第8話 「優しさ」
今、始めようとした食事は乱入者によって中断された。
その乱入者は赤い髪の男――そう、テルボだ。
「なんで僕を置いていくんだよ?ドールとテールも会いたかったはずなのになあ!」
テルボの矛先はガウムとカインドのようだ。テルボはドールとテールに執着しているように見える。
正直なところ今すぐにでも斬りかかりたいが、相手は一応神なため、そうはいかない。
「ドール、テール!」
テルボは二人に近づき、抱き寄せようとした。
となると、ガウムの選択肢はひとつしかない。
「やっていいわよ」
「承知致しました」
ドールからの許可もおりたため、ガウムは剣を構え、テルボを睨みつけた。
怒りを込めて踏み込み、テルボに向かって跳躍する。
テルボは目を見開き、硬直していた。
剣に斬撃魔法をのせ、テルボに斬りかかる。
狙いは腹部。腹部を斬られたら動くことは不可能なはずだ。
「僕に何をするんだ!?」
真っ直ぐ線を引きながら、ガウムの剣がテルボの腹部を斬る――はずだった。剣と何かが衝突したのだ。
魔法で強化されているが、何をしてもテルボに届かず、弾かれる剣。
その正体は――
「いつ特殊魔法を…?」
「牢屋に入れられているときだよ。二年間もあったんだからなあ!このガードは絶対に攻撃を通さない」
ドールの問いかけに応じたテルボの答え。それは、今の状況において、最悪と言ってもいいものだった。
困惑がもたらした一瞬の沈黙。それを破ったのはドールだった。
そのドールは――
「ガウム、ありがとう。テルボ?」
「……っ!失礼いたしました、ドール様」
先程とは違う、威圧感のある問いかけに応じたテルボは、まるで別人のような態度だった。
「ドールは神の中で一番偉いんだよ」
カインドが耳打ちで教えてくれた内容は、あまりにも予想外のものだった。
ドールの態度からして、カインドが一番上だと思っていたからだ。
「神の中で一番強いのがドールだからね。ちなみに二番目はテールだよ」
二人がその力を発揮しているところを見たことがないため、どのくらいの強さなのかがわからない。
しかし、神の中で一番、二番目の強さなのであれば、相当なものなはずだ。
「あの二人の力はもう恐ろしいものだからな。ドールが敵になったら完全に終わりだよ」
「私そんなに強い方々の守護者だったんですね…」
カインドがそこまで言うなら間違いない。となると、何故そこまでの力を持っていながらガウムを守護者にしたのだろうか。
「兄上、また牢屋に入れてきても?」
カインドが頷くと、ドールはテルボの腕を掴み、消えた。そう、文字通り消えたのだ。恐らく、魔法によるものだろう。
「さて!お姉ちゃんがどうにかしてくれたことだし!ご飯にしますか!」
「そうだね!ん?ガウム、どうした?」
ガウムは、まるでテルボが牢屋に入れられることが当たり前かのようなテールとカインドの態度に唖然としていたのだった。