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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第二章 風
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三十話 外の者

「クシュッ!」


 風宮と石火矢が話し合いをしている中、一人の男がくしゃみをした。視線が一斉にその者に向けられる。


「……すみません」


「風邪なんてひくなよ。少しでも鍛錬ができないと技の精度が落ちる」


「……わかってます」


 風宮の当主は淡々とした口調でそう告げた。

 くしゃみをしたのは、風宮日向(ひなた)。次次代当主であり、藤花の双子の弟である。


「で、出水で強力な“念”が出たと?」


「ああ、その“念”は狼のような出で立ちをしていたそうだ。徳彦と飛希も見ている」


 風宮の当主はふんと鼻を鳴らすだけで、労いの言葉をかけたりはしなかった。


「……今後も、出水だけでなく石火矢や、ここ––––風宮でもそういった強力な“念”が出る可能性は十分にある」


「まあ、そうだな。それで、今後どうするかだが」


「“念”が集約しないよう、目撃情報が出たら迅速に対応する。それぐらいしか、今のところは思い浮かばないな」


 雄太郎の返答に、風宮の当主は黙ったまま頷いた。そして、ひとつため息をついて口を開く。


「ところで、だ。あの巫女は? この間まではそちらに本家の巫女などいなかったはずだが」


 その言葉に、辺りに張り詰めた空気が流れる。飛希はやっぱりかと言いたげな顔で彼の方を見つめた。

 雄太郎はおもむろに口を開く。


「––––()から来た子だ。預かり受けた」


 それを聞いた風宮の当主の表情がみるみる変わっていく。


「外の者を神聖な地に入れるなど……! それも巫女だ、お前たちはどんな思考をしている!」


「言葉を返すようで悪いが、外の者を巫女にしたからといって、なにか起きるわけでもないだろう」


「八下様のお身体を護る場だ。不浄な者を入れるなどありえん!」


「その不浄というのは、外から来た者のことか? 我々と何が違うと言うんだ」


「我々の方が清い存在だ」


「根拠がない。同じ人間だ」


 言い返され、何も言えない風宮の当主はバツが悪そうに舌打ちをした。その様子を日向は冷めた目で見ている。


「とりあえず、今日はここら辺で終わろう。うちの巫女はそのままということで」


 風宮の当主は雄太郎のことを睨むだけだった。



「つかれたー……」


「ですね」


 飛希の呟きに、日向が返答したが、気まずい空気が流れる。


「あ、飛希!」


 飛希がどうしたものかと考えている時、前から手を振って歩いてくる望緒の姿が見えた。


「望緒」


「おつかれさまー」


「ありがとう」


 望緒は返答に対し笑顔で返す。そして、隣に立っている、わか色の髪をした、飛希より少し背の低い青年が目に入った。


「あ、この人は––––」


「風宮日向です。藤花の双子の弟です」


「よろしくお願いします。あ、私は神和住望緒です。この空間(こっち)には最近来ました……」


 自己紹介をした望緒は軽く会釈をする。


「日向、どうだったの? 話し合い」


「ああ……」


「?」


 日向はチラリと望緒の方を見た。先程の話を本人の目の前でしていいものかと、考えているようだった。

 飛希はその様子を察知し、代わりに説明をする。


「出水で起きたことを話しましたよ。“念”が集約しないよう、目撃情報があれば迅速に、って」


「そうなんですね。……何も被害がないといいけどなあ」


 藤花はボソッとそんなことを呟いた。その顔は不安そうで、目線は下を向いている。


「まあ、その話は一旦置いといて。望緒さん、あなたには神社の手伝いをしてもらいます」


 ––––出水の時と同じだ。


「はい」


「具体的な仕事は明日から。詳しい内容は藤花が教えます」


「あ、はい」


 言われると、望緒はちらっと藤花の方を見る。目が合ってしまったので、お互い気まずそうに軽い会釈を交わした。



 その日の夜––––望緒は部屋で蝋燭ろうそくをつけ、字の練習をしていた。書き終わると筆を置き、ふうっと一息ついた。


「だいぶ上手くなったんじゃない?」


 誰に問いかけるでもなく一人つぶやくと、紙を持ち上げ自分の顔の真正面に持ってきた。


 半紙に書かれたのは、石火矢の神社の御朱印。初めて書いた時は丸々とした字だったが、今はかなり達筆になった。


「疲れた……寝よ」


 字を書くことに集中力を使い果たし、眠気が襲う。望緒は蝋燭を消し、布団に入って寝た。



「今日からよろしくお願いします……」


 翌日、藤花が望緒に挨拶をしたのだが、その態度は相変わらずオドオドとしていて、どこか関わりづらい。


「はい……」


「えと、ここでもやることは出水や石火矢と変わりません。望緒さんには、お守りの方をお任せします」


「わかりました」


 ––––そういえば、階段すごい長かったけど、参拝する人来る気がしないなあ。


 しかし、望緒の考えとは裏腹に、石火矢と出水の神社と何ら変わらない、もしくはそれより少し多いぐらいの人が参拝しに来ている。


「あんなに階段長いのに……」


「私も考えたことあるんですけど、それだけ皆さんがここを望んでいるんだと考えると、ちょっと嬉しいんです」


 藤花は控えめで嬉しそうな表情を浮かべる。望緒はその顔を見て、自分も嬉しくなった。

 その日は何事もなく終わり、望緒は風宮から借りた屋敷の自室で、御朱印の練習をしながら八下に話しかける。


「ねえ、八下!」


『ん〜?』


「昨日から風宮にいるんだけど、すごいね。みんな長い階段をもろともせずに参拝しに来るんだよ!」


『そっかそっか、それは良かったよ。ただ、気をつけろよ、いつまた“念”が現れるかわかんねえんだから』


「うん、わかってる」


 そして望緒は半紙と墨を片付けると、布団を敷いて眠りについた。

 ただ、彼女はこの時まだ考えてもいなかった。自分が、風宮の当主からどう見られているかなんて。

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