七十七話 来たる招集の日
翌日、望緒たちは風宮の屋敷に集まっていた。屋敷に入ると、彼らの使用人が客間へと案内をしてくれる。
襖を開けられると、望緒は座っていた風宮の当主と、バッチリ目が合ってしまった。彼女は気まずさから、咄嗟に目を逸らす。
部屋には既に他の三家が集まっており、それぞれが家ごとに固まって座っていた。
だが、当主が––––他の者全員が見ていたのは、望緒ではなく、その後ろにいる八下だ。皆、食い入るように彼のことを、ジッと見ている。
「こっち来い」
爽玖が自身の隣を、ポンポンと叩く。飛希と望緒は言われるがまま、そこへ座り、それに続いて真澄たちも座った。
彼らが座っても、視線は常に八下に向けられていた。
誰も話さないでいると、風宮の当主が一つ咳払いをする。
「それで、今回は八下様の復活……ということで良いな」
「ああ」
「本当にそちらが八下様なのか」
「その髪色、瞳ともに、文献に書かれている通りですな」
雄太郎の返事の後に、出水、雷久保もそれぞれ思うことを口にする。八下はどこか気まずそうにしている。どこか疑われているような、そんな空気があるから。
「……それで、なぜ望緒が復活をさせられる?」
そう言った風宮の当主の表情は、とてもじゃないが穏やかではない。不満が顔に出ている上、憤りのようなものさえ感じる。
望緒はそのピリついた空気に、思わずしり込みした。
しかし、ここで説明をしないわけにもいかない。他の者に任せるのもよろしくない、そんな気がする。
「あ、えっと……」
緊張感で口ごもっていると、飛希が他の者に気取られぬように、軽く背中に手を当ててくれた。チラっと彼の方を見ると、軽く笑う。
その横で、爽玖と千夏も応援の視線を向けてくれる。
彼女はそれで少し緊張がほぐれ、より落ち着く為に、そして意気込みも兼ねて、息を一つ吐く。
「私は、出水に来た時から、八下と話すことができました」
それを聞いた、事情を知らない者たちは、皆驚きの表情を浮かべる。
風宮の当主は、さらに険しい顔をした。
「ならば、なぜその時に言わなかった」
「……言ったとしても、信じてもらえないと思ったので」
「勝手に判断して、勝手に言わなかったのか? 石火矢にも」
そう言われると、望緒は少しばかり苦々しげな表情をするが、それもすぐに戻し、平静を保つ。
「怖かったんです。自分の言うことを否定されると思うと、余計に……嘘を言っていると思われたら、どうしようって。真澄さんたちが、そういうことを言う人達じゃないっていうのは、今となってはしっかり理解してます。でも、初めのうちはそうもいかなくて……」
「仮にあの時言われたとて、私は信じなかったと思う」
彼女らが話していると、出水の当主が割って入る。彼は顎髭を触りながら、
「望緒さんは、向こうの空間から来た者だ。それ自体は何の問題もない。だが、それが神と話せると言ったら、少なくとも私は信じなかった。それは、皆様方も同じでは?」
出水の当主の発言に、一同は何も言わない。否定も肯定もしない。これはつまり、そういうことだ。
望緒はわかっていたが、実際に聞くと、心にくるものがある。が、自分の判断は、あながち間違いではなかったということは知れた。
「だがしかし、どうやって話せたので? つい最近まで、八下様のお身体はバラバラだったはず」
「それは俺から説明しよう」
雷久保の当主の問いかけに答えたのは、八下本人だ。
「まず、望緒は特殊なんだ。向こうの神の血を引いてる……とか、そういう感じの。だから、俺が入れる隙があった。それを利用して、俺が自分の精神世界に、望緒を呼んだんだ」
「なんと……」
「その時に、まあ、雑談だとか、現世の状況だったりとかを、望緒から聞いてた。……闇戸のこともな」
八下は爽玖の方を見ながら、ふっと微笑んだ。爽玖の中にいる闇戸が、それに返した、そんな気もする。
「では次に、なぜ八下様は四肢がバラバラになっていたのですか? それに、首は一体……」
「首に関しては、私の元いた空間にありました」
「どういうことだ?」
彼らの疑問に、八下は暗い顔をして、話すのを渋っている様子だった。
「千年前、火と風の間に生まれた子どもに、四肢も首も切られてな。頭部は、そいつが向こうの空間に持って行った」
八下が言うと、一気にザワザワとした雰囲気になる。当たり前だ。
彼らは、四家同士では婚姻関係を結べない、そういう決まりの中で生きてきたのだから。
「火と風の間に生まれた子、とは、どういうことですかな?」
雄太郎は、驚いているような、でもどこか冷静な口調で、八下に尋ねる。
それに八下は、望緒にも話した、火夜の生い立ちとその後について、一から丁寧に説明をした。
話を聞いた当主たちは、なんてことだと嘆くように頭を抱えた。
「まさかそんなことが……」
口々に嘆いている中、爽玖が口を挟む。
「なあ、それ、望緒は知っとったん?」
「え、うん。私がそれを知って、八下に直接どういうことか聞いたから……」
「……望緒が知っとることを、なんで当主のあんたらが知らんの?」
彼の言葉に、その場にいる者たちは黙り込む。そして、少し考えたあと、出水の当主が望緒に一つ質問を投げかける。
「望緒さん、それはどこで知った?」
「えっと……風宮の図書の間で……」
「待て、そんな本があるなんて、聞いたことがないぞ」
「僕も読んだことはないですね。そもそも、目にしたことすらあるかどうか……」
風宮の当主に続き、日向もそう口にする。
望緒はそれを聞いて、不思議に思う。確かに、あの本は辺鄙な場所にあったが、あれだけ赤い表紙ならば、いやでも目に着きそうなもの。
だが、彼らは知らないという。
どういうことかと思った望緒は、八下の方をチラッと見る。すると、彼女は目を見開いた。
彼の顔色は、明らかに優れていなかった。だが、体調が悪いというわけでは無さそうだ。
まるで何かに怯えているのではないか、とでも思えてしまう程、怖い顔をしていた。
「八下、大丈夫?」
「えっ、ああ……いや、大丈夫……」
そうは言っているが、脚に乗せている手は、グッと力が入ったままだ。
まさかそんなはずはない。そう思っているのは、一体誰だったか。




