十二歳の誕生日
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とある村の領主の娘であるアンジェは、雪のように白い肌と、光沢のある美しい亜麻色の髪に淡い黄色の瞳を持つ愛らしい少女だ。
そして幼い頃から、他の子と比べてよく体調を崩す病気がちの少女でもあった。
そんなアンジェが十二歳の誕生日を迎えた。
誰もがアンジェの誕生日を祝い、幸せに満ちていたその日、アンジェの体に突然異変が起きた。
『これは良いモノを見つけちゃったかも』
突然頭の中に響いた誰かの声。
そして同時に体中に渦巻く何かの気配。
気づけば口から大量の血を吐き、アンジェは倒れていた。
それからの屋敷は大パニックに陥いる中、アンジェの診察が行われた。
そして医師が告げた言葉に、誰もが言葉を失った。
「アンジェ様は…あと六年しか生きる事が出来ないでしょう」
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余命宣告を受けた翌日。明らかに皆動揺し、未だに現実を受け入れられずにいた。
しかし、その現実を受け入れられない理由は、あまりにも残酷な理由からであった。
「アレは見た目だけが取り柄なんだぞっ!? せっかく公爵家に嫁ぐことも決まっていたと言うのに病気持ちでしかも余命宣告まで受けてしまった! 公爵にこれが知られたら絶対に縁談の話は破棄されるぞっ!?」
父親の怒鳴り声がアンジェの部屋にまで聞こえた。
激しい怒りに満ち溢れた怒鳴り声に、アンジェはベッドの上でビクリと肩を震わせ、小さな体を更に小さくさせた。
社交界ではいつも優しく、穏やかな笑みを浮かべる温和な性格の父親だが、本当にそんな父親は存在しない。
本来の性格は、自身の娘を商品としか思っていないクズ野郎なのである。
そしてそれは母親も同様で、二人して更なる力と地位を求め続けている。
そんな二人が特に期待を寄せているのが姉のリアだ。なにせ、姉のリアは容姿も良ければ、頭も良い。そしてこの世界で一番と言って良い程重要な魔法の才能もある。
だから両親は、リアを王家に嫁がせたい、そう考えているらしい。
一方、アンジェはリアと同様に整った容姿をしているもののとある大きな欠点を持っている。それは魔法が使えない、と言う欠点だ。
魔法を使うには、魔力を放出する為の扉が必要だ。
本来、その扉は一つだけ有るのだが、アンジェだけは生まれつきその扉が十個存在した。その為、アンジェは魔法を使えば急激な魔力消費に体が追いつかず死に至ると医師から伝えられていた。
だからアンジェは生まれてから一度も魔法を使ったことが無い。つまり、使えないのだ。
魔法が使えないと言うのはこの世界ではあまりにも大きな欠点過ぎた。
だから両親は、容姿だけがアンジェの取り柄だと思っているし、そんな唯一の取り柄を汚さないよう、食事の管理や身だしなみは徹底的に使用人達に行わせた。
そんな管理された生活のおかげで、アンジェはここまで美しく立派な乙女へと育った訳だが……
「ほんと、あの人は子供を一体何だと思ってるのよ……」
そう言ってアンジェは頬を膨らまし、ベッドへと潜った。
その様子は、余命宣告を受けた後とは思えないほど、心が乱れている様子は一切無く、逆に落ち着きに満ちている様子だった。
長く手入れの行き届いた亜麻色の髪を撫でながら、アンジェはベッドの上から窓の外を見つめる。
(あと六年…か)
長いようで短い。そんな気がした。
なにせ、両指が足りないくらいの数字なのだから。
あと六年しか生きられないと聞いて、勿論アンジェだって驚いたし、認めたく無かった。そして何より泣きたかった。
けれど、両親からは一切悲しみの声は無く、ただただ冷酷な視線と言葉を浴びせられるのみ。
自分に存在価値はあるのだろうか。
そんなの分からない…。
そうアンジェは自問自答を繰り返す中で、涙さえ乾ききってしまっていた。
医師から伝えられた病名は『魔文の呪い』だった。
魔力の量が極めて多い大人が患いやすい病気であり、魔力を徐々に黒い禍々しい紋様が食いつくして行き、体を蝕んでいく病であり、最後は魔力を空になるまで吸われ、死にいたる。
そんな魔文の呪いについてはまだ分かっていない事ばかりだ。例えば、完治する方法も、何が原因で発病するのかも分かっていない。
現にアンジェの左腕には黒い禍々しい文様が浮き上がっている。
本来は命までは奪わない病気ではあるが、アンジェはまだ幼いために文様が体を侵食していく進行が速く、六年後には死に至ると告げられたのだった。
(そう言えば、あの時誰かの声が聞こえたような……)
そうふと、アンジェは倒れる前に聞いた誰かの声を思い出した。しかし、ハッキリしない記憶なので、きっと聞き間違いだろうと、片付けた。
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