ふさわしい人
今日の午前中は休暇と言うことで、二人は少しの間、話をする事にした。
「えっと……旦那様は、深く魔法を探求されていますが、一体どの様な事を行われているんですか?」
ルーンと言えばかなりの魔法馬鹿だと噂されているし、何より本人も自称するくらいだ。
アンジェは魔法が使えないが、知識だけならかなり豊富だ。是非ともルーンの話を聞きたかった。
興味津々な眼差しに、ルーンは微笑む。
「私は魔物の調査をしているんです。最近、魔物が集落を襲い、壊滅される事件が後を絶ちません。昔から良くあった事件ですが、ここ最近は特に酷い。私は、そんな魔物達からこの世界を守りたいと考えているんです」
ルーンの穏やかな笑みが、一瞬酷く冷たいものへと変わった様な気がした。
彼の抱く未来の世界。
それにアンジェは息を飲んだ。
前々から魔物の大群によって集落が襲われる事件が度々あった。けれど、その事件は徐々に少なくなりつつあったのだが、ここ最近になって突然また魔物の襲撃が多発する様になったのだ。
イリスもまた魔物の大群によって故郷を失った一人である。
魔物の大群の襲撃に、たくさんの村と人々の命が失われた。
そしてそれは確か……
「私の家族もまた、魔物の出撃で命を失いました」
ルーンの言葉にアンジェは小さく頷く。
ルーンの両親、そしてまだ当時十歳だったルーンの妹のルチアは両親と共にとある集落に仕事へお向かった。
運が悪かったのか、それとも神様によって定められていた運命だったのか、仕事先の集落が魔物に襲われてしまった。
出撃を受けた後の集落は酷い有様だったと聞く。
残っていたのは崩れ落ちた建物や壊れた農具ばかりで、人間の姿は何処にも無かったとか。
「だから私は魔物からこの世界を守りたい、そう考える様になりました。だから、私はまだ魔法を極めなければならないのです」
ルーンの言葉にアンジェはただ頷くことしか出来なかった。
そして同時に、形だけではあるが、自分はルーンの妻には相応しくない。そんな思いが心の奥底に一つの灯火の様に姿を現せた。
▢◇◇▢▢▢◇◇◇◇◇◇
昼過ぎになった頃、リディスがやって来た。
アンジェは何処か上の空の様子。
「え、ついに公爵に会ったのか?」
「うん。今日突然ね」
「ふーん。で、感想は?」
「色々話したよ。で、私なりに思うところがあった」
「思うところ?」
「うん、まぁそれは良いの。あ、そう言えば公爵は、私が十八になった時に妻として扱うって言ってたかな」
アンジェの言葉にリディスは目を大きく見開いた。
そして突然、勢いよく立ち上がり声を上げた。
「お前、それで良いって承諾したのかっ!?」
あまりにも大きな声だったので、アンジェは圧倒される。だから、頷くことしか出来なかった。
一方、リディスは表情を歪めさせた。
だから一瞬、泣いているのかと勘違いしてしまいそうになった。
「ルーン公爵が私が十八になるまで待ってるのって、つまり今の私は恋愛対象には入らないからでしょ? なら仕方ないよ。それに、十八になる前に捨てられるに決まってるし。まぁ、私は公爵には相応しくないって心底思ったしね」
「捨てるって……。ルーン公爵は良い人って有名じゃん。それに相応しくないってどういうこと?」
「確かに本当に良い人だよ。けど、運命って突然やって来るってレベッカさんの作品でヒロインが言ってたの。私も確かにって思わず賛同しちゃったの。これはね、公爵、私。そしてリディスにだって言えることだよ。誰だって運命の人がいる。だから、私は公爵の運命の人じゃないって思ったの。だから私は相応しくないってこと」
ルーンには叶えたい夢がある。
その夢はあまりにも偉大で、素晴らしい夢だと思う。
そんな夢を抱くルーンには、あまりにも自分は不釣り合いだとアンジェは思ったのだ。
妻とは夫を支える何よりも強い味方だとアンジェは思っている。
けれど、アンジェは魔法が使えない。そして余命宣告まで受けてしまっている。
そんな自分がルーンを支える事なんて出切っこない。
だからアンジェは決めた。
「旦那様に相応しい人を私が見つけるっ!」
アンジェの言葉にリディスは目を見開いた。
そして「はぁ!?」と声を荒らげた。
ルーンに相応しい人。
その理想は、アンジェの大好きな姉のリアである。
なにせ、リアは性格、容姿、技能、人脈と言う四つの点で全て完璧だ。
しかし、リアには実はもう想い人がいる。勿論、両親はそれを知らない。
だから、リアの様な(アンジェからしたらリアを超える人は居ない)女性を探そうと心に決めた。




