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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
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五十七話 封じた者

 夜、望緒は布団に入り、昼間考えたことをもう一度考えてみる。

 望緒の予想が正しければ、八下を封印したのはあの火夜という人間。


「でも、それを確認するには八下に訊くしか方法は……」


 そう口にし、目を閉じかけた瞬間、一つの案が思い浮かんだ。


「闇戸に訊いてみる……?」


 案としてはナシではない。ただ、訊いたとて答えてくれるかは定かではない。あの時も話を中断させられたぐらいだ。もしかすると、答えてはくれないかもしれない。


 しかし、訊いてみないことには始まらない。出水に行く価値は十分にある。


「……飛希、もう寝ちゃったかな」


 真澄たちに言うと、ややこしくなってしまう。だから、爽玖と千夏がやったように、バレないように向こうに行ってしまう。それが最善策だと思った。


 しかし、望緒は瞬間移動の方法を知らない。飛希なら知っているかと考えたが、肝心の彼は寝てしまっているかもしれない。


「……行くだけ行ってみるか」


 望緒は布団から出て、暗い廊下を歩いて飛希の部屋へ行く。



 部屋の前へ着いた。蝋燭が付いている様子はない。これはもう寝てしまっているかもしれない。


 ––––とりあえず、呼んでみよう。


「飛希〜」


 望緒は普段より小さめの声で彼の名を呼ぶ。すると、意外なことに返事が聞こえてきた。

 襖を開けると、飛希は布団の上に座っている。布団を被っているから、寝るところだったのだろう。


「あ、ごめんね。寝るとこだった?」


「まあね。どうしたの? また寝れない?」


「ううん、そうじゃなくてね。ちょっと相談というか……」


 望緒が言うと、飛希は首を傾げる。


「相談?」


「うん。あのね、明日出水に行きたいの。できれば、真澄さんたちにバレずに……」


 話を聞いていた飛希はふふっと笑う。望緒はどこに笑う要素があったのかと不思議に思った。


「いや、ごめんね。今度は僕らが内緒で出水に行くのかと思って」


「あはは、たしかに」


「でも急にどうしたの?」


「あ、えっと……」


 千夏たちに会いたいからと嘘をついてしまおうか。その気がないのかと問われれば、そういうわけではないのだが、どこか八下のことを素直に言うのは気が引ける。


 しかし、飛希に嘘をつきたくもなかった。どうせ闇戸に訊くのなら、飛希もついてくるだろうし、もういっそ素直に言ってしまおうと彼女は考えた。


「あのね、闇戸に八下のことを訊きたいの」


「八下様のこと?」


「そう」


 望緒は風宮で見た文献のこと、それについて書かれていた文字と自分の見解、そして闇戸が過去に言っていた発言についてを、事細かに話した。


「なるほど。わかった、行こうか」


「え、ほんと? いいの?」


「うん、なにか解決の糸口が見つかるかもしれないなら、協力を惜しむ理由はないよ」


「ありがとう」


「じゃあ、明日はいつもよりはやく起きないとね。爽玖は毎朝龗ノ龍が祀られている祠に行くから、それを狙って行こうか」


「うん!」



 翌朝、望緒は予定通り、いつもより早い時間に起きる。寝ぼけながら布団を片付け、巫女服に着替える。髪も結い、部屋を出て静かに襖を閉める。


 すると、ちょうど飛希が彼女の元へ歩いてきた。


「おはよう、ちゃんと起きれたんだね」


 こう言っているということは、飛希は望緒を起こすつもりで来たのだろう。


「起きれる自信なかったんだけどね。起きれたよ」


「それは良かった。行こうか」


 そう言って飛希は自身の右手を差し伸べる。望緒は心臓が跳ねたのを感じながらもその手を取った。その瞬間、辺りの景色は大きく変わった。


 鬱蒼とした木々の中に立っていた。滝の音が聞こえてくるから、ここは出水の神社の敷地内なのだろう。


「あっちだね」


 飛希は望緒の手を繋いだまま、歩き始める。望緒は鼓動がはやいのを気取られまいと必死に抑えようとする。こんなことで照れている自分に嫌悪感を抱こうとするが、もはやそんなことも考えていられなさそうだ。


「あ、いた」


 飛希が呟いたのを聞いて、ようやっと意識が現実へ向く。見えたのは、爽玖が料理を運んで祠の方へ歩いていく姿だった。その姿は随分と神職らしい。

 周りをキョロキョロと確認するが、爽玖意外の姿は特に見えなかった。


「よし、行こう」


 飛希の合図を皮切りに、二人は足音を忍ばせて爽玖の元へ行く。


「爽玖」


 名前を呼ばれると、爽玖はパッと後ろを振り返った。飛希と望緒の姿を見るなり、驚きの声を上げる。


「え!? 飛希に望緒!?」


「「しー!」」


 二人が同時に言うと、爽玖はあっと言う風に慌てて口を抑えた。


「それで、何の用なん? ただ会いに来た……ってわけじゃないやろ」


「よくわかったね。ちょっと八下のことで闇戸に聞きたいことがあるの」


「闇戸に?」


『なんだ』


 話していると、瀧の方から闇戸の声が聞こえてきた。どうやら、爽玖がこの神社にいる時は、ここから声が聞こえるらしい。どういう仕組みなのだろうか。


「前に闇戸が八下を封じたのは人間だって話したじゃん?」


『それがどうした。誰かは答えんぞ』


「あのさ、その人火に夜って書いた名前だったりする?」


『……!』


 何も言葉には発さなかったが、なんとなく空気でわかる。これは図星だ。望緒は気にすることなく話を続ける。


「風宮の神社で文献を見たの。漢文だったから全部はわかんなかったけど、文脈的に、火夜それが名前なんじゃないかって……」


 隣で話を聞いていた爽玖も目を見開いた。まさかそんなことを知ったとは思ってもみなかったからだ。


 闇戸はしばし黙った末、一つため息をついて話し出す。


『そのことを八下には』


「まだ話してないよ」


 するとまた一つため息をついてみせる。


『それは火夜かやと読む。察しの通り、八下を封じた人間だ。……子供だがな』


 子ども、その単語を聞いて三人は驚いた。


「まっ、て、どういうことや? 子どもって、子どもが神を封じれるとでも言うんか?」


 先に口を出したのは爽玖だった。望緒もまさか子供だとは思っていなかった。神を封じたのだ。まだ未熟であるはずの子供が。


『我もまさかあんな稚児に封じられるとは思っていなかったさ。ましてや一人でなど』


「……何があったの。その時に」


『八下から聞け』


「話してくれないんだもん」


『……』


 闇戸は何も言ってくれない。これは断固として答えてくれないということだろう。望緒はしゅんとした顔で俯くが、すぐに顔を上げて彼に質問をする。


「なら、これだけ教えて。その火夜って何者なの?」


『四家に生まれた子供さ––––風と火のな』

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