三十七話 話の続き
先程のこと––––
藤花は祖父が言っていた通り、自身の母親の元へ向かった……のだが、
「え、呼んでない!?」
「ええ……。ずっとここで真澄さんと話をしていたの」
「桐子さんは藤花ちゃんを呼んでないし、風宮の御当主もここに来てないわよ?」
その話を聞いて、藤花の顔はみるみるうちに青ざめていく。
「まさか……!」
そう言い残し、大慌てで望緒の元へ戻って行った。残された二人はポカンとした表情を浮かべる。
◇
「––––それで、今に至ります」
藤花は申し訳なさそうに事の経緯を説明した。そして再度、頭を深々と下げて謝る。
「本当にごめんなさい」
「謝らないでください……! 悪いのは藤花さんじゃないです。……本当に」
なぜ、こんなに自分の孫に苦労をかけるのだろうか。望緒は、風宮の古臭い考え方に何とも言えないモヤモヤとした感情を覚えた。
「私は望緒さんと話したくないとは思ってないです。むしろ、もっとお話してみたいんです」
少々照れくさそうに言う藤花を見て、望緒も照れくさくなる。それと同時に、藤花が無理して自分と話していた訳では無いとわかり、安堵した。
「あまり祖父や父の前では話せませんが、これからも仲良くしていただければと……」
「もちろん……!」
とりあえず、その場は暖かい空気で和み、それは一日中続いた。しかし、望緒の謎のモヤモヤは、晴れてはいない。
◇
仕事終わり、望緒は朝の話を訊くために、飛希の部屋へ向かった。
「飛希〜」
「あれ、望緒。どうしたの?」
「あのね、朝の話のこと聞きたくて……」
望緒がそう言うと、飛希はああと思い出したかのような声を漏らす。
左手をちょいちょいとして、望緒に自分の近くへ座るよう、促した。
「その……八下と話せるのを知られちゃダメって、どういうことなの?」
質問をされるが、飛希はすぐには答えない。目を伏せ、考えているように見える。
「今から言うことは、多分望緒を傷つける。それでもいい?」
「––––いいよ」
単なる好奇心では無い。なぜだかわからないが、これは知っておかないといけない、望緒にはそんな気がしたのだ。
だから、傷つくのは覚悟の上で。
「––––まず、風宮は望緒が元いた空間から来た人たちを忌避する傾向がある」
「うん、今日身をもって経験したよ」
望緒は今日の事を思い出し、遠い目をしながらそう言った。この発言に、飛希の顔は次第に青ざめていく。
「え、な、何言われたの!?」
思わず身を乗り出し、望緒の肩を掴んでそう訊いた。
「落ち着いて……!」
「あ、ごめん。つい……」
飛希は肩から手を離し、望緒は一息ついてから話し出す。
「あのね、現当主から藤花さんと関わるなって言われたの。穢す気かって言われちゃったよ」
「ごめんね、そんな嫌な思いさせちゃって……」
「飛希のせいじゃないじゃん。あの人の頭がちょっと固いだけだよ」
望緒は笑って見せるが、飛希の顔が特段晴れるわけでもなかった。無理はないと思いつつも、彼女はどうするべきか考える。
「あ、そうだ。それで、それがなんでバレちゃいけないことになるの?」
「あ、あぁ。えっと、八下様と話せる力があること自体はまあいいと思うんだけど、それが自分たちが忌避しているはずの人が持っているってわかったら、余計に望緒を遠ざけかねない……って感じ、です」
最後がなぜか敬語だったのは、望緒が今の発言で傷つかないか心配だったからだろう。ただ、その本人は傷ついたという表情はしていない。
ただ、何か考え込むような表情をしていた。
「うーん」
「え、どうかした?」
「ううん。ただ、なんで八下のことを崇拝してるのに、その八下が助けたいって思った外の人を忌避するのかなって……」
望緒のその発言を聞き、飛希も同じように考え込んでしまった。
彼らは何がそこまで嫌なのだろうか。何がそこまで彼らを動かしているのだろうか。考えても、答えはわからない。
「明日、日向君に訊いてみようかな」
飛希の突然の提案に、望緒は思わず驚く。
「え、まさかの直接訊いちゃう感じ!?」
「まあ、彼も自分の家系嫌いみたいだし、知ってるかはわからないけど、訊いてみる価値はある気がして」
「飛希がそれでいいんなら……いいと思うけど」
そんな話をしていると、襖の向こうから真澄の声が聞こえてきた。もう寝ろとのことだった。
「あ、じゃあ私もう寝に戻るね。また明日」
「うん、また明日。おやすみ」
望緒が出ていった後、飛希は布団の用意をして潜り込む。ゆっくり目を閉じ、考え事をする。
「向こうの人たちを嫌う理由、かあ」
そう呟いて、彼は眠りについた。
◇
翌日、飛希はいつものように身支度を済ませ、父や祖父と共に仕事場へ行く。望緒は社務所の表に出て、いつも通り御守りの授与を行っている。
仕事をしている時は、私語は特にないため、飛希は日向に話しかける機会を伺っていた。
話しかけられるとしたら、昼食を摂るタイミングだろうか。ただ、訊ねるところを現当主や日向の父に見られてしまってはならない。
日向は作業している手を止める。
「そういえばお父様、図書の間に本を取りに行かないといけないと言っていましたよね。僕、借りたいものがあるのでついでに取ってきましょうか」
「ああ、悪いな。頼む」
言われた日向はすくっと立ち上がり、飛希の腕を取る。
「じゃあ、行ってきます」
「あ、ああ……気をつけて……」
あまりにサラッと行ってしまうので、その場にいた全員が呆然としていた。
飛希は急に立たされ歩かされ、少しよろけてしまった。が、そんなことを気にせず、日向はガンガン進んでいく。
外に出たところで、日向は立ち止まり、大きなため息をついた。
「ここでいいですか」
「えっ」




