表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
69/73

六十九話 軽くなるように

「……」


 徳彦は部屋で一人、三家から送られてきた返事の手紙を読んでいる。三家と言っても、やはり風宮からは、すぐには届かなかった。


「やっぱり、すぐには集まれないかー……」


 最近はどこでも“念”の出現頻度が高まっているらしく、なかなか暇という暇が取れない。それに、全ての神社が一気に空けることは難しいだろう。


「あまりいい予感はしないんだよな……」



「望緒ちゃん、徳彦さんから話し合いのこと聞いたー?」


 授与所に座っていると、奥から戻ってきた朝陽が話しかけてきた。


「あ、はい」


 この口ぶりだと恐らく、誰が話すのかは言っていないのだろう。望緒も自分だと言うのは、あまり気が進まないし、朝陽もまさか、望緒が話すとは思っていないのだろう。


「……あの、“念”の方は、どんな感じですか?」


「ん〜、村への被害が出てるとかでは無いんだけど、度々襲われそうになってる人もいるらしいから、安心とは言えないよね」


「やっぱりそうなんですね。最近、出水や風宮でも、“念”の出現が増えてるらしいから、心配で」


 この状況を打破するには、八下を元に戻すしか方法がないのかもしれない、という懸念もあった。“念”をどうにかしたい。ただ、八下の気持ちを無碍むげにもしたくない。


 ––––どうするのが正解なんだろう。


「……望緒ちゃん、今日は久しぶりに、結界術の練習しない?」


「え、結界術のですか?」


「うん。最近あたしに着いてきてもらうとかしてなかったし、それに結界を創れる範囲が広くなったら、便利でしょ?」


「それもそうですね」


 そうして、二人は仕事が終わると、前と同じく道場へ向かった。


「さて、久々にやるわけだけど、できそう?」


「霊力込める練習とかは、隙間見てやってたので、多分……」


 自信はないわけだが。


「じゃ、一回やってみよ! もしできなかったとしても、落ち込まなくて大丈夫だからね」


「はい……!」


 望緒は札を取り出し、指で挟む。目を閉じ、霊力の流れを感じ取る。それを札目掛けて集約させる。すると、文字が赤く光った。それと同時に、望緒の周りに半透明の赤い半球が出来上がる。


 おさらいでやってみたが、前よりも遥かにスムーズに結界を創れている。しばらく実践していなかったとはいえ、身体は覚えていたようだ。


「お、いいじゃん。できてるよ。あとはそれを、頑丈さはそのままで、範囲を広くできたらもう完璧!」


 簡単に言ってくれるが、すぐにできることではない。広くするにしても、段階を踏まなければ、できるものもできないだろう。

 望緒はうーんと唸る。


「広くするって、具体的にはどうしたらいいんですか?」


「ん〜。守る範囲を広くするって感じ? ごめん、あたし感覚でやってるから、上手いこと説明してあげらんないや」


 朝陽はてへぺろとでも言いたげに笑うが、対して望緒は呆れ気味だ。彼女は感覚でできてしまうほどの天才なのか、はたまた説明できないほど長いことやっていて、それが染み付いているのか。

 ただ、望緒は何となく後者だと考える。朝陽には多少の才能はありそうだが、それでも日々の努力でここまでの実力を身につけていると思った。


 でなければ、特別な能力など使わずとも戦うことなどできない。その上、彼女は一人で“念”の討伐に向かうことも許されている。


「あの、私に結界術の範囲を広めるなんてこと、できないと思うんです」


「え、なんで!?」


 朝陽は予想だにしていなかった返答に、思わず大声をだした。


「そもそも、私が結界術を使えるようになったのは、自分を守るイメージをしたからで……でも、範囲を広げるってことは、()()()()()ってイメージも必要ですよね? 私にはそれをする自信はないです……」


 それを聞いて、朝陽は何度か目をパチパチとさせた。


「あー、そっかそっか。なるほど、そういう事ね」


 朝陽は納得したように後頭部をかき、望緒に目線を合わせる。


「でもあたし、望緒ちゃんが“誰かを守る”っていう想像をできない子には思えないんだよね」


 そう言われるも、望緒の顔は晴れず、むしろ怪訝そうな表情をしている。


「だって、あの時から何も変わってないなんてことないでしょ? 少なくとも、あたしの目にはそう見えるんだけどなー」


「変わる……」


 望緒は不思議そうに呟く。変わっていると言われても、自分ではよくわからない。もし変わっていたとしても、気づけるはずもない。


「変わってるとは思えないです……」


「ま、そりゃそうだよねー。でも、多分変わってるよ。ね、一回でいいから、やってみない?」


 朝陽は歯を見せてにこやかに笑う。望緒は手に持っている、もう一枚の札をジッと眺める。親指で弄りながら、できるのか否かを考えていた。

 というよりも、やりたくないのかもしれない。もし挑戦して、できなかったらどうなるだろう。自分は他人を守る想像すらもできないと、自覚してしまうのではないだろうか。


 そう思ったら、尚のことやりたくなかった。しかし、望緒は少しだけ前を見る。もしかしたら、自分が思っている以上に、結界術を初めにやった時の自分よりも、今の自分は変わっているのかもしれない。


「……あの、失敗しても……」


「笑わないし、馬鹿にもしない。それに、失敗が悪いことなんて、そんなわけないからね。今までできてなかったことが、急にできるようになったら、誰も苦労しないって」


 朝陽が笑って言うのを見て、望緒は思わず顔が緩む。

 そして、先程と同様、人差し指と中指で札を挟み、瞳を閉じる。


 想像をしてみる。数多の攻撃から、飛希たちを守る想像を。しかし、攻撃から守るなどしたこともないので、どうしてもファンタジーじみた想像になってしまう。


「うーん」


 何からどう守ればいいのか。もしかすると、自分を守る想像をした時のようにすればいいのかもしれない。

 あの時は、物理的な攻撃から身を守るというよりは、周りの視線から自分を守るという想像をした。


 それが、今回の鍵なのかもしれない。


 飛希は、望緒が想像するよりも遥かに周りに見られてきたのだろう。髪も目も、石火矢の色を受け継がなかった。その上、“念”に蝕まれたあの瞳だ。見られないわけがない。

 それが例え、悪意のある眼差しでなかったとしても、飛希には相当堪えるものがあったはずだ。


 ならば、その視線から彼を守る想像をしてみてはどうか。できるかはわからない。むしろ、できない可能性の方が高い。

 だが、完璧に守れなくとも、匿うという形でなら、できるのかもしれない。


 ––––飛希が悲しまないで生きていけるように、少しでも軽くなるように……。


 望緒がそう考えた瞬間、札の文字が赤く光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ