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神は巫女の頭に宿る  作者: 榊 雅樂
第一章 水
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十七話 今まで通り

 翌日、昨夜は八下に呼ばれることはなく、いつもよりぐっすり眠ることができた。


 ––––なんか最近、飛希に避けられてる気がする……!


 朝一番にそう思った。


 しかし、避けられているというのは割と事実で、話しかけても軽く話したらすぐにどこかに行ってしまうし、何なら話しかけたらびっくりされてしまう。


 他にも、笑顔がぎこちなかったり、目をなかなか合わせてくれないなどなど……避けているであろう行動がいくつもある。


「何かしたかな」


 腕を組んで考えてみるものの、これといったことは特に思い浮かばなかった。


「うん、何もしてない!」


 大きめの独り言を言ったところで、望緒はもう一度考える。


「本人に聞きに行くか!」


 食事の時間になる前に聞きに行こうと、急ぎ足で布団を片付け、巫女服に着替える。

 できるだけ足音を立てずに飛希の部屋へ行く。


 部屋の前まで行くと、望緒は声をかける。返事があったので入ると、飛希はちょうど着替え終わったとこだったようだ。


「どうしたの?」


「……」


 なんと言うべきか迷う。


 ––––遠回しに言ったところでなあ。


「単刀直入に聞くけど、避けてるよね?」


「えっ」


 急にそう言われた彼の額には冷や汗が流れる。反応的には図星なのだろう。


「いや、そんなこと……」


 しかし、目を逸らしながら否定する。望緒がじっと見つめると、冷や汗の量が徐々に増えていく。


 しばらく見つめられたあと、観念したかのように小さくため息をつき、望緒の目をしっかりと見る。


「ごめん、避けてる」


「……なんで?」


「……」


 彼女が訊くと、飛希はまた黙り込んでしまった。


 だが、望緒にとっては説明されなければ何もわからない。だから、ちゃんと説明してほしいと考えている。


「ちゃんと説明するから、帰ってきてからでもいい、かな?」


 飛希は申し訳なさそうに手をモジモジさせながら言った。しっかり、目を合わせて。

 その感じで嘘とは思えなかったため、望緒は素直に承諾した。


「忘れないでね」


「うん」



「……まじで説明すんの?」


「うん、する。それで気持ち悪いとか思われちゃったら、その時は……まあ、色々考えるかな」


 寂しげな表情をする飛希に対し、爽玖はムスッとした表情をしている。


「もし仮に望緒がそんなことを言うようなやつなら、俺が意地でも引き剥がす」


「……うん」



 夜、帰ってきた望緒たちは、ぎこちないまま食事を済ませた。

 風呂に入る前に、飛希から呼び出しがあり、望緒は彼の部屋へ行った。


 襖に手をかけ、部屋に入り、飛希の正面に座った。


 座ったものの、どちらもなかなか言葉を発さない。それも無理はない。


 ––––なんて話そう……!


 ––––沈黙つらっ、でも私から聞いたら催促してるみたいになるし……!


 ご覧の通り、二人は話そうにも話せない状態だった。心臓がうるさく跳ねている。


 飛希は小さく呼吸を整えて、口を開いた。


「えっと、何から聞きたい……?」


「何から……?」


 飛希から問われると、彼女は顎に手を当て、少し考える。


「じゃあ、お面をつけてる理由から」


 そう言うと、飛希はわかったと頷いた。


「僕の目は、“ある理由”で他人に見せちゃいけないんだ」


「どうして?」


「この目を見た人は、精神がおかしくなっちゃうみたいでさ。昔何人かに見られたんだけど、全員気がおかしくなったんだ」


 見られてはいけない目は、望緒が霊力が集約される前に見た、あの赤い瞳のことだろう。


 重い話だと承知していたものの、やはり実際に聞くとなんと反応していいかわからなくなる。望緒は何も言わず、ただただ話を聞いている。


「それで、そうなっちゃった理由なんだけど、小さい頃に一人で森の中に入っちゃってね。そこは野生動物が出るから行くなって言われてたんだけど、好奇心で行っちゃったんだ」


 先程から飛希は、下を向きながら話している。望緒が部屋に入ってきてから一度も、彼女の目も顔も見ることは無かった。


「そこでね、小さな“念”を見つけたんだ。人魂みたいな形をしてたから、どうせ弱いだろうって思って、無視して森を歩いてた。そしたら、急にその“念”がこっちに飛びついてきた」


「……」


「飛びついてきた場所っていうのが、今お面で隠しているこの左目だよ。“念”がようやく離れてくれたと思ったら、この有様だ。自業自得なんだよ」


「……」


 飛希が話し終わっても、望緒は何も言わないでいる。いや、言えないという方が正しいだろうか。


 自分もつらい思いをしてきた自信はあれど、それはいっても自分が苦しむだけ。彼のように、思ってもいないところで人を傷つけるようなことは、さすがに無かった。


 自分が経験してもいないことに、無責任な言葉は投げかけられない。それは逆に、苦しんでいる者を、余計に苦しませることになる。


「……なんて言うかさ」


 望緒が言葉を発すると、飛希はビクッと反応した。


「重いね」


「……え、あ、うん?」


 サラッといった物言いに、飛希は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


「いやあ、重すぎて何て声かけたらいいかわかんない。何て声かけたらいい?」


「……はは、それ、本人に聞いちゃダメでしょ」


 今まで強ばっていた飛希の顔が、やっと緩み、口角が上がる。それに対し、望緒は自信満々の笑みを浮かべている。


「でも、そうだなあ。かけてほしい言葉とかは無いけど、今まで通り接してほしい」


「! もちろん」



 飛希の部屋の前で、真澄たちがこっそり話を聞いていた。二人は嬉しそうな、穏やかな笑みを浮かべていた。

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