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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第二章 風
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四十五話 上手くいかない

「……あ」


 目を覚ますと、いつも見る天井が見えた。


「うーん、やっぱり疲れるなあ」


 上半身を起こして伸びをしながら、大きめの独り言を呟いた。

 着替えて押し入れに布団をしまう。朝ご飯を食べるために廊下に出ると、既に着替えていた飛希と鉢合わせた。


 先程まで八下と、飛希と話した“家族”についての話をしたためか、どこか望緒は気まずい思いを抱いたが、彼はもちろん、そんなこと知る由もない。

 ただ、にこやかに微笑んでいるだけ。


「おはよう。あの後ちゃんと寝れた?」


「おはよう。うん、寝れたよ」


 ––––本当は寝れてないけど……。


「そっか、それは良かった。じゃあ、今日もがんばろうね」


「うん!」



「あ、おはようございます。望緒さん」


「おはようございます、藤花さん」


「今日もしますか? 結界術の練習」


 藤花は周りに聞かれないように、望緒の傍に寄って耳元で話しかけた。

 望緒は彼女がそう言ってくれたことで、顔がぱあっと明るくなった。


 その後、持ち場に行って仕事をしていた二人なのだが、今日はやたらと参拝客が多く、話している暇すらも取れない程であった。

 そうして一通り客が過ぎ去ったあと、二人は頭を突っ伏して休み出す。


「今日人多かったですね……」


「大安だったからでしょうね。この日はいつも多くの人が来るんです」


 大安吉日とはよく言ったものだ。こちらの空間ではそういったことはよく重んじられるらしい。

 望緒のいた空間では知っていても行かないなどざらにある。


「それにしても疲れました……。もうしばらく働きたくない」


「それはダメです。さ、人も落ち着いてきましたし、日も傾いてきました。いい頃合いですよ」


 藤花は突っ伏している望緒にニッと笑いかける。彼女のあまり見慣れない笑顔に、望緒は少し目をぱちくりさせてから、同じように微笑んでみせた。



 桐子にだけ場所を移すことを伝え、霊力の残滓が感じられないよう、少し離れた木々の中に移動した。


「前と同じことをやれば大丈夫ですよ。ここならあまり気にすることなく、霊力を扱えるはずです」


「同じように……」


 とは言っても、前回は大して結界は作らなかった。というより、驚いて手を止めてしまった。今回はそれを大きくすることに挑戦する。果たして、望緒にそれができるのだろうか。


 目を閉じ、ゆっくりと御札に霊力を動かしていく。


 ––––大丈夫、感覚はちゃんとある。


 思った時、大方霊力が先に集まった感覚がした。望緒は意識を結界の方へ向け、霊力を操っていく。

 まずは小さな壁を思い浮かべた。八下が言っていたのだが、結界には様々な形がある。壁のようなもの、球もしくは半球のようなもの。


 性能に多少の差があるらしく、壁は全体を守るのには適していない。しかし、球や半球はほぼ全体を守れる。

 その分、霊力の消費量も多くなるらしいが。


 ––––小さな壁。本当に小さいのでいいから……。


 指で挟んでいる御札に書かれた文字が赤く光る。と、同時に赤い光が生まれ、次第に形作っていく。

 ––––のだが。


「……」


 望緒は霊力を操るのをやめ、閉じていた目を開いた。彼女の顔は疲れていて、額には汗が滲んでいる。


「形、作れなかったですよね……?」


 言われた藤花は、少し苦しげな表情をしつつ、口を開く。


「……はい。途中までは完璧でした。でも、いざ形をとなった時、そこから進みませんでした」


 自分で聞いたはいいが、それでも実際言われるとかなり堪えるものがある。


「やっぱり、できないのかなあ……」


「そんなことはないですよ。初めてなんてこんなものです。……今日は時間も時間ですから、一旦お開きにしましょうか」


「はい……」


 そう言って二人は社務所に戻り、仕事の始末をしてから各々家へと戻って行った。



 ––––もしかしたら、私が最初に褒めすぎたの、良くなかったかなあ。


 藤花は布団に入るなり、そんなことを考えた。たしかに、彼女は初めて望緒と決壊術の練習をした時、かなり褒めちぎっていた。

 初めに褒めすぎて、今望緒が落ち込んでいるのではないかと、そう考え、自己嫌悪に陥る。


「藤花」


 彼女が布団の中でモゾモゾと悩んでいると、部屋の外から日向が声をかけてきた。藤花は開けていいと承諾の返事をし、日向は襖を開けた。


「まだ寝てないの? 物音が外まで聞こえてたよ」


「ごめんね。ちょっと自己嫌悪っていうか、そんな感じになっちゃって……」


「はいはい、今回は何が原因?」


 呆れつつも話を聞くために蝋燭ろうそくを置き、藤花の傍に座った。やけに慣れているのは、よくある事だからだろう。


「えっとね、今日また望緒さんに結界術を少し教えてたの。でも、今日はあんまり上手くいかなくて、望緒さん落ち込んでたんだよね」


「それで?」


「その落ち込んでたの、上手くいかなかったっていうのが大きいと思うんだけど、前に教えた時、私がちょっと興奮してたくさん褒めたから、それと今回の反応との差を見て落ち込んでたりしないのかなあって……」


 手をモジモジさせながら、しゅんとした表情で落ち込んでいる藤花を見つつ、日向は手を顎に当て、うーんと声を出す。


「少し考えすぎじゃない? 多分、彼女もそこまで気にしてないと思うよ」


「そうかなあ」


 まだ自信が無さげな彼女に日向は「そうだよ」と返した。その言葉で、彼女の表情が若干和らいだように見えた。



 翌日、今日は社務所に行く前に、図書の間に寄っている。前に借りた本を返すついでに、もう少しここの空間について書かれた本を借りてみようと思ったのだ。


 望緒は昨夜、徳彦から雷久保家に手紙を出したと教えられた。返事が来て次第、風宮を離れて向こうへ行くそうだ。

 だから、そろそろ準備をするべく、最後ぐらいにまた読んでおこうと思ったのだ。


「やっぱり、いつ見てもすごいなあ」


 何回かこの間には来ているのだが、いつ来てもその本の数に圧倒される。


 くるくると歩き回り、自分が読めそうな本を手に取って探してみる。しかし、やはりなかなか読めそうな本が見つからない。


「しょうがない、とりあえずちゃんと内容見てみよう」


 そうして、望緒は部屋の端にあった赤い表紙の本を手に取ってみた。パラパラと流し見をしてみるが、漢文で書かれていて、なにが書いてあるか全くと言っていいほどわからない。

 草書体よりは読めるかもしれないが、どちらにせよ難しいことには変わりない。


 読んでいる中で、やはり『八下』という単語がちらほら見える。そんな中、あるものが目についた。


「火……夜……?」


 見慣れない文字だ。この空間にある言葉だろうか。それとも––––誰かの名前だろうか。


「うーん……まあ、とりあえずいっか! 仕事行こう」


 本を置き、いつも通り社務所へ向かった。

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