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歓迎のパーティー



着替えを行う際、魔文の呪いの文様が見えてしまう可能性がある。

よって、医師から渡されたのは、文様を見えなくする魔法の指輪だった。

身に付けている限り文様を見えなくしてくれる優れ物ではあるが、病気の進行具合に伴って意味が失われる可能性があるらしい。



そんな指輪を見て、使用人達は素敵な指輪だと沢山褒めてくれた。

なにせ見た目はシルバーリングにエメラルドの様な宝石の着いた指輪にしか見えないのだ。


それから公爵家に仕えるメイド達の手によって、アンジェは更に身支度を整えられた。

亜麻色の髪の毛先は巻かれ、ふわりと柔らかく。

オレンジ色の薔薇着いた髪留めをつけ、ルーンから贈られた黄色のドレスに身を包んだ。


先程まで着ていた白いドレスは少しまだアンジェには大人っぽ過ぎたが、ルーンから贈られたこの淡い黄色のドレスは子供過ぎず、大人過ぎないデザインでアンジェはすっかり気に入っていた。



「奥様。正式なパーティは後日行う予定ですので、本日は屋敷の中で小さな形ではありますが、歓迎パーティを楽しんで頂けたら幸いでございます」



「ありがとうございます」



アンジェはそう御礼を告げると、晩餐室へと向かった。

するとそこには、豪華な食事が用意されていた。


あまりにも予想とは違った持て成しにアンジェは困惑している。


そして何より今は、なぜ自分に対して使用人達が何一つ陰言を言わないのか気になって仕方なかった。



「このパーティも全て旦那様の考えなんですよ。奥様がどうしたら喜んで下さるか一つ一つ丁寧に考えて下さったんです」



「そ、そうなんですね…」



まだルーンと一度も会った事がないが、もうこの時点でルーンがどれ程良い人間なのかが良く分かった。

まさかこれ程までの持て成しを受けるとは予想もしていなかった。


アンジェは椅子に腰掛け、ルーンの帰りを待った。



しかし、どれだけ時間が過ぎてもルーンが帰ってくることはなかった。



「奥様。旦那様は仕事が長引いてしまっているようで……先にお召し上がりになって下さい」



「分かりました」



メイド長にそう言われ、アンジェは豪華な食事を口へと運ぶ。


いつもと変わらない寂しい食事。

けれど、家で食べるよりは余っ程良いとアンジェは思った。





□○□○□○□○□




それからアンジェが公爵家に嫁いで早くも一月の時が過ぎた。

しかし、未だにアンジェはルーンと顔を合わせてすらいなかった。


どうやらアンジェが眠った頃にルーンは帰宅しているらしく、アンジェが起床する前に仕事に行ってしまっている為、会えない日々が続いていた。



(避けられてる可能性もあるよね~)



いくら優しくて評判の良い公爵様でも、やはり子供相手には興味なんて無かった様だ。

まぁ、アンジェはそれでも気にしないし本来、そう言う未来を描いて結婚したのだ。逆に想像通りの日々を送ることになりそうなので特に問題は無い。


部屋の扉がノックされた。

アンジェがどうぞ、と返事をすれば扉が開き、一人の少女をアンジェの部屋へと入って来た。


赤茶色の髪を二つに束ね、黄緑色の瞳を持ったその少女は、一見アンジェとあまり歳が変わらなさそうに見える。

その少女──イリスは、アンジェの専属侍女として付けられた新米メイドである。


そして、そんなイリスの手には二通の封筒が握られていた。



「奥様。リア様とミルキー様…という方からお手紙が届いておりました」



「え!? あ、ありがとうございます」



アンジェは慌てた様子でイリスから手紙を受け取る。

どちらから目を通そうか迷ったが、リアからの手紙を読もうと封を切ろうとすれば、深い罪悪感に突如襲われた。


結局、リアからの手紙は一旦テーブルの端に置き、アンジェの専属医師であるミルキーから送られてきた手紙から目を通す事に決めた。



手紙に書かれていたのは、結婚生活の話を聞きたいと言うものと、体調を心配する言葉。それからミルキーが週二に一度検診にやって来ると言うものだった。

勿論、ルーンや使用人達にはバレないような形での訪問診察となるらしい。



(まぁ、公爵にバレたりでもしたら先生の首も飛ぶだろうし、私も気をつけなきゃね)



医師のミルキーは、アンジェにとって数少ない自分を守ってくれた大切な人だ。そんな大切な人を困らせるのは嫌だ。


そしてアンジェは再び、リアからの手紙を手に取った。震える手で何とか封を切れば、そこには規則正しく書かれた文字が綴られていた。

その文字を見ただけで、アンジェの心が穏やかな気持ちへと変わる。


リアからの手紙の内容は、学校での暮らしのこと。美味しいお菓子を見つけたから食べさせてあげたい。そして、何よりアンジェの体調を気遣う言葉が綴られていた。リア自身、勉強で忙しい日々を送っている筈だ。きっと辛いこともあるだろう。それなのに、弱音一つ吐かず、ましてやどんな時でもアンジェの事を思ってくれているリアに、更にアンジェの心がギュッと…苦しくなった。



病気のこと、結婚のこと。本当は凄く不安で、リアに打ち解けたい。出来るなら、ギューッと抱きしめて欲しい。


けれど、リアは今隣国で必死に頑張っているのだ。

……これ以上は足を引っ張る真似は絶対にしたくない。


だから平然と、いつも通り手紙の返事を書こうと筆をとったが……

しかし、直ぐにその手は止まった。



「どうかなさいましたか?」



「……書く内容が思い浮かばなくて」



「それは結婚生活について、でしょうか?」



「え、そうでは無いんですけど…その、お姉様になんて書いたらいいんだろう…って」



今まで、リア宛の手紙で書く内容を迷ったりしたことなんて一度もない。リアとは、手紙でしか話をする事が出来なかった為、いつもは沢山書きたいことがあり過ぎて困るくらいなのだから。



「……成程。では、今からピクニックへ行きませんか?」



イリスの提案に、アンジェは「え」と言葉を漏らした。




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