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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
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五十八話 守る自分

「はあ……」


 二人は雷久保に戻り、とぼとぼと境内を歩いていた。


「まさか、肝心なとこが聞けないとは……」


 あの後、闇戸に言葉の意味を聞こうとしたのだが、爽玖の父親であるあおに姿を見られそうになったので、大慌てでこちらへ戻ってきたのだ。


「風と火の子って、そのまんまの意味だよね。四家の人たちってお互いに婚姻できるの?」


「いや、それがダメなんだよね。ちゃんとそういう規則があるんだ。だからなんで四家同士の子なのか……」


 考えられるのは、何かそこに重要な理由があったか、もしくは禁断の恋的な何かがあったのか。

 ただ、一つわかるのは、どちらにせよ良い結果ではなかったということだ。


「二人ともおはよう!」


 後ろから朝陽が二人の肩に腕をかけながら勢いよく挨拶をしてきた。望緒は一瞬よろけたが、飛希に支えられて持ち直す。


「あ、ごめん。大丈夫?」


「はい、全然平気です」


 にこやかに返すと、朝陽はホッとしたような表情で、安堵のため息をつく。それと同時に、望緒の耳が少々赤くなっているのに気がついた。



「ねえ、望緒ちゃんって飛希くんのこと好きなの?」


「え!?」


 社務所に戻って座るなり、朝陽はそう聞いてきた。望緒はまさかそんなことを訊かれるとは思ってもおらず、思わず大きな声で驚く。


「な、なん……」


 焦って言葉が上手く出てこない。そんな望緒に対し、朝陽はあっけらかんとした表情で


「だって、さっき飛希くんに支えられた時、ちょっと耳赤かったから、もしかしたらな〜って」


 望緒の顔はみるみるうちに赤くなっていく。まさかそんなところを見られていたとは思ってもみなかった。たしかに、自分でも耳が熱くなっているのを感じたから、もしかしたらと思ってはいたのだが。


 もう言い訳ができないことを悟ると、望緒は俯きがちに頷いた。


「いいじゃん、飛希くんいい子だし、優しいし。告んないの?」


「告!? いや、そんなことしないです……!」


「まあたしかに、告白して断られるのとか怖いか〜」


「それも……あるんですけど……」


 望緒が言葉に詰まると、朝陽は不思議そうな表情で彼女の方を見る。


「……その、前に飛希と話したんです。その時、“妹みたいに”って言われたので……言えない、と言いますか……」


「そっか、妹か。それはなかなかに難しい問題だね……。って待って? あたし、望緒ちゃんたちがここに来た時、めちゃくちゃ目の前で飛希くんと喋っちゃったよ!? ちょーやな奴じゃない!?」


「え、いやそんなこと……!」


「えーん、ごめんねー。仲良くできるいいお姉さんだよって思ってもらいたかっただけなんだよー!」


 朝陽はそう言って望緒に泣きついた。望緒は気にしてないと言うが、彼女はずっと望緒のことを抱きしめたままでいる。


 正直に言うと、嫉妬をしなかったわけではない。「仲がいいんだ」とモヤモヤした感情はあったのだから。


 しかし、数日関わっただけでわかるが、朝陽はとてもいい人間だ。大雑把なところはあれど、そんなこと気にならないほど底抜けに明るく、面倒見も良い。雷というよりは太陽のようである。


 そんな人間性の彼女を、嫉妬の対象として見るのは、少々難易度が高かった。それに、あの時話していた朝陽が恋愛感情抜きだったというのは、パッと見ただけでわかる。だから、望緒は特に気にしてなどいなかった。


「こんな状況で告白って、かなり難しくないですか? それに、もし仮に両想いだったとしても、多分飛希は断ると思います」


「どうして?」


「自分の見た目全てを気にしてるから。遺伝されなかった、石火矢の象徴である髪と瞳を持っていないし、呪いを受けた瞳。周りから好奇の目に晒される自分と一緒に居ない方がいいって、そんな感じのこと言いそうなんです」


「……」


 朝陽はそれを聞いて黙った。驚いたような表情をした後、優しい微笑みになる。


「望緒ちゃんは、飛希くんのことをよく知ってるんだね」


「え、まあ、はい。一緒に暮らしてますし……」


「ふふ、そうだね。そうだよね」


「?」


 望緒は朝陽が嬉しそうに笑っている理由がわからず、キョトンとした表情を浮かべていた。


「あ、ねえそうだ」


 朝陽は何かを思いついたらしい。()()()()を提案してきた。


「望緒ちゃんさ、結界術練習してるって言ってたよね」


「はい」


「なら、あたしと一緒に練習しない?」


 思いもよらなかった提案に、望緒は目を見開く。


「え、でもご迷惑じゃ……」


「全然? てか、あたしがやりたいだけだし」


 そう言って朝陽はにっこりと笑った。望緒は目をぱちくりとさせながらも、照れくさそうに「じゃあ、お願いします」と言った。



 朝陽は両親に説明をし、仕事を少し早めに終わらせてもらう。そして望緒を連れて、家の隣にある道場へと足を運んだ。


 中は広く、十分に動けるスペースがあった。道場だから当たり前なのだが。


 二人は道場の真ん中程まで行くと、そこで座った。望緒は初め、かしこまって正座で座っていたのだが、朝陽に崩していいと言われ、彼女はおずおずと座り方を変えた。


「さて、どこまでできる? あ、御札は私のを使ってね」


 そう言って朝陽は自分が書いた御札を手渡した。


「御札が光るとこまではできるんですけど、それ以降は……。風宮でも藤花さんとちょっとやってたんですけど、ちょっと立て込んじゃって……」


「なるほどね。ん〜、“結界が何か”っていう想像があんまり掴めてないって感じなのかなあ」


 朝陽は指を顎に当て、天を仰ぎみながらそうつぶやく。望緒はよくわからず、首を傾げた。


「結界は障壁みたいなもの、ですよね?」


「それはそうなんだけどね。それだけじゃないって言うか……ああ、難しいな」


 なんと説明したら良いかがわからず、後頭部を右手でかく。望緒はその説明でより一層わけがわからなくなった。

 障壁でないとしたら、なんだというのだろうか。


 朝陽は少し考え込むように俯き、あっと何か思い出したかのように、顔を上げた。


「人、人を守る為のものだよ、結界は!」


「? はい」


 望緒は何を今更と言いたげだが、朝陽はそれを気に留めず話を続ける。


「望緒ちゃんはさ、なんで結界術を学びたいって思い始めたの?」


「え、えっと……な、何か少しでも飛希たちの役に立てたらなって思って」


「そうだよね、それだよ。飛希くんたちを守る為のものって想像するんだよ!」


「はあ……」


 そう言われても、いまいちピンとこない。結界が人を守る為のものだというのはわかっている。飛希たちを守りたいという思いも存在する。だからといって、どうしたらいいのだろうか。


 ––––こういう時、ばあちゃんならなんて説明するかな……。


「あ、あのさ、望緒ちゃんは結界術が人を守る為のものだっていうのは理解してるんだよね?」


「はい」


「実際、頭では理解できてると思うの。でも、それを想像できないっていうか、人を守る自分を想像できてないんだと思う」


「あ……」


 望緒は思わず声が漏れた。どこか腑に落ちた気がする。

 たしかに、自分が人を守るとはどういうことだろうか、どんな姿なのだろうか。それを想像したことは全くなかった。出来なかったのだろう。


 今までの人生、人を守るなんてしてこなかったのだから。自分を保つので精一杯だった人間が、いきなり人を守る自分を想像するなど、どうしてできようか。


「いきなり想像は、まあ難しいよね。じゃあどうしようって話に……また詰まっちゃう……」


 朝陽は困り果てて考え込む。どうしたら望緒に上手く結界術をやってもらうことが出来るのか。自分は昔どうしていたのだろうかと考えるが、望緒と自分の状況は全く違う。そういう時、どうすればいいかは考えたことがなかった。


 ––––そういえば、今まで守ってもらってばっかだったな。飛希にも真澄さんたちにも、八下にも……。


 守りたいと口に出すばかりで、実際に守れたものなど何ひとつとしてない。


 だからといって、諦めたくもない。このまま何も出来ないままで、守ってくれた人たちに恩返しができないなんてことがあってたまるものか。


「あの、一回やってみてもいいですか!」


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