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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第一章 水
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二十五話 一方的な想い

 出水家であろう場所で、千夏は家族と笑いあっている。


「それでね、おにいちゃん、またお水のお花つくってくれたんだよ!」


「良かったねえ」


「爽玖、千夏を喜ばせるのはええけど、あんま霊力使いすぎんなよ」


「わかっとるよ。でも千夏が笑うんやからええやん」


 望緒の家庭とは違い、心温まる家庭。皆が笑顔で、笑いながら食事を取っている。


「全く、お前は口を開けば千夏と言うな」


 碧仁は呆れながらも、しかし嬉しそうな顔つきでそう言った。


「おう、大好きやからな!」


 爽玖はいつもの如く歯を見せて笑った。それを見て、家族も笑った––––千夏以外。


「? 千夏、どうかしたの?」


「……ううん、なんでも」


 そうは言うが、なんでもないと言う表情ではなかった。ただ目を見開いて、呆然としている。

 彼女は何かしらの違和感を感じていた。


 ––––なんか、ちゃう。この時の別の記憶がある。お兄ちゃんは、こんなこと言っとらんかった……。


『別に、そんなんちゃうし』


 頬を赤く染めて、気恥しそうに言っていた、そんな記憶が頭の中に流れてきた。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで、千夏は一度、箸を置いた。


「……ちょっとそと行ってもええ?」


「え、危ないやん。どうしてもって言うんなら、私も行くから」


「あ、なら俺行くで」


 爽玖が立ち上がって言うが、母はでもと渋っている。


「じゃあ、着いてきて」


「もう、気をつけてね?」


 千夏はここにも違和感を覚える。彼女の母親はこういうことには頑固で、絶対に認めてはくれない。しかし、今はこうして妥協した。


 絶対に、絶対にありえることでは無いはずなのだ。


 玄関から庭先に出ると、風を感じた。昼とは違い、少し冷たい風が肌を撫でる。


「……」

「……」


 二人は何も話さないでいる。幼い頃なら、二人になると爽玖が延々と話し続けるのだが、やはり何も話さない。


「––––それで、あんた誰なん?」


「……」


 千夏は爽玖()()()()()()に問いかけた。その頃には、もう幼い千夏はおらず、十五歳の彼女がいた。


「なんでわかったの?」


 ナニカは爽玖の姿のまま、気味が悪いほどに口角を上げた。


「性格が全然ちゃうもん」


「……そう」


 ナニカが呟くと、彼女たちの周りから景色は消え失せ、真っ暗になった。何も無い、不安を掻き立てるような場所。


「おかしいな。バレるはずないんだけど」


 少々イラつき気味に頭をガシガシと掻く。


 ナニカは頭を掻いていた右手をストンと落とし、光のない目を千夏に向けた。そして、ニイと不気味に笑う。


「なあ、お前こいつ好き?」


 不気味に笑ったまま、自分の体を指さした。


 千夏は質問の意図がわからなかったが、得体もしれぬ者の質問に答えたくなかった。だから答えなかった。


「そうかそうか、好きなのか」


「!」


 答えてもいないのに、自分が思っていたことを言われ、驚きを隠すことができなかった。


 ––––心でも読まれたんかな……。


 千夏はナニカを睨むが、ナニカは動じない。むしろ、光のない目に、彼女が怯んだぐらい。


「一方的で健気な想いだなあ」


 ナニカは一瞬で嘘泣きだとわかるような泣き真似をしながら言った。


「はあ?」


 千夏がイラついた表情を見せると、ナニカはより一層不気味な笑みを浮かべる。


「俺、お前のこと大っ嫌いやもん」


 それを聞き、千夏は目を見開いた。



『……はあ、当主がおらねば何もできぬのか。愚かよのう』


 誰からも返事はない。雨の音が響くだけ。なぜなら、爽玖たちは血を流して倒れているのだから。


「っ……」


 ほんの少し、爽玖が顔を上げるが、何もできない。土とともに拳を握り、悔しそうにする。

 爪に土が入り込み、汚れる。


 ––––動け、動けよ……。


「爽玖……っ」


 様子を伺っていた飛希が助けに入ろうとするが、徳彦に肩を掴まれ止められた。


 飛希が焦りの表情を浮かべたまま振り向くが、徳彦は苦々しげに首を振るだけ。今出たところで、自分たちも同じ目に合うだけ。


 それに、雨も止んでいない。火を出すには、この雨が止む必要がある。


 雨を降らせた当の本人は、何を思ってか、雨を止ませることはしなかった。黙ったまま、倒れている爽玖たちを眺めている。


『さて、爽玖きさまには()()()()を見せてやろう』


 そう言い、“念”は血みどろの当主の方へ歩いていった。爽玖はその一瞬で奴が何をしようとしているのかを理解した。


「やめろ……やめろよ……!」


 振り絞った声で止めるが、“念”は聞いてすらいない。


 ただ歩き、当主の元まで行く。彼の傍まで行くと、ゆっくりと口を開け、鋭い牙を顕にする。“念”の牙が当主の身体に触れそうになったその瞬間––––


『!?』


 一瞬身体が止まり、“念”は慌てて後ろに飛び跳ねた。


「……?」


 ––––なんだ? 一瞬、身体が言うことを聞かなかった……。体内なかで何が起こっている!?

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