七十八話 利点ではなく
ある程度話し終えたところで、招集は一時解散。今、望緒は子どもたちと八下で集まっている。
「––––で、どういうことなの? あの本を火夜が置いたのかもしれないって……」
「ほんとに、ただの勘なんだ。そもそも、火夜は死んでるはずだから、置けるはずはないんだけどな……」
「それを大人には?」
日向が八下に問う。
「もちろん、言った。今、お前のとこの当主が本があるかの確認に行ってくれてるよ」
八下がここにいるのは、あまりに顔色が悪かったため、外にいた方がいいということだった。
たしかに、望緒が彼を見た時、どこからどう見ても顔色がいいとは言えなかった。
「まあ、正直そこは俺ら役立たへんから、大人に任せるとして。八下様は一体、どこ住む気なん?」
「え……ああ、どうしような。前は屋敷みたいなのがあったけど」
「その屋敷、もう無いんとちゃう?」
爽玖の発言に、一同は黙る。
彼の言っている屋敷は、恐らくもうない。あったとしても、残骸がある程度だろう。あったというのは、もう千年近くも前の話。
今までの“八下の存在”というものを考えたら、残されているとは、到底思えない。
「まあ、そこら辺の竹藪とかで過ごせば––––」
「いやダメだよ?」
望緒は、野宿をしようとする彼を当然のように止める。一体、どこからその発想が生まれてくるのだろうか。
「あの、許可取ってないんで何とも言えないんですけど、うち住みますか?」
その発言に、皆は振り向く。発言の主は飛希だった。しかし、それを遮るのは闇戸。
『なぜだ、出水に住めばいいだろう。我の傍にいればいい』
「はあ? 何言うとんねん。つか、話遮んなや」
『知ったことか。同じ神の元である我といた方が––––』
「闇戸、一回黙って」
八下が言うと、まだ何か言おうとしていた闇戸が、黙り込んだ。爽玖は感心したように、
「うわすご……あんなクソ我儘な闇戸を一瞬で黙らせた」
「それで、飛希だったか? お前が俺を家に置くことの利点は、正直ないと思うんだけど」
「利点がどうとかじゃなくて、単に見知った人がいる方がいいと思って。出水でも闇戸様がいますけど、人間の方は全然知らないでしょう?」
見知った人というのは、望緒のことだろう。家にいるというのなら、気軽に話せる者は必要。だから、飛希はこの提案をした。
出水には闇戸がいるが、彼は基本的に滝に住む。八下が過ごすのは家のため、一緒にいることは、現実的ではない。
「だから、石火矢に泊まったらいいと思ったんですけど……」
「真澄さんたちがいいって言うんなら、私もいいと思う。八下は?」
「まあ……泊まらせて貰えるんなら、それはありがたい限りだけど……」
「じゃあ、決まりですね」
あとは、雄太郎や徳彦たちに、許可を取るだけ。しかしまあ、闇戸は不服そうである。それを、爽玖は笑いながら慰めた。
そんな中、千夏がててっと望緒の方へ駆け寄ってきた。そしてそのまま、彼女に抱きつく。
「どうしたの? つまんない?」
「んーん、ちゃう。久しぶりに望緒に会えたから」
甘えたような声。先程から一言も話していなかったが、何かあったのだろうか。
「あー悪い。今そいつ疲れとんねん」
「疲れてる? 招集があったから?」
あの場は、誰にとっても堅苦しいと言える場所だった。十五歳でかつ末っ子の千夏にとっては、疲れる場所でもおかしくはない。
「それもあるんやけど、最近は鍛錬をよう頑張っとってさ。その疲れがどっと来たんやろ」
「そうなの」
「千夏、ほら戻ってこい。抱きつくんなら俺でもええやろ」
「嫌や。お兄ちゃんの身体は硬いもん」
「お前な……望緒にあんま迷惑かけんな」
そう言って爽玖は、望緒から千夏を引き剥がそうとする。が、千夏は望緒の着物をガッチリと掴んで離れない。
無言の抵抗だ。
「さっくん、私は大丈夫だから。好きにさせてあげてよ」
望緒が言うと、爽玖は不服ながらも、納得したように千夏を掴んでいた手を離した。
「千夏ちゃんかわい〜。あたしも望緒ちゃんに甘えちゃおっかな〜」
朝陽がおどけて言うと、千夏は頬をハムスターのように膨らませ、不満を全力で表す。それに朝陽はケラケラと笑った。
「あはは、睨まれちゃった」
「望緒さん、面倒見いいですね」
藤花が意外そうに、そう口にする。
「一応お姉ちゃんでしたからね。……ほんとに一応」
「なんかすみません……」
疎まれてはいたが、望緒は一応姉である。嫌われていたから、面倒を見たことは、片手で数えられる程しかないが。
「あの……僕の名前、よく知ってましたね。招集の時にも、別に呼ばれてはなかったと思うんですけど」
飛希は、そう八下に質問する。
「望緒から、何回かお前の話聞いてたからさ。話の内容からしても、お前のことだろうなって」
「お、お世話! お世話になってるからね! 石火矢の話題はいっぱいあるからさ!」
望緒は恥ずかしさからか、顔を真っ赤にし、誤魔化すように捲し立てた。
それを、朝陽だけは笑みを抑えきれずにいる。バレないように口元を手で覆っているが、望緒本人にはバレバレだ。
「……そうなんだ」
飛希は、何とも言えない表情をしていたが。
そんなやり取りをしていると、爽玖たちの父親である、碧人が、戻ってくるようにと言いに来た。




