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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第二章 風
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四十話 練習

「結界術……」


 日向は目を見開き、驚いた顔をする。望緒は、何かを言われたらどうしようと、目をギュッと瞑り、次の言葉を待つ。


「ありますよ」


「へ……」


「あっちの方だったかな……」


 そう呟いて、日向は進んでいく。望緒は訳がわからず、思考も動きも止まっていたのだが、そこで日向がクルッと振り返る。


「こっちです。着いてきてください」


 その言葉でようやっと、止まっていた望緒の思考は再開した。


「あっ、はい……!」


 連れてこられたのは、たくさんの書棚がある場所。ただ、他の場所となんら変わりない場所である。

 本当にここに結界術について書かれた本があるのだろうか。


「ここら辺は全部結界術に関したことが書かれていたはずです。」


「へえ……」


 本を一冊手に取り中を開くと、たしかに結界術について書かれている。

 ただ、霊力を扱う話なので、内容が全くと言っていいほどわからない。


 ––––八下に訊いたらわかるかな。


 そう考えたので、とりあえず一冊だけ借りてみることにした。


「すみません、ありがとうございました」


「いえ、またわからないことがあれば聞いてください。結界術のことも、少しならお答えできるかと」


「ありがとうございます」


 そうして、二人は自分の持ち場に戻った。



 夜、望緒はさっそく今日借りた本を読んでみる。––––が、


「うぅ、ダメだ。さっぱりわからない」


 望緒は霊力が存在していると言うだけで、それを扱ったことは今まで一度もない。わからないとは思っていたが、少しも理解できないとはさすがに思っていなかった。


「八下〜」


『どうした?』


「結界術の本借りてみたんだけどさ、何にもわからないの」


『はは、そりゃあ今まで霊力なんて無かったんだもんな。わからなくても無理はないよ』


 八下は優しく慰めてくれるが、望緒は不服なままだ。


『精神世界でも教えられるかもしれないな。その内容、ある程度覚えて精神世界に来た時に教えてくれないか』


「わかった。いつまでに覚えたらいい?」


『三日ぐらいありゃいいか?』


「三日……まあ、ある程度なら覚えられるかな」


『わかった。じゃあまた三日後に呼ぶよ』



 三日後、八下の精神世界にて。


 今回はいつもの真っ白な空間ではなく、草原の上に青空が広がっている。前に夜空を見た場所の昼間バージョンと言ったところだろうか。


「俺も結界術とか久しくやってないから、ちゃんと教えられる自信ないなあ」


「八下もやってたんだ」


 望緒は意外そうに言った。八下はその言葉を聞いて、釈然としないと言いたげな表情を浮かべている。


「そもそも俺が四家の奴らに教えたんですけど〜」


「え、あ、ごめんごめん」


 ぶすっとした表情の八下に、望緒は苦笑いを浮かべながら謝った。


「まあそれは置いとくとして、どう? 覚えてこれた?」


「ああ、うん。一応ね……」


 もちろん、覚えられるだけ覚えては来たが、今までの人生、霊力など縁遠いものであったから、内容はあまり理解できていない。


「じゃ、説明してくれ。もしかしたら、俺の時とやり方変わってるかも」


「あ、うん……まずね––––」


 望緒は本で読んだことを、完璧ではないにしろ、事細かに説明した。


 まず、結界術には札がいる。藤花も風宮の力を底上げするために自身で札に文字を書く。それに霊力を込めて、結界を形成するというもの。


「うん、大元は特に変わってないな。これなら俺も色々手伝えそうだ。早速始めよう」


 真剣な表情でうん、と返事をして、望緒は気を引き締めた。


「でも、これ御札いるんだよね?」


「ああ、いる。持ってくるのはできないから、とりあえずここでは霊力の扱い方を教えるよ」


「わかった」


「霊力を一点に集中させる練習な。札に霊力を込めて結界を作るから」


 八下は望緒に両手を前に出すように指示する。彼女はそれに従い、真っ直ぐ両腕を上げ、手のひらを前に向けた。


「流れを感じて、手に流して」


 言われた通りにやってみる。しかし、上手くいかない。流れを感じ取ることができない。それに、手に流すというのも、望緒にはよくわからないことであった。


「流れってなに? わかんない……」


 しょんぼりした顔で言うと、八下は顎に手を当て、うーんと唸った。


「流れっていうのは霊力の流れなんだけど……、なんて説明するべきかなあ。ちょっと待って、俺が教えてもらった時のこと思い出すから」


「それ、何年前……?」


 何万年も昔ではなかろうか。


 八下はブツブツと何かを呟きながら、自身の記憶を辿っている。恐らく、霊力の扱い方を教えてもらった時のことを思い出しているのだろう。

 ただ、大昔のことだから、本当に思い出せるかはわからない。


 望緒は不安そうに手を握ったり開いたりを繰り返す。

 八下と出会った頃、目を覚まして手を握ったら霊力があるのを感じた。しかし、今はそれを感じているのかがわからない。


 彼女がため息をつきかけたその時、八下は何かを思い出したかのようにあっと大きめの声を出した。


「うわっ、びっくりした」


「ごめんごめん。あのさ、初めのうちは目を閉じながらやった方がわかりやすいかもしれない。俺もそうやったような気がしてさ」


「目を……?」


 それをしたところで何か変わるだろうか。しかし、やらないことには変わらない。


「やってみる……」


 望緒は先程と同じように手を前に出し、ゆっくりと目を閉じた。真っ暗な視界の中で、霊力の流れを感じることに集中する。


 また何も感じない––––かのように思えたが、何かが身体の内を流れているような感覚がした。


「えっ、なにこれ!」


 望緒は感じたことの無い感覚にびっくりし、思わず目を開いてしまった。


「目開けたらダメだろ……」


「ご、ごめん。なんか、身体の中で何かが動いてるような感じがして……」


「ははっ、それが霊力だよ。感じ取れたんなら、最初の関門は突破だな。次はそれを手のひらに集中させてみよう」


「うん」


 望緒はまた、手を前に掲げる。今度はしっかりと霊力の流れを認識できる。


「そのまま、流れを手に集めて。少しだけでもいい」


 やってみるが、動かせる気がしない。身体の中を流れているはずなのに、固定されているような感じがする。


「焦らなくていい。少しずつ、ゆっくり」


 一つ息を吐いて、もう一度集中する。


 流れを感じ取る。ゆっくりと流れている感覚をしっかり掴み、霊力を手に押し出す形をイメージしてみる。

 すると、わずかだが手に霊力が集中した。


「っはあ……!」


 思っていたよりも疲労がたまる行為だ。望緒は思い切り息を吐き出し、その後も呼吸を整えるべく吸って吐いてを繰り返す。


「すげえ! できたじゃん!」


「思ってたより疲れるよ、これ……」


 ––––藤花さんはこれをいつもやってるんだ……。


 果たして、自分にもできるものかと、早くも幸先が不安になってしまう。


「慣れたら大丈夫だ。まあ、こればっかりは何回も繰り返しやるしかないな。できるようになってきたら、札の方も作り始めよう。ただ––––」


「八下は見れない……んだよね?」


「ああ、何せ俺がこんな状態だから」


 八下は苦笑を浮かべながらそう言った。


「まあ、結界術を見てもらうのは別の人にしてもらうから、大丈夫だよ」


 日向もわからないことがあれば聞いていいと言っていたし、あまり彼らに接触はできずとも、やっていくことはできるはずだ。


「私もできること増やさないとね!」


「そうだな」


 八下は自分に喝を入れる望緒のことを、微笑みながら見てそう言った。

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