら無かったなんて……。
俺はアホで無様で大間抜けなピエロ野郎じゃねぇかよ……。
その上悪いことに、なんの拍子か黒戸がこちらに視線を上げた。
「――ッ!?」
ヤッバ目が合っ――!?
すぐに一朗はその場で伏せて隠れたが――。
「……そこに居るんだろう?」
遅かった。
……いや、なんで声掛けてくるんだよ。
こっちは気を使って隠れたってのに……。
一朗は観念して、姿を見せる。
「えっ斎木君っ!?」
雪野は驚いて、黒戸から離れた。
そんな彼女達へ、一朗は精一杯強がって謝罪する。
「……野暮な真似をしてすまん。別にお前らの恋愛をどうこう言う気も、誰かに言い触らすつもりも無いから安心してくれ。それと断っておくが、ここに俺が居たのは偶然だからな……」
「君がそういう奴だということはわかってるよ。信頼してる」
「……おう」
「それよりも、ボクの方こそすまなかった。このことを黙っていて……」
「いいよそんなこと。リスクを冒してまでわざわざ話すことじゃないしな」
「でも信じて欲しい。一朗にだけは、折を見て話すつもりだったんだ」
「……そうか。ああ、信じるよ」
「それと、こんな場面を見られちゃったんだ。一朗にはとことん付き合って貰うよ? 友達兼理解者……ってことでいいんだろう?」
「……まあな」
のろけを聞かされるとか、死体蹴りかよ。
これを言えば、自分がつらくなることなどわかっていた。
だが、一朗の口を突いてこんな言葉が出てしまう。
「……これも成り行き上仕方ないことだよな。いいぜ、お前らの話くらいなら聞いてやるよ。相談されても、役に立てるかまではわかんねーけどな」
「ありがとう一朗、十分だよ」
「斎木君……ありがとう……」
「……おう」
黒戸にいい格好を見せたかったこと。
そしてこんな関係でもいいから、雪野と繋がっていたいという惨めで歪んだ想い。
それが一朗にこんな地獄の決断をさせた。
春の嵐は、吹き荒れる――。




