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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
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七十六話 話したい

 “念”が消えると同時に、ヤツが出していた分身も消えていった。


「……終わった」


 呟くと、朝陽はフッと意識が遠のき、足から崩れ落ちる。


「朝陽!」


 光雅は走って朝陽が倒れるすんでのところで、彼女の身体を抱えた。朝陽は疲れのせいか、気絶してしまったようだ。

 そしてそのまま光雅は娘を抱き上げ、徳彦と飛希を連れて、神社へ戻っていった。



「飛希……!」


 望緒は戻ってきた飛希たちに駆け寄った。その時、朝陽のぐったりとした姿を見て驚くが、大事無いことを知ると、ホッと安堵のため息をつく。

 それに続くかのようにして、晃那と雷久保の当主も駆け寄ってきた。


 二人は安心したような表情を浮かべている。


「終わったのか」


「あ、父さんに真澄……と、えっと?」


 徳彦は二人の後ろにいた、水色と白の髪をした男性がいるのが目に入った。誰なのかがわからず、キョトンとした表情を飛希と共にしている。


「あぁ……八下様だ」


 八下、その単語を聞き、それをまだ知らなかった三人は大きな声をあげて驚く。紹介された当の本人は、気まずそうな表情を浮かべていた。



「––––と、まあこんな感じで……」


 望緒は四人が戦っている間に、何が起こったのかを詳細に話した。飛希は予め八下の存在は認知していたので、容易に理解していたが、他はそうにもいかない。


 目を何度も瞬きさせ、八下と望緒のことを交互に見ている。八下はというと、とても気まずそうに下を向いていた。

 そんななんとも形容しがたい空気の中、口を開いたのは雷久保の当主。


「ふむ、この前徳彦くんが言っていた話し合いというのは、このことかな?」


「え、あ……はい」


「話し合いをする以前に、八下様が戻ってきたということか。これは、風宮が黙ってないだろうな」


 雄太郎の言葉に、その場にいる全員が黙った。そんな時、部屋の外からドタドタという大きな音と、晃那の誰かを止めようとする声が聞こえてきた。

 なんだと思っていると、襖が勢いよく音を立てて開く。立っていたのは、朝陽だ。


「ごめん、めっちゃ寝てた! 今何の話……って誰ぇ!?」


 彼女は話し出したと思ったら、八下の姿を見るなり一人で驚き出した。

 そして、彼女は八下の元に寄り、その姿をよく観察してみる。彼は見られることが嫌なのか、身体を横に少々仰け反らせる。


「ちょっと朝陽、失礼でしょ? というか、まだ寝てた方が……」


「大丈夫だって。そんで、この人誰なの?」


「八下様よ」


「えええええ!」


 朝陽の大きな声が部屋中に響く。八下はその声にビクッと肩を跳ねさせた。朝陽はというと、八下のことを四方八方から眺めている。あまりに見るものだから、晃那が怒って引き剥がした。


 それを見て軽く笑った雷久保の当主は、一つ息を吐いて話し出す。


「さて、こうなっては、前に言っていた話し合いは、向こうの返事を待っている場合ではないな。緊急招集といこうか。招集の文は、私が書こう」


「ありがとうございます」


 と、いうことは、雷久保にいられるのも残りわずかというわけだ。望緒はそう思うと、途端に寂しくなり、朝陽をチラッと見つめた。

 すると、目がしっかりと合ってしまった。朝陽は歯を見せて笑うが、望緒はなんだか気恥ずかしくて、目を逸らしてしまった。


 大人たちはそれぞれ緊急招集に向けて準備をしないといけないそうだ。望緒たちは部屋に取り残される。少しばかり気まずい空気が流れる。


「……あ、えっと。八下、大丈夫? さっきからなんにも喋ってないけど……」


「えっ、ああ、大丈夫……。ただ、思ってたより四家が変わってたから、びっくりしただけで」


 彼の言葉に望緒はキョトンとするが、すぐにその言葉の意味がわかった。


 八下がまだ現世にいたころは、四家は彼をこれでもかという程、崇拝していた。しかし、今となっては、八下は存在はしていたが崇拝する程の存在ではない、というのが彼らだ。


 祀ってはいる。敬意がないわけではない。だが、意味もなく持ち上げるようなことはしないだろう。風宮はわからないが。


「ねえねえ、あたし、もっと八下様と話してみたい!」


「え、俺と?」


「だって本物だよ? 今まで本の中でしか見なかった存在が、今目の前にいるんだもん! 話さなきゃ損ってもんでしょ!」


「そういうもんか……?」


 八下は少々困惑しながら、望緒に疑問をぶつける。彼女は笑いながら「そういうものだよ」と答えた。


「それもいいですけど、仕事しなくて大丈夫ですか?」


 そんな話をしていると、飛希が割って入ってくる。


「いやまあ、した方がいいんだろうけど、巫女あたしらはやることあっても、飛希くんはなんもすることなくない? 事務仕事って大人があれしてこれしてって言うでしょ。一人だけじゃできなくない?」


「う、それはたしかに……」


「ほらね! お話しかすることないんだって! ねえ、いいですよね?」


 朝陽の勢いに八下は驚いているが、すぐに軽く微笑んで


「お前らがそれでいいんなら、俺はいいよ」


「やったー! じゃあね、まずは––––」



「おい闇戸!」


 爽玖は何やら慌てた様子で、闇戸のいる滝へ走ってきた。


『なんだ、騒々しい』


「朗報や。八下様が復活したらしい。今度の集まりの時、やっと再会できんで」


『……ふっ、そうか』



「お爺様、失礼します」


 日向は拝殿の障子を開け、中にいる風宮の当主の背中に声をかける。そして、一通の文を畳の上に置いた。


「こちら、緊急招集の文です。もちろん、拒否権はございません」


「……そうか。それで、なんの招集だ」


「八下様のお話だそうです」


 日向が言うと、風宮の当主はふうと息を吐いて、口を開く。


「はっ、なんだ。どこか四肢に異常なところでも見つけたのか?」


「いえ。八下様が復活したそうです」


 その言葉を聞いて、風宮の当主は目を見開いた。そして、ゆっくりと日向の方へ振り返る。


「何……?」


 招集は翌日。四家の本家全員が集まる招集であり、断ることはできない。

 千年帰ってこなかった神と、ようやっと対面できる日となる。

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