第1話 「溢れる悲しみ」
神の歌、第2章スタートです!よろしくお願いしますっ
「私達のもう一人の姉妹――キールが殺されるのを阻止しなければならないわ」
守誓式から約一ヶ月近く経った日のこと。
ドールに呼ばれて集まったのは、テール、カインド、カルムア、ナスタとレンカ、そしてガウムといった面々だった。
そんな中、告げられたドールの言葉は酷く重みを帯びて、心に伸し掛る。
キールはドールやテールのもう一人の姉妹、つまりガウムにとっての守るべき人ということだ。
そんなキールの命が狙われていて、動かないわけにはいかない。
張り詰めた空気の中、
「誰なの?キールのこと狙っているのは」
テールは純粋な疑問を投げかけた。
それは思って当然の疑問であり、この場の誰もが知りたいことだった。
「幻悪、ダチュラ・リシアン」
「――ダチュラ……それなら私が頑張らないといけないね」
テールの言葉は、幻悪と呼ばれた敵に有効な手段を持っているということだろう。
ダチュラはどんな手を使うのか。
「説明、してないね。ダチュラは幻悪、相手に幻を見せる能力がある。神はみんな、特別な力を持っていて。私は『夢』の神。ダチュラが見せる幻を上書きできるんだ」
――夢の神、テール。
神、誰しもが有する特別な力。この場に居るドールやカインドもその力を持っているはずだ。
「まだ、話していないわね。ガウム、この話が終わったら、この城の最上階にある部屋に行って」
「そっか、まだガウムは知らないのか」
最上階の部屋に、何かあるのだろうか。
知らないことが多すぎて、見当もつかない。
しかし、ガウムはドールの瞳が微か震えているのを見逃さなかった。
「――ガウムなら、あの部屋には入れるはずだから」
そう、ドールは呟いた。
その言葉が何の意味を持っているのか分からない。
ドールは深く、深く、溜息をつくと、
「場所は遠く西、海にあるラボよ」
地図を見せながら話したのは、キールの居場所だった。
ドールが示した場所は、ラルナグアから遠く、遠く西、海の真ん中だった。
海の真ん中に、ラボがあるというのか。
「このラボはキールが涙青石について研究をしている場所よ。涙青石には、まだ謎が多いから」
ガウム自身も涙青石の剣やイヤリングを身に付けている。
カルムアや、カインドも涙青石が使われた装飾品を身に付けている。
そんなガウムにとって身近な涙青石に謎が秘められているとは、思ってもいなかった。
「涙青石については、あっちでキールに話してもらおうか。出発は明日の日の出。準備をお願い」
全員がこくりと頷く。
突然の出来事にまだ若干驚きはある。
しかし、時間は待ってくれない。
だから――
「必ずお守り致します。キール様」
そう、これから出会うキールに誓った。
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「――カルムア様、よろしいでしょうか?」
「……大丈夫ですよ」
「失礼致します」
カルムアの自室に訪れたのは、瞳に普段とは違う光を宿したガウムだった。
「ガウムさん、どうし――」
「カルムア様、どうしてそんな目をしているんですか?」
ガウムは揺らぎのない瞳でこちらを見つめてくる。
もう、気が狂いそうだった。
「――っ」
感情に揺れ、立ち尽くすカルムアをガウムは静かに抱き寄せた。
その感触が温かくて、胸が痛い。
「あ……?」
何かが頬を伝う。紛れもない、カルムア自身の涙だ。
ガウムは、何も言わずにただ抱き締めてくれる。
ずっと、ずっとこのままで居たい。
「―――!」
今は、カルムアの啜り泣く声が、部屋に響くだけだった。
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ドールに呼ばれ、キールについての話があったときから、カルムアの様子に違和感を覚えていた。
――厳密には、キールの命を狙う「ダチュラ」の名が挙がったときからだった。
ずっと、何かを堪えるようなカルムアの表情が頭から離れない。
「ダチュラ・リシアンは、王族を…私を残して全員殺しました」
「っ!」
カルムアが嗚咽を堪えながら紡いだ言葉は、あまりにも残酷な事実だった。
カルムア以外の王族を見たことがないのも、守誓式で王族と星の数が釣り合わなかったのも、全て合点がいった。
「ダチュラはこの世の悪とされる存在、天使の1人です」
「天使……」
「まだ…最上階の部屋には行かれてませんよね?」
ドールが話していた最上階にある部屋。まだそこには足を運んでいない。
ガウムが頷くと、
「天使のことも、そこでわかるはずです」
カルムアは、一息間を開けると呟いた。
「――ガウムさんなら、あの部屋に入れるはずですから」