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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第二章 風
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三十一話 本

 翌日、昨日と同じように藤花と仕事をし、休憩時間が来たので休憩室に入り、成り行きで彼女と食事をすることになった。


 しかし、特に何を喋るでもなく、ただただ気まずい時間が流れる。望緒はやりづらそうに真澄が作ってくれたおにぎりを黙々と食べている。


 そんなところに、一人の女性が入ってきた。

 藤花と同じ白藤色の髪を片側に纏めた女性。どことなく藤花と顔立ちが似ているような気がする。

 女性は二人の様子を見て、ふうっと一息ついた。


「藤花、他人ひとともう少し積極的に関わりなさいと、いつも言っているでしょう」


「あ、ごめんなさい……。何話したらいいかわからなくて」


 その会話を聞いて、望緒ははっとした。


 ––––私から話題をもっと出すべきだった……!


「すみません、神和住さん。この子、かなりの人見知りで」


「い、いえ! 私もそんなに積極的に話しかけてなくて。あ、でも、仲良くなれたらなとは……」


 望緒が慌てて訂正をすると、恐らく藤花の母親であろう女性はふっと笑った。そんな傍ら、藤花はムスッとした表情を浮かべている。望緒はそんな様子を見て、こんな表情もできるのかと思った。


「そ、それで? お母さんは何か用があったんじゃないの?」


「ええ、図書の間に行ってきてちょうだい。望緒さんは外から来たというのなら、ここの事も勉強しておくべきでしょう。本が揃っているのは風宮うちくらいですからね」


「本?」


 望緒が呟くと、藤花の母は藤花の背中を軽く叩き、自分から説明するのを促す。


「えっと、風宮わたしたちの神社には図書の間という、この空間の成り立ちや過去起こった出来事などを書き留めた本が置かれた場所があるんです」


「へえ」


「今からそこへ行ってほしいんです。あなたがこの空間で生きていくと言うのなら、学ばねばならないことは多い。これを渡しておきます」


 そう言って手渡されたのは、木でできた手型のようなもの。そこには名前らしきものが書かれている。


「貸出手型です。それがあれば二週間ほど本を借りることができます。あ、ご安心を。真澄さんたちに話はつけてありますので」


「え、いいんですか? これ、藤花さんのお母さんの……ですよね」


「構いませんよ、お好きな本を借りてください。一度に借りられるのは五冊までですので、そこは気をつけてくださいね」


「ありがとうございます」


 じゃあ行きましょう、と藤花に促されたので、望緒は藤花の母親の横を通り過ぎようとした。その時、彼女は小さく口を開いた。


「望緒さん」


 望緒は不意に名前を呼ばれ、立ち止まった。


「はい?」


「もし、主人や義父に何かを言われても、戯言だと思って聞き流してください……私だけでは、どうにもできないので」


 そう言って、彼女は沈んだ表情を浮かべた。ただ、望緒にはその言葉の真意がわからなかった。どういうことか、それを聞こうと思ったが、藤花に呼ばれたので、聞くことはできなかった。



「ここですよ」


 到着したのは、町の様子が描かれた襖の前。襖を開けると、中は少し薄暗い。そしていくつもの本棚がある。本棚一つ一つに本がびっしりと並んでいるのが見える。


「あ、結構広い」


 もう少しこじんまりとした図書室のような所を想像していたが、望緒の予想に反して図書の間という場所は広かった。


 しかし、よくよく考えてみたら広くてもおかしくは無い。先程の藤花の説明では、この空間の成り立ちや過去が書かれた本があるとあった。


 八下が現世うつしよから姿を消したのは、約千年前。この空間はそれよりも前に生まれているはずなので、この広さでも何ら不思議な話ではない。


「お好きな本を借りてくださいね。基本的にどの本も借りることができるので」


「あ、ありがとうございます」


 そう言って藤花は望緒とは別の方向へ歩き出した。自分も見たい本があるのだろう。望緒からしても、共に行動は少し気まずいし、こちらの方がありがたい。


 色々見て回っているが、やはりどれも難しそうだ。望緒の世界にも歴史書なる物はいくつも存在していたが、如何せん彼女はそういった物には興味がないので、読みたいという気は起きない。


 いくつか手に取ってみるが、そもそも字が草書体の物が多いのでかなり読みにくい。


 ––––解説してもらいながらなら読めるかな……? いや、でも迷惑かなあ……。


 色々考え、結局借りるのを諦める。そんなことを繰り返しているとき、ふとある本が目に止まった。


 青の表紙で和綴じされた本。これは最近書かれたものだからか、行書体で書かれていて、望緒でも読める。パラパラとページをめくっていくと、ある文字が見え、反射的にページをめくっていた手を止めた。


 そのページに書かれているのは、『八下』の文字。これは八下のことも書かれている、それはさすがに望緒にもわかった。


 他の本にも書かれていた可能性はある。しかし、望緒が読める中では少なくともこれだけ。読む価値はあるかもしれない。


「藤花さん」


「はーい?」


「あの、これ、借りてってもいいですか?」


「はい、大丈夫ですよ。ではそこの管理人さんに手形を見せて、紙に名前を書いてください」


 望緒は藤花の説明通りに行動し、無事、その本を借りることができた。



 夜、望緒は部屋で今日借りた本を手に取る。早速読もうと本を開いた時、あることに気がついた。


「……あ、これ、古文だ」


 そう、その本は現代文ではなく、古文で書かれている。そもそも、現代文で書かれた本などあそこにあったのだろうか。


 しかし、本を見ている時に気づかなかったものか。八下の文字を見つけて咄嗟に借りようと思ったからか、よく見ていなかったのだろう。

 これはさすがに読めないと肩を落とす––––のだが、


「いやいや、諦めるのまだ早いから! 国語はまだ得意な方だったし、記憶を絞りだせ。頑張れ〜私!」

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