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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
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五十六話 笑顔につられ

 村の者たちに“念”を倒したことを報告し、望緒たちは神社に戻る。その道中、望緒は自ら朝陽に話しかけてみた。


「あの、朝陽さん」


「ん、なあに?」


「朝陽さんって、能力だけを使うんじゃないんですね。私てっきり……」


 そう言うと、朝陽は口を大きく開けて笑う。


「そっか、たしかに出水兄妹も風宮の双子ちゃんもそれぞれの能力のみを使った戦い方だもんね」


 明るく言ったあと、彼女は少し俯き気味に話し始めた。


「あたしさあ、霊力量がみんなの中で一番弱いの。だから、能力だけに頼ってたら、あんまり強い“念”には勝てなくてさあ。だから、武器を使いながら、それと同時に能力を使うってやり方が一番合うんだよね」


「そうなんですね……。どうして薙刀を使おうって思ったんですか?」


「えーそれ聞いちゃう? なんか恥ずかしいなあ。……あのね、婆ちゃんの勧めなの。初めは刀を使ってたんだけど、そんなに合ってなかったのか、どれだけやっても上達しなくってさ。でも、あたしは刀がかっこよくてそれを絶対使いたいって考えでさー」


 朝陽はハハッと昔の自分に呆れるかのように笑いながら、話を続ける。


「でも、上手くいかなくていじけてた日に、婆ちゃんが薙刀はどうだって勧めてくれて。最初は絶対やりたくないって思ってたんだけど、やってみたら馴染む馴染む。やってるうちに楽しくなってきちゃってさ、それで今も使ってるの」


 話を聞いた望緒は、そうなんだと相槌を打つ。ただ、話をしている朝陽は懐かしむような表情をしているのだが、どこか寂しそうな表情もしているのが気になった。


「––––あの、つかぬ事をお聞きしますが、お婆様は……」


 聞くと、朝陽は目を見開く。だが、それもすぐに戻り、優しく悲しげな表情で笑う。


「数年前に病気でね。できれば天寿をまっとうしてほしかったんだけど、現実はそう上手くはいかないね」


 朝陽は空を見上げながら言う。どこか寂しそうではあるが、その顔はどこか晴れてもいた。


「すみません、こんなこと聞いちゃって」


「んーん。てか、察してたでしょ? 確信があったから聞いたんじゃないの〜?」


 朝陽は望緒の方に顔を戻し、目線を望緒に合わせて、イタズラげに微笑む。


「うっ、図星です……」


「あっははは! 図星って自分で口にすることなかなか無いでしょ」


 大きく笑う朝陽につられ、望緒も思わず吹き出す。その後は二人で笑いながら神社へ戻って行った。



「ただいまぁ」


「おう、おかえり。ちゃんと倒せたか?」


「倒してなかったらこんな呑気に帰ってないし〜」


 二人は同時に豪快に笑った。こうして見ると、朝陽の性格は父親そっくりである。顔は全く似ていないが。


「なら、報告書書いて仕事戻れよ」


「はーい。望緒ちゃん、ちょっと授与所の方任せてもいい? なるべくササッと書き終えるようにするからさ」


「わかりました」


 そうして朝陽は報告書を書きに行き、望緒は授与所の方へ戻って行った。


 しかしながら、今日は人がそこまで来ていない。“念”が出たからというのもあるだろうが、そもそも平日なので皆仕事で忙しいのだろう。


「暇だなあ」


 望緒は頬杖をついて、空をボーッと眺める。そんな時、ふと()()()()が脳裏に浮かんだ。


「火……夜……。なんて読むんだろ。勝手に人の名前だって解釈してるけど、それが合ってるかわかんないよなぁ」


 そんな時、出水でのくらとの会話を思い出した。まだ彼が姿を現していなかった頃にした会話の内容。


『八下が、一人の人間によって封じられたからだ』


 あの時はなぜ人間が? という疑問しか思い浮かばなかった上に、闇戸に話を強制終了させられたため、特に深く考えてはいなかった。だが……


「なんで今まで思い出しもしなかったんだろう。もし、本当にあの『火夜もじ』が人の名前なら、確実に八下を封じた……ああ、もう! もっとあの本ちゃんと読んどけばよかった! もっと確信的なこと書いてたかもなのに〜!」


 望緒は髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。もう風宮を離れてしまった。戻ることはできなくはないが、今戻るのも気まずい。それに、徳彦たちには八下のことは話していない。戻りたい理由を聞かれたら、嘘をつける自信がなかった。


「あとで飛希に相談してみようかな……」


 あの時の会話は、彼も聞いていたはず。しかし、飛希に相談したからと言って、もう一度風宮に戻れるわけでもないが。


 そんなことを考えていると、報告書を書き終わった朝陽が戻ってきた。


「ごめーん、ちょっと遅くなっちゃった」


「あっ、朝陽さん。おかえりなさい」


「ただいま。何事もなかった?」


「はい、お客さん全然来なかったので。ちょっとボーッとしちゃってました」


「はは、いいんだよそれで。別に常に気を張りつめてる必要ないもん」


 カラカラと笑いながら言う。朝陽と話していると、気持ちが軽くなるような、そんな感覚がした。



「じゃあ、また明日ね!」


「はい、明日もよろしくお願いします」


「飛希くんもね」


「はい、では」


 朝陽は望緒だけでなく、飛希にも手を振った。別に何らおかしなことではない。彼女の性格なら、誰にでも手を振るだろう。しかし、恋に落ちてしまった望緒にとっては、どこか気が気でないような感じ。


 せっかくお世話になっている人なのだからと、感情を抑えてはいるが、人間なのだから完全には無理だ。多少なりとも嫉妬の感情が出てしまいそう。


「じゃあ、帰ろっか」


「うん」


 そうして二人は真澄たちに続き、並んで歩いて帰る。


 望緒はその際、先程社務所で考えていたことを飛希に伝えようと思ったが、どう話したらいいかわからず、だんまりになってしまう。


「どうしたの?」


「えっ、あ、いや……」


 話したいが話せない。そんな様子が外に出てしまっていたのだろう。望緒は焦るが、咄嗟にあることを口にした。


「あ、あのね。ちょっと耳貸して」


「ん?」


 望緒に言われ、飛希は耳を望緒のできるだけ近くに持ってくる。そして彼女は両手で口元を隠した。


「あのね、八下と仲直りできたよ」


「! そっか、それは良かった」


 飛希は嬉しそうに顔を緩める。望緒はその表情にドキッとしながらも、笑顔につられ、満面の笑みになった。

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