表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の歌  作者: おさかな
第一楽章 始まりの音
2/27

第1話 「今、ここから」

 あたり一面、純白に染まった街。目を焼くような純白はあまりにも美しいものだ。

 無数の同じ形をした建物が並んでいる先に、白い大きな城が建ち、この街の異質さを際立たせていた。

 辺りを見渡しても端が見えず、かなり広いことが伺える。

 そんな白い街に一際、目を引くものがあった。

 それは、中央の女神のような像だ。所々に黄金が使われており、思わず見惚れるほどのものだった。


 ――そんな街でただ一人、呆然と像を見つめる少女が立ち尽くしている。


「――ここは…?」


 ここが何処で、なぜここに居て、自分が誰で、直前まで何をしていて――欠片もわからない。

 記憶が、抜け落ちてしまっており、かなり深刻な状態だ。


 縋るような気持ちで辺りをいくら見回しても、何も分からない。

 人の気配もなく、頼ることも出来ない。


 自分が、行動をしなければ。

 何故か、「どこに行けばいいのか」なんて疑問は浮かばない。

 自然と、少女は像が向いている方向へ――城へと歩みを進めていた。


 ゆっくり、辺りを観察しながら進む。

 それにしても、本当に白に染まった街だ。

 規則的に並んだ建物や、地面、そこかしこが白だ。

 建物には、人が住んでいるのだろうか。それにしては人気が無さすぎるが。

 独特な雰囲気を帯びた街を歩き続けていると――


「どうしてここにいるの?」


 少女は突然話かけられ、肩を跳ねさせる。

 話しかけられたことにもだが、人がいたことに対しての驚きも大きい。


 翡翠色をした腰あたりまである髪は日の光を浴び、眩いばかりに輝いている。髪と同じ色の見透かすような瞳は驚いたように瞳孔を丸くさせ、こちらを見つめている。

 そんな少女がまとっているのは翡翠色の袴が特徴的な巫女服だ。装飾や複雑さが一切無く洗礼されたデザインは、彼女の容姿やこの街と相まって神秘的な一体感を成している。


 それと――さっき見た像によく似ているのは、気のせいだろうか。

 そんなことより、ひとまず聞かなければならないことが多すぎる。


「ここは、どこですか…?」


「記憶が、無いの?」


 翡翠色の髪の少女は目を丸くさせ、こちらを見つめる。

 ――その瞳に、絶望ともとれる色を感じた。


「何も、分からないんです……」


「――私はドール。とにかく、ついてきて」


 こうして少女と「ドール」は歩み出した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「私の名前、ご存知ですか?」


 少女は淡い期待を込め、そうドールに問いかけてみる。

 今でも、不安が消えない。当然だろう。


「――ごめん、分からない」

 

「そう、ですよね…」


 少女は大きくため息をついた。


「――ガウム」


「……?」


「この名前をあげる」


 思いもよらないドールの発言に、少女は驚く。

「ガウム」という響きが、自然と馴染む。

 それに、これから生活するとなると、名前が無いというのも不便だろう。


「ありがとうございます」


 少女――ガウムの返事を聞くと、ドールは優しく微笑んだ。

 ドールからは、どこか不思議な雰囲気を感じるが、悪意のようなものは一切感じない。

 むしろ、一緒にいると落ち着く。


「……」


「……」


 二人は何も言葉を交わすことなく歩いていく。

 黙っていても居心地が悪い訳でもないので、無理に話す必要は無いと感じたからだ。

 それに、新しい情報が次から次へと流れ込んでくるガウムにとっては、会話をするほどの余裕がない。


 ドールは、ガウムが歩いてきた向きから方角を変えず、その道をずっと辿っていく。

 進むにつれ、城がどんどん大きく見えてくる。


「着いた」


 目の前にあるのは、この街にふさわしい真っ白な城。


「ここはホワイルティ。『始まりの城』とも呼ばれているわ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ