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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第三章 雷
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五十四話 ようこそ雷へ

 翌日、望緒たちは雷久保に行くための準備をしていた。今回は雄太郎はついてこないそうだ。そのため、出水の時同様、四人で行く。


「ねえ、飛希」


「ん?」


「あのさ、雷久保ってどんな人達なの?」


 望緒は少々警戒している様子。無理もない。前回、何も考えずに行って痛い目を見たのだから。


「優しい人たちだよ。風宮みたいに疎まれるなんてことはないから、安心して」


 飛希には望緒の考えはお見通しといったところだろう。望緒は考えが見透かされたことを少し恥ずかしく思った。


「さあ、行こうか」



 いつも通り霊力を使って瞬間移動をした。望緒がギュッと閉じていた目を開けると、目の前には神社があった。石火矢よりも少し大きいだろうか。


 辺りをキョロキョロとしていると、後ろから優しい風が吹いてきた。

 望緒が後ろを振り返ると、見えたのは美しい稲田であった。


「わあっ、綺麗……!」


 もう稲は成熟しているらしく、黄金色の稲が風に吹かれ、キラキラと揺らめいているように見える。


「雷久保は雷を使う家系なんだけど、稲や他の農作物の栽培もしているんだよ」


 望緒が見とれていると、後ろから徳彦が説明をしてくれた。彼女は再度稲の方を見る。雄大な土地いっぱいに広がる稲とは、これ程までに美しいのかと思っていた。


「お! 来たじゃん。飛希くーん」


 後ろから元気な女性の声が聞こえてきた。後ろを向くと、大きく手を振ってこちらへ向かってくる一人の女性が見えた。


 身長は女性にしては高めだ。百七十センチいっていないぐらいだろうか。サラサラとした黄色の長い髪を高い位置で一つ結びにしていて、山吹色の巫女服を着ている。


「あ、あささん。お久しぶりです」


「おひさー。徳彦さんと真澄さんもお久しぶりです!」


「久しぶりだね。ご当主はいらっしゃる?」


「はい、いますよ! 呼んできますね!」


 そう言って、朝陽と呼ばれた女性は、小走りで社務所の方へと戻って行った。

 少し経つと、当主であろう老人を連れて戻ってきた。徳彦たちが彼に向かってお辞儀をしたのに倣い、望緒も一礼した。


「いやはや、久しいなあ。元気だったか」


「はい、雷久保さんもお元気そうで何よりです」


 二人が話している横で、望緒と飛希の元へ朝陽が近づく。


「ねえねえ、さっきから思ってたけど、その子が新しく巫女になったっていう子?」


「そうですよ」


「は、初めまして。神和住望緒と言います……!」


 望緒は緊張しつつも自己紹介をした。


「初めまして! あたしは雷久保朝陽。望緒ちゃんってちょー可愛いね! 食べちゃいたーい」


「え、食べ?」


 望緒が困惑していると、朝陽が耐えきれずぷっと吹き出した。


「あっはははは!」


「ちょっと朝陽さん、からかわないでください」


 飛希が言うと、朝陽は目尻に溜まった涙を拭いながら、「ごめんごめん」と話を切り出した。


「あまりにも反応が可愛かったからさ。ついつい」


「まったく」


 ––––二人とも、仲良いなあ。


 望緒は二人が話している横で、そんなことを考えていた。


「では、さっそく仕事をしてもらおう。飛希くんと巫女さんは朝陽について行ってくれ。徳彦くんたちは、社で八下様の御御おみあしの状態を確認してもらいたい」


「わかりました。じゃあ、朝陽さん、飛希たちをよろしくね」


「はーい!」


 そう言って徳彦たちは、雷久保の当主と共に本殿へ向かっていった。


「さて、あたしらも仕事しなくちゃだけど、うちは出水みたいに龍神を祀ってるわけじゃないし、風宮みたいに花を咲かせているわけでもない。ま、石火矢とやることは変わんないよ」


「そうなんですね……」


「まあ、飛希くんはもうここの仕事内容わかるでしょ。父さんが中にいるから、一緒に仕事してて」


 朝陽がにこやかに言うと、飛希ははいと頷き、一人で迷わず社務所へ向かった。

 一人で慣れぬ人の元へ残された望緒は、どうしたらいいかわからず黙っていた。そんな中、口火を切ったのは朝陽だ。


「ねえ、望緒ちゃんはさ、()()()から来た子なの?」


「あ、はい……。廃神社に行ったら、いつの間にかこんなところに……」


「そっかそっか、八下様に導かれたんだね。まあそんなことは置いといて、あたしらも社務所戻ろっ。仕事は……まあ同じだから教えることもないけど、教えるからさ」


「は、はい」


 返事をしたのはいいのだが、望緒は『そんなことは置いといて』という発言に対し、自分から聞いたのにという考えが胸の内にあった。



「あ、さっき教えることないって言ったけど、一個言わないといけないことが」


 そう言って朝陽は一つの御守りを取り出した。先程見た、美しい稲田と同じ色をした、シンプルだが煌びやかな御守り。


「うちは農業が栄えてるからね。この五穀豊穣守りがあるんだ。ま、これも他の御守りと売り方は変わんないんだけどね。ただこんなのもあるよ〜っていう説明」


 朝陽はそう言ってウィンクをして見せた。


 さっそく仕事についた。客足は他の神社とそう変わらない。ただ違う点は、先程見せてもらった五穀豊穣守りが最も売れているという点。


 さすがは農業が栄えている村といったところか。農家本人やその妻であろう人物が次々に買っていく。


「すごい、みんなこれ買っていきますね。そんなに人口多いんですか?」


「というより、みんなお焚き上げのために、一年で返納してるからかな」


「お焚き上げ?」


「ありゃ、わかんないか」


 お焚き上げというのは、使った御守りや御札など、粗末に扱えないものを燃やして天に還すというもの。

 一年以上持っている御守りには、悪霊が宿るとされることも。


「へえ、全然知らなかった。巫女やってるのに恥ずかしい……」


「あはは、しょうがないよ。向こうではそういうの身近じゃないんでしょ? 無理もないって」


 お焚き上げのことは、特に教えられなかった。お焚き上げの際には祈祷をしたりするのだが、それは禰宜ねぎなどの仕事なので、巫女はしないからだろう。


 そもそも、望緒は神職の家系でも無ければ、そういう学校にも通っていないため、祈祷なんてできるはずもないのだが。


「そういうのもちゃんと勉強しとかないとなあ……」


 望緒がポツリと呟くと、隣に座っていた朝陽は何も言わずにニコニコとしていた。


 そうして、一日が終わった。望緒はほとんど自分から話すことはなかった。何せ、暇があれば朝陽から怒涛の質問攻めにあっていたのだ。


 向こうでは何が流行っていたとか、どういう生活が一般的なのか、神社と民間人の関係性はどういったものなのかなど、いくつも望緒が元いた空間の質問がなされた。


「あー疲れた」


 望緒は雷久保から借りた家の一室で倒れるように寝転んだ。バタンキューといった感じだ。


「朝陽さんってよく喋る人なんだなあ。藤花さんの時とは全然違う」


 今でこそ打ち解けた藤花だが、初めの頃は会話が少なく、気まずかったぐらいだ。しかし、今度は真逆の性格。差がありすぎて少し疲れてしまったらしい。


「もうご飯も食べたし、今日は寝ちゃおう。身体慣れさせないと」


 そう言って望緒は押し入れから布団を取り出し、畳の上に敷いた。そしてそのまま布団に入り、眠りについた。

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