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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
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七十二話 恐み恐み

「やっとついた……」


 望緒は息を切らしながらそう呟いた。目の前には、あの日から何も変わっていない廃神社だ。


「ねえ、八下の頭ってどこにあるの?」


『社の中のはずだ。そこから気配を感じる』


「社……って……」


 この神社にある社は、倒壊した社しかない。つまり、この中に入らないと八下の頭部を取り返すことはできない。

 ただ、それはかなりの危険が伴う行為。もしも中に入って、さらに崩れだしたら、帰るどころの話ではない。


「でも、行かないとなんだよね……」


『危ないから、結界を周りに張りながら中に入れ』


「あ、なるほど」


 望緒はポンッと手を叩いて、納得したような反応をした。

 そして、持っていた札を一枚取り出し、指で挟んで手を伸ばす。ゆっくりと瞳を閉じ、息を一つ吐いて結界を創った。


 そして、目を開き、目の前にある社へと足を運ぶ。中には簡単には入れなさそうであったが、隙間を見つけて覗き込む。

 すると、水色の結界に守られている何かを見つけた。目を凝らしてみると、それは確かに八下の頭部だ。


「あ、あった!」


 望緒は手を伸ばしてみるが、まったく届きそうにない。社の周りをぐるぐると回っていると、彼女がギリギリ入れそうな隙間があった。怪我をしないように慎重に入る。


 崩れてこないよう、大きくは歩かずに頭部の近くに寄る。


「ねえ、この結界ってどうしたらいいの?」


 大きな結界ではないが、八下の頭部の周りを覆っている。これでは、取るに取れない。


『お前なら多分、すり抜けて取れるはずだ。そしたら自然に消えるから、後は放置してもらって構わない』


「わ、わかった」


 恐る恐る結界に触れてみると、手は結界に触れることなくすり抜けた。望緒は頭部を手に取り持ち上げるが、思っていたよりも重く、腰が抜けそうになる。


 しかし、持てない重さではないため、しっかりと腕に抱え込み、静かに社の外に出た。


「……っはあ、疲れた……」


 これからが大変だというのに、もう疲れてしまった。


『ありがとう』


「うん。ねえ、戻るのはどうしたらいいの?」


『行きと同じだ。あっちの空間を想像して。望緒の大事な奴らを強く想って』


「強く……」


 そう呟いて、望緒は目を閉じる。そして、あの空間を想像する。石火矢の神社、綺麗な滝に稲穂。そして、望緒を想ってくれる人たちのことを。


 想像を続けていると、望緒は十数年間過ごした空間から、姿を消した。



 目を開けると、そこは雷久保の鳥居の前。望緒は、頭部を持ったまま、真澄がいるであろう医務室へ向かった。


 医務室へ向かうと、そこには布団に寝かされている怪我人と、それを看病している雷久保の当主と晃那の姿があった。


「あ、巫女さん。真澄さんならあっちの部屋にいらっしゃいます」


 晃那に言われると、望緒は急ぎ足で言われた部屋へ向かった。

 部屋には真澄と雄太郎、そして桐箱が四つ置かれていた。望緒は思わず小さな声を漏らす。


「あれ……私てっきり、これから四肢を貸してもらいに行くのかとばかり……」


「私もそうなるかとばかり思っていたんだけどね。爽玖くんにも来てもらって、龗ノ龍が半ば強引に貸せって命令を……」


 真澄はそう言って苦笑する。望緒はその場にいなかったが、なんとなく、闇戸がどういう雰囲気で、どういう口調で言っていたのかが、予想できてしまう。


「さっくんたちは来なかったんですか?」


「ええ。なんでも、龗ノ龍がうるさくなるからって」


 望緒はそれを聞いて、なるほどと小さく呆れ気味に呟いた。八下が帰ってきた時、真っ先に騒ぎ立てるのは、恐らく彼だ。さすがに今騒ぎ立てられても面倒なだけ。


 もしも、八下が帰ってきてもこの問題がどうにもならなかったその時は、こちらに来てくれるという方針だろう。


「それで、八下。私は何をしたらいい?」


『まず、陣を書いてくれ。その上に、俺の頭部や四肢を切断部と合うように置いてほしい』


 望緒はわかったと返事をし、言われた通りに陣を書いて、その上に八下の切断されたそれぞれを置いた。


『それが終わったら、次は儀式。札を前に掲げて、詠唱を唱える。札はなんでもいい。最悪まっさらでも問題は無い』


「わ、わかった」


 そう言って望緒は、普段結界術で使っている札を懐から取り出す。


『いいか、詠唱は一言一句間違えることは許されない。言い間違えたら一からやり直しだ。よく聞いて』


「うん」


 望緒の返事と共に、八下が詠唱を言い始める。彼女もそれと同時に、詠唱を紡ぎ出す。


けまくもかしこき八下の大神よ。世を生み、名のみを残す御方よ。今が厄災の時となり、汝のちから必要とせしめん。世の罪穢れを清め祓え給へと、かしこかしこみを申す」


 彼女が詠唱を紡ぐと、陣が白くパッとまばゆいほどに輝く。望緒たちはあまりの眩しさに、目を閉じた。光が収まり目を開けると、望緒は思わず目を見開いた。先程まで離れていた四肢や頭部が、ピタリとくっついているではないか。


 しかし、それが動くことはない。望緒は失敗でもしてしまったのかと思い、眠っている八下の顔を覗き込む。すると、彼の目がバッと開き、勢いよく起き上がった。

 望緒は急な出来事に驚き、思わずよろける。彼女の横にいた真澄と雄太郎も、驚きを隠せないでいた。


「や、八下……?」


「おい、俺、生きてる!?」


「え!? え、うん。生きてる……のかな」


「よし、すぐに怪我人のとこに!」


「あ、はい。こちらです!」

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