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神の歌  作者: おさかな
第一楽章 始まりの音
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第10話 「駆け出すは」

「じゃあガウムさん、まずは剣を構えてみてください」


 ガウムはできるだけ自然に剣を構えた。余計な力が入ってしまうと上手く斬ることができない。


「え…?」


 カルムアは軽く目を見張っていた。それが何を意味しているのかは分からない。


「ガウムさん、少し遠いかもしれませんが、あちらにある的を斬っていただけますか?」


 的までは三十メートルかそれ以上あるだろうか。

 思い切り踏み込めば一歩で届く距離だ。


 強く踏み込み、大きく跳躍する。振りかぶりながら剣に斬撃魔法を纏わせ、的を斬る。

 踏み込んでから一瞬で的は真っ二つになっていた。


「ガウムさーん!もう乱稽古やりましょー!」


「もうですか!?」


 驚きながら、カルムアの方に駆け寄る。


「ガウムさんの実力なら、平気で参加出来ると思います。心配いりませんよ!」


「私の剣の扱い方、あれで正しいんですか?」


「あれほど美しい剣さばきは本当に久しぶりに見ました……」


 目を見張るカルムアからは、本当に驚いている様子が伝わる。

 ――でも、少し様子がいつもと違う気がした。


「どうされましたか?」


「――あ、ごめんなさい!なんか、その何かがつっかえるような感じがして」


 カルムア自身も分からない違和感。

 気になるところではあるが、重大な障害にはなっていないだろう。

 それならば――


「皆様!乱稽古の準備が出来ましたー!」


「よし!やるか!」


「やりましょ!」


 ガウムにできることは乱稽古に向き合うことだけだ。


「ガウムも初めてだし、チームにする?」


「そうね。そしたら、どちらか人数不利になるけどいい?」


 ドールの問いかけに全員が頷いた。


「そしたら、相手チームの全員を追い詰めたら勝ちでいい?」


「ええ!ガウム、テール、カルムアのチーム、そして兄上と私のチームで戦いましょ!」


「よろしくー!」


「頑張りましょ!」


「よろしくお願いします!」


 同じチームに居るテールがどうやって戦うのかがとても気になる。


「じゃあ、早速始めますか!」

「よっしゃあ!」

「俺久しぶりに戦うわ」

「だとしても強いですもん、絶対」


 全員が位置についた。向かい側には楽しそうなドールとカインドがいる。

 右を見ると、テールがいつの間にか弓を握っていた。


「テールさんって弓で戦うんですか?」


「あ、そっか!言ってなかったもんね!私は射撃魔法の使い手なんだよ~!」


「テール様は、射撃魔法の使い手で最も強いお方なんですよ!」


 斬撃魔法、そして射撃魔法の使い手の最強がいるのはとても心強い。しかし、あちらには神の中で最も強いドールが居る。油断は全く出来ない状況だ。


「準備はいい?」


 先程までの賑やかな雰囲気とは打って変わり、静けさに満たされたこの空間で、それぞれが構えを見せる。

 ――乱稽古が始まるのだ。


 ほんの僅かな空気の変化を感じ取ったガウムは、とっさに踏み出していた。

 横を見ると、カルムアが、後ろを一瞬振り向くとテールがいた。そこから察するに、ガウム、カルムアが前に出て斬りかかり、テールが後ろから射撃で援護する形になるようだ。


 ドールが軽やかに走り回りながらこちらの様子を窺っている。

 そのドールを目掛けて放たれたのは目で追うのが不可能な速さの矢。テールのものだ。

 しかし、矢の進む方には、狙っていたはずのドールが居なくなっていた。

 ガウムは、ドールの居場所を把握するために辺りを見回した。すると――


「ガウム!受け止めてみて!」


 頭上から拳を振り上げたドールがガウムに向かって勢いよく飛び込んできた。ガウムは、咄嗟にそのドールの拳を剣で受け止めた。ドールの勢いを利用し、そのまま受け流す。


「兄上!」


「ラヴェン!」


 ドール達のスタート地点付近に居るカインドが何かを叫んだ。そのカインドの視線の先、城の窓を見ると、鳥がこちらに向かって飛んできている。

 かなりの速さで迫り来る鳥はカインドの肩に留まった。

 三十~四十センチメートルほどの白い鷹のような鳥だった。鋭い金色の瞳でこちらを睨みつけている。


「頼んだぞ!」


 カインドがその鳥を放った――その直後、目の前に現れたのだ。ガウムが居た場所とカインドが居た場所は八十メートルほど離れていたはずだ。一秒にも満たない速度で詰めてきたのだ。きっと、ガウムに突っ込んでくるつもりなのだろう。

 ガウムは直感的に横へ跳び、直撃を免れた。


「ガウムさん!カインド様は任せてください!」


 カルムアに頷き、カインドのことは任せることにした。カルムアならば心配いらない。


 状況を把握するために、スタート地点に戻ろうとした時、後ろから何かが迫ってくる気配がした。咄嗟に後ろを振り向くと、ドールがガウムに殴りかかろうとしている。しかし、守りに徹するだけではつまらない。

 ガウムはドールを飛び越し、背後に回る。そして、ドールに向かって剣を振り下ろす――はずだった。

 ――ドールの蹴りが、剣を受け止めていたのだ。


「ガウム!ありがとう!」


 テールがそう言った瞬間、ガウムの頬を矢が掠めた。

 ガウムは無意識にドールの隙を生み出していたのだ。


「あ、刺さっちゃった」


 テールが放った矢は真っ直ぐ軌道を描き、ドールの肩に突き刺さった。それなのにも関わらず、全く痛い素振りを見せていない。そしてドールは今も脚で剣を受け止めながら、「えいっ」と肩に刺さった矢を抜いた。


 今、頭上辺りで剣を止められている。ならば、下から斬るしかない。

 テールが作ってくれたチャンス、逃す訳にはいかない。狙いをドールの腹部辺りに変更し、なるべく動きを悟られないように一瞬で剣を振る。


 やはり、どれだけ気をつけようとドールには敵わない。ガウムの少しの動きだけで何をするかを読んだドールはガウムに拳を振り上げた。

 しかし、ガウムの動きを見てから行動に移したドールよりも、僅かにガウムの方が速い。

 そして――ガウムの剣が、ドールの腹部を斬るギリギリで止まった。


「追い…詰めた……?」


「さすが、私との勝負はガウム達の勝ち!あとは兄上達の結果によるね」


 カルムアとカインドが居る方を向くと、結果は一目瞭然だ。カインドの首すれすれの位置にカルムアの剣がある。つまり――


「私達の勝ち…!」


「やったー!」


「カルムア、お前強くなったな!」


「ありがとうございます!」


 本当のことを言ってしまうと、カインドは分からないが、ドールは力を全て出している訳では無い。

 この乱稽古には「ガウムの実力を確かめる」という趣旨も含まれていただろう。

 だとしても、勝ちは勝ちだ。


「ここまで戦えるならもう良いよね!ガウム、後で私のとこ来て!」


「何かあるんですか?」


「新しい剣をあげる!」


「良かったね!ガウム!」


 思わぬプレゼントにガウムは目を輝かせるのであった。

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