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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第四章 ?
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七十九話 遺骨

「「なかった!?」」


 戻ってきた子どもらは、揃って大きな声をあげた。


「ああ、戻って隅々まで探したが、一切そのようなものは無かった」


 風宮の者全員で探したようだが、望緒が見たという、赤い冊子の本はどこにも無かったらしい。

 風宮の当主は、彼女のことを疑うように見つめる。


「本当に見たのか?」


「ありました……あったはずなんです……」


 無かった、とはっきり言われてしまうと、自信がなくなる。あの時自分が見たものは、本当にこの世に存在していたのだろうか。


 しかし、実際に手に取った。紙の匂いも確かにしたはずだ。


「……八下様とのご意見と一致しているのなら、事実なのでは?」


 藤花は疑っている祖父に対して、意見する。彼は僅かに眉間に皺を寄せるが、すぐに平静に戻る。


「もし火夜という者が置き、また持って行ったのだとしても、それを証明する術はない」


 彼の言葉に、望緒は自身の腕を悔しそうに掴むことしかできなかった。


 そもそも、火夜は死んでいるのだ。本を置くことも、取ることもできるはずもない。誰も信じれなくて当然の話ではある。


「あ、ねえ! 祠! 祠は?」


 そんな時、朝陽がパッと思い出したかのように、口にした。視線は一気に彼女の方へ向けられる。


「火夜っていう子どもが殺されて、その子の死体が祠に入れられたんでしょ? だったら、そこに行ってみればいいんじゃない?」


「朝陽、別にそこに行ったって、このことが証明できるわけじゃ……」


「でもでも、行ってみる価値がないわけじゃなくない? 風宮のご当主もそう思うでしょ?」


 彼女は光雅の言葉を遮り、風宮の当主に賛同を求める。彼は特段表情を変えるわけでもなく、一つため息を着いただけ。


「……全員で行くわけにも行かぬな」


 彼が言うと、朝陽含めた子どもらの顔が、少しばかり明るくなる。


望緒そとのものは行くべきだな。言い出した朝陽おまえも行け。他はどうする」


「僕も同行します。藤花には、できるだけ残っていてもらいたいけど……」


 日向が振り向くと、藤花は一つ頷いて、同意を示した。


「子どもだけでは危険だな。ワシも行こう」


 どうやら、雄太郎も着いてきてくれるようだ。一番怪しんでいた風宮の当主は、行く気が無さそうである。


 彼が一つ返事をしたところで、これまで招集の場では一切喋らなかった闇戸が、八下に問いかけた。


『八下はどうするのだ』


 彼が喋ることで、少々場がザワつくが、それもすぐに収まり、意識は八下へと向けられる。


「––––俺は……あまり……」


 行きたくない、ということだろう。苦々しい表情を浮かべながら、自身の腕をギュッと握っている。


 望緒はそれを察すると、


「なら、飛希とさっくんには残っててもらいたいかな」


 その提案に、二人ともすぐに頷いた。

 望緒は飛希の肩をちょいちょいと叩き、耳を貸すように言う。


「さっきの、八下を石火矢に招いてくれるって話、真澄さんたちに話しておいて」


「! わかった」


 そんな話をしていると、雄太郎が手を叩いて、


「よし、行くなら早いうちの方がいい。行くぞ」



 八下に教えてもらった場所は、どこの家系の管轄下にもない山だ。祠のある位置は、それほど山頂ではないらしいが、麓付近にある訳でもないらしい。


 とりあえず、今は麓にたどり着いた。ここから、祠がある場所まで歩いていく。

 しかし、ここら辺は整備されておらず、つくらていたであろう山道は、すでに荒廃していた。


 草木は無造作に生え、とても歩きやすいと言える道ではない。


「歩きにくっ。二人とも、大丈夫?」


「一応……」

「なんとか……」


 とは言うものの、やはり歩きにくい。高低差が激しいため、脚が疲れる。岩場では、何度か日向や雄太郎に引き上げてもらっている。


 普段は元気な朝陽でさえ、疲れている様子だった。


「あれか?」


 なんとか歩いていると、突然雄太郎が立ち止まり、遠くにある物体を指さした。

 近寄ってみると、それは確かに木で出来た祠だった。


 とは言っても、それはもうボロボロで、苔も生え揃っている。雄太郎が恐る恐る扉を開いてみると、鼻を突く異臭が辺りに蔓延した。

 望緒はあまりの匂いに、鼻をつまむ。


「うえ、くさーい」


「カビの匂いですかね……。死臭とはまた違う臭さが……」


 朝陽と日向も、望緒と同様に鼻をつまんでいた。


「これ以上開けたくないな……」


 開けた張本人でさえ、この反応である。しかし、開けなければ中身を確認することができない。

 だから、彼らは嫌々ながらも祠の戸を全開にする。


 中にあったものを見て、その場にいた者たちは戦慄した。


「何これ……」


「……これが、匂いの原因だったか」


 祠の中にあったのは、ドロドロとした物体だった。


「え、これ何ですか?」


 朝陽が雄太郎に聞く。雄太郎は、僅かな時間黙り込むが、すぐに口を開いた。


「恐らく、火夜の骨だった物だろう。時間が経ちすぎて、骨すらも残っていないんだ」


 火夜が祠に入れられたのは、千年近くも前の話だ。あまりに昔のことすぎて、骨なんて残るはずも無い。


「……どうするんですか、これ」


 望緒が尋ねるが、雄太郎はすぐには答えない。これをどうするべきなのかを、考えているのだろう。


「とりあえず、このことを他の者たちにも伝えて、それから考えよう。ワシの一存ではどうすることもできん」


 言うと、彼はおもむろに立ち上がった。


「一度、向こうへ戻ってこのことを報告しよう」



 四人は、戻って祠とその状況について説明した。反応はそれぞれ違う。口を抑えて言葉を失っている者や、険しい表情で考え込む者。


 風宮の当主は、一つ息を吐いて、


「祠が確認できたということは、火夜という者の話は、少なくとも嘘ではないということになるな」


「彼女が見たという本も、また探してみよう……か……」


 雷久保の当主の言葉が、そこで途切れる。彼は、何かに気づいたような表情をしていた。

 それは、彼だけではなく、他の当主たちも同じだった。––––そして、望緒と八下も。


 望緒は空気が変わるのを感じた。歪んでいる。何かがおかしい。


「––––結界……?」

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