BSSサッカー
「イッちゃん! カズ! ガンバレェー!!!」
試合終了まであと1分。1点差で負けている俺達に最後のチャンスが舞い込んできた。いや、俺がもぎ取った。不用意な相手のパスをインターセプトした俺は、全力のドリブルで相手陣地内へと一気に攻め上がった。そして、姿は見えないが多分そこにいるであろう和也に向けて、最高のパスを送ってやった。
「うぉおおおおお! 決めろぉ~! 和也!!!」
「任せろ! 伊槻!」
俺の予測と寸分違わぬ位置でパスを受け取った和也。今から奴が何をするのか俺は知っている。
ゴールまではまだ少し距離がある状態。相手のディフェンダーは必死になってゴール前を固めようとしている。そのため、ほんの一瞬だけ和也の自由を奪うものは誰もいない空白の時間が生まれた。
―――ズバァーン!!!
ペナルティーエリアの外から放たれた強烈なシュート。それは弾丸のようにゴールに向かって突き進む。
俺にとっては予想通り。だが、敵にとっては想定外のロングシュート。DFは呆気に取られて全員その場で立ち竦む。だが、放たれたシュートは敵の意識に関係なく、モーレツな勢いでゴールに吸い込まれようとしていた。
―――バシッ!
何かをはたくような音が聞こえた。それと同時に、ボールはほんの少しだけ軌道を変えた。そして、ボールはゴールポストのほんの少しだけ上を勢いそのままに通過していく。
………ほんと、ナイスキーパーだ。―――クソが!!!
その瞬間、俺も和也も地面に膝をついた。
試合終了。
俺と和也の中学サッカーはこれにて幕を閉じた。県大会ベスト4。準決勝進出。なんか上出来のような中途半端なような成績に感じるが、やり切った感は十二分にあった。
「お疲れさん。負けちゃったのは残念だけど、二人ともよく頑張ったね。凄くカッコ良かったよ…」
試合が終わり、ミーティングが終了すると、応援に来てくれていた綾奈は俺達の元へ歩み寄り、労いの言葉を掛けてくれた。
「そうか? カッコ良かったか?」
負けたショックを必死に隠し、おどけた感じで笑いながらそう言った俺の親友 関 和也。
「あ~あ。これで部活も終了か…」
完全に気が抜けてぼんやりとグラウンドをただ眺めていた俺。…加瀬 伊槻。
「うふふ… これで全員部活は引退だね。じゃあ約束通り来週にでも残念会をやりますか?」
そして、最後となった俺達の試合に精一杯の応援をしてくれた少女。……岬 綾奈
「「異議な~し!」」
綾奈の提案に快く答えた俺と和也。
俺達3人は中学時代の青春という熱い時間を共に過ごし、深い絆で結ばれたかけがえのない仲間だった。
…………さて、これで区切りはついた。いよいよだ。
岬 綾奈。
俺がいつも「綾」と呼んでいるこの娘とは、中学1年のときからの知り合いだ。中学1年生になって初めてとなるクラス。そこに綾はいた。
愛嬌のある顔をした、わりと可愛い女の子。…それが綾の第一印象だった。決して「クラス一の美少女」って感じではないのだけれど、彼女を見た瞬間から俺は少しばかり彼女の事が気になるようになっていた。
やがて部活の勧誘が始まり、俺は予定通りサッカー部に入ったのだが、練習が始まるようになりグランドに出るようになると、そこで思わぬ顔を見かけることとなった。
必死になって球拾いに明け暮れている可愛い女子。先輩に気を遣いながらも笑顔で楽しそうに頑張っている。
………へぇ~。岬さんってソフトボール部に入ったんだ。
一生懸命になって、入ったばかりの1年生としての雑用に明け暮れている岬さん。でもその表情はなんだかとても楽しそう。そんな彼女の顔を見ていると、俺は自然と応援したいって気持ちになってしまった。……とはいえ、かくいう俺もその時はただの先輩の下僕。やってることと言えば岬さんと変わらないんだけどね。
それからもぼんやりと彼女を眺めていた俺だったのだが、いきなり彼女はこちらを向くと、全速力でこっちに向かって走り始めた。……え? バレちゃった?
チラチラと盗み見してたのがバレたのかと思った俺は、脳みそフル回転で言い訳を考え始める。だが、彼女の視線の先を辿ると、彼女がこちらに走ってくる理由が直ぐに分かった。
俺の足元に向かってコロコロと転がってきたソフトボール。腰をかがめ、俺はそれを素手でキャッチして拾い上げた。既に俺の近くまで走り寄っていた彼女は、その様子を見てその場で立ち止まる。俺は一歩二歩と彼女に近寄り、彼女のミットめがけて軽くボールを投げた。
「ありがとう。えっと…加瀬君だったよね?」
「そうだよ。君は確か…岬さんだっけ?」
名前など前から知っていたのに、すっとぼけてそう答えた俺。
でもこれが、俺と綾が交わした初めての会話であった。
「加瀬君ってサッカー部に入ったんだ」
「ん? あ、ああ… まあそんな感じ。岬さんはソフト部なんだね」
「うん。兄のせいで私も野球が好きなもんで。えへへ…」
「なるほどね…」
「お互い入ったばかりで辛い時期だけどがんばろーね」
「お、おう…」
「じゃあね」
愛嬌のある最高に可愛い笑顔を俺に向けると、彼女はその言葉を残してダッシュで元居た場所へと戻っていった。
初めて彼女を見た時から、俺は何かを感じていた。そして今、俺は「何か」というものの正体を知ることになった。心の底から湧き上がるこの強い想い。もうそれを抑えることなどできない。
―――惚れちゃった。
まあそーなりますよね。
俺に励ましの言葉を与えてくれた彼女の笑顔。それは俺にとって至高ともいえるものだったんだから。
それから俺と綾はクラスでも良く喋るようになった。グラウンドを共有していることもあって部活でもちょくちょく顔を合わせる俺と綾。同じ体育会系という事もあり、話も通じやすく、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。だが、綾と親しくなっていったのは俺だけじゃない。俺と近しくなるという事は、もう一人とも必ず近しくなることとなる。
そのもう一人とは……俺の小学時代からの親友、関 和也
小学生時代に入っていたクラブチーム時代からの親友。負けん気の強い俺と和也は何度も殴り合いの喧嘩を繰り返していくうちに、いつしか切っても切れない関係となっていた。中学に入れば一緒にサッカー部へ!…その言葉通り、俺と和也は入学直後からサッカー部に入部した。
グラウンドで俺と綾が喋っていると、当然って感じで和也もそこに入ってくる。陽気なイケメンで喋り上手な和也。愛想よく優しい綾。この二人があっという間に仲良くなったのは言うまでもない。
それからは俺達3人での青春が始まっていった。
一生懸命部活に勤しみ、レギュラーを勝ち取るために奮戦した俺達3人。やがて2年生になると、俺達3人は揃ってレギュラーの座を勝ち取ることが出来た。俺は念願のMF、和也はバリバリのFW、そして綾はなんとピッチャーに。
「あやっちのフォームってさ、見てて惚れ惚れするよな…」
「………ああ」
たまたま見かけた綾の練習風景。
和也はその華麗なフォームをひたすら称賛していた。そして俺はというと……感動のあまり言葉が出なくなっちまった。
大人しそうな見栄えとは裏腹に、豪快に腕を振り下ろす綾のピッチングフォーム。その手から離れたボールは信じられないような速度でキャッチャーのミットへと収まっていく。細くて華奢なあの腕からどのようにしてこれだけのエネルギーが生み出されるのか?…不思議には思うがその理由などどうでもいい。ただ、その美しさだけを讃えたいと思った。
そんな感じで部活が中心だった俺達の中学時代も、とうとう区切りを迎えることとなった。俺達のチームが負けたことにより、これでめでたく俺達3人は全員部活を引退することに。
―――よし、これで踏ん切りはついた。
俺は告白を決意した。
部活さえなくなれば自由な時間は増える。これでようやく綾に告白することが出来る。
………そして1週間後。
三人で行われた残念会。それから帰ってきた俺は……真っ白に燃え尽きていた。まるで消し炭のように…いや、そんなぬるいもんじゃない。今の俺は春のそよ風に吹かれるだけで、見事にこの世から消滅してしまいそうなただの燃えカスとなっていた。
「伊槻… 今まで黙っててすまん。実はな…………」
三人で集合した瞬間にいきなり始まった和也のカミングアウト。
和也は既に綾を彼女にしていやがった。しかも、たった3日前から…。
―――や~ら~れ~た~!!!
もしかして? とは思っていた。が、和也はかなりモテる。確か学年で3番目ぐらいの美少女にも言い寄られていたはず。だから俺は、和也はきっとそっちへ行くだろうと高を括っていたのに…。
「やっぱさ、あやっちの笑顔に勝てる女子なんて他にいねーだろ?」
俺の前で堂々とそうのたまいやがった和也。―――あ゛あ゛あ゛っ、ぶっ殺してやりてェー!
そんなのとっくの昔から知ってたんだよ! しかもそれに気付いたのは俺の方が先だって! それにな、お前だったら綾以上の美少女をいくらでも入れ食いでGET出来るだろーが! 女の趣味を俺と被らせてんじゃねーってんだよこのクソ親友が!
だが、綾を目の前にしてそんな事を言える筈も無い。
それに、恋は先手必勝。ボケっとしていた俺が悪いのは誰の眼から見ても明らかだろう。そしてなにより、―――綾は和也の告白を受け入れたのだから。
結局、その日の俺は必死になってその場その場をやり過ごしていった。
「そっか。綾にも初めての彼氏が出来て本当に良かったな…」…この言葉を吐いた瞬間、俺の心は闇堕ちどころかブラックホールの最深部へと堕ちていった。だが俺は、ボロボロになりながらもなんとかその日だけは根性で体裁を取り繕った。
綾の事だけを想い続けて2年と少し。俺の儚い初恋は、告白という最大のイベントを迎えることなく、ただ闇の中へと静かに消えていった。……ああ、いとをかし。いや、全然おかしくはない。
―――それから1年と少しの時間が経過して―――
俺、和也、綾奈の3人は同じ高校に通っている。
ただ、クラスは全員バラバラ。そこだけは本当に救われた。
高校に進学して、半年以上が経過した今の状態はと言いますと、……
和也と綾奈は安定のベストカップル。ただ、和也は進学に向け予備校通いを始めたため、今はサッカーをやっていない。綾もそんな和也に合わせてか、今は部活をやっていない。そして俺。俺は未だにサッカーをやり続けている。しかも、中学時代よりも5割増しで熱中するほどに。
今の俺は失恋で味わった恨みをサッカーにぶつけている。これでもかってぐらいに。そんな俺のサッカーを一言で表現するならば、これが最もふさわしいだろう。
名付けて……『 BSSサッカー 』
ぼ、ぼくが最初に好きだったのにぃいいいいい!!!
からの、
この恨み、サッカーで晴らしてやるぅうううう!!!
親友に初恋の綾を盗られた。僕が最初に好きだったのに。(BSS!)
だが、和也と綾にこの怒りを向けることなどお門違い。そんなの分かってる。じゃあこの苛立ちを誰にぶつければ良い? 無関係の人間を殴ることなどできないし…。だが、だが、どーしても誰かを殴りたい!
………ピコーン!
あった。そうだ! 俺にはサッカーがあるじゃないか!
サッカーに乱闘なんてつきものだ。それに、審判に見えない所ではいつだって暴力の応酬が行われている! これなら合法的に誰かを殴る事だって可能だ!(注意:決して合法ではありません)
そー言う訳で、俺は監督に願い出てとあるポジションをGETした。何と言っても俺は中学時代にベスト4まで駆け上がったチームの元MF。当然、1年生ながらも即レギュラーであり、監督からも大いに期待されていた逸材。だから監督もすんなりと俺の願いを聞き届けてくれた。
俺が願い出たそのポジションとはFW。敵チームのDFが目の敵になって潰そうとしてくる乱闘に最も近いポジション。当然、接触などざらに起きる。その接触が切っ掛けとなり乱闘が自然発生しちゃったり…
むふふ… かかってこいや!!!
ってか、かかってきてくださいほんとお願いします。(只今乱闘高価買取中)
まあそう言う訳で、今の俺は誰もが認める超攻撃的FWとなっている。俺が目指すもの、それは乱闘のみ。ゴールを決めることなど相手を煽るためのオマケでしかない。
ピッチに立つ俺は獲物を狙うオオカミと化す。だから、先輩だってビビッて俺にはあまり近付こうとしない。そんな俺は、試合の度に敵のDFを粉砕することにのみ生きがいを感じていた。
イエローカード?……何それおいしいんですか?
シュートが決まって得点GET?……何が嬉しいの? 皆は喜んでるけど。
ハットトリック完成!……だから?
違う違うそーじゃないんだってば!
俺が求めてるのは得点なんかじゃない。いきなり俺の胸倉を掴んでくる勇者を求めてるんだってば!
異様な雰囲気を纏いながら、狂気じみた攻撃を繰り返す俺。だが、何故だか意図せず得点だけはGETしてしまう。俺的にはそこに何の興味も無いのだが、チームメイトにはそれが頼もしく感じられるらしい。だからなのか、いつの日から俺に送るパスだけが特別な名前で呼ばれるようになっていった。
その名は……『 サイコパス 』
「いやぁ~ サイコパスさえ決まれば俺達のチームに負けは無いな」
チームメイトはそう言って俺のことをなぜか讃える。(?)
BSS!BSS!BSS!……この言葉が俺を奮い立たせる。
試合中、俺はずっとこの呪文を口ずさんでいる。
はっきり言おう。今の俺は歪みまくっている。練り消しですら真っ青になる程に。そんなの、自分で分かってる。だが、どうしようもない。だって、和也と綾を心から祝福する気持ちと、綾を盗られたって気持ちがしっかりと同居してしまってるんだから。今の俺は人間として最低だ。ほんとに…。
「ねぇいっちぃ~」
「ん? どったの片瀬さん」
お昼休み、昼食を終えた俺が眠たくてぼんやりしてると、クラスメイトの片瀬愛莉がいつもの感じで俺に話し掛けてきた。
「今週末ってさ、うちの学校で練習試合やるんだったよね?」
「ああ。前も言った通り相手は去年のベスト4のチーム。よくもまあ向こうから試合をしに来てくれるって思うよ」
「へぇ~。でもさ、強いってことは、やっぱ相手チームの面々はガチのスポーツマンって感じなの?」
「そんなのあたり前だろ。じゃないとベスト4になんて絶対に入れないよ」
「うふふ…そっかそっか。ならさ、その試合を私も観に行ってい~い?」
「そんなの全然OK。ってか、片瀬さんが応援に来てくれるとチームの奴らも張り切りまくるよ」
「キャハハハ… も~う、いっちはいつも調子いいんだから~」
「そっか?」
「そーよ。クスッ。 それじゃ、試合を楽しみにしてるね」
そう言って小さく手を振ると、ルンルンと言った感じで去っていった彼女。
片瀬 愛莉さん。
俺と同じ1年2組の女子なのだが、彼女の名は他の学年にまで知られている。彼女はクラスどころか学年でもトップを競う美少女。初めて見た時は俺もその存在が信じられない程だった。
少し明るい髪色をした彼女のトレードマークはふさふさと良く揺れるポニーテール。ちょっとだけギャルっぽく見える彼女なのだが、その顔は相当に美しい。色白できめ細やかな肌に愛嬌のある大きな瞳、それに形の良い唇。その調和のとれた顔はまるで芸術作品のように美しい。特に白いうなじに明るい髪が重なると、絶妙のコントラストと言うか、思わず見惚れてしまいそうになる。
そして彼女の特徴というか、彼女には自他ともに認める趣向がある。
それは彼女が大の「スポーツマン好き」ってこと。だから彼女は俺を含めたスポーツマンには積極的に話しかけてくる。しかもちょっと馴れ馴れしい感じで。俺が綾以外に「いっち」と呼ばれたのは彼女が初めての経験だった。
でもまあ、片瀬さんが応援に来てくれると盛り上がるか。
彼女がグランドの端でいるだけで、チームメイトの血圧は一気に上昇する。ってことはだな、ラフプレイ発生確率も一気に上昇って感じだ。むふふ…見える、俺には見えるぞ! フィールドがいつしか「ヒャッハー!」となっている未来が!
―――そして試合当日。
「伊槻、せっかく俺が観にきてやったんだから負けるんじゃねーぞ」
「お、おう…」
「いっちゃん、最後まで応援してるからね」
「あ、ああ…」
前日にラインがきていて知ってはいたのだが、グラウンドの傍には親友である和也と綾が来ていた。ただ―――なぜだか二人はグラウンドを挟んで反対の方向にいる。別々に。
………いったいどうした?
二人は別れちゃった? って感じでもない。グラウンドを挟んで互いに笑顔で手を振りあっている。だが、俺からすればこんな状況など理解できる筈も無い。
だが、まあいい。そんなの知らん。
俺はただ、平和なフィールドが世紀末な世界に変貌してくれることだけを望んでいるんだから。
そうして試合開始。
んで、あっという間に試合終了。
結果は2―2で引き分け。因みに2点は全て俺のシュートによるもの。
―――ガッデーム!!!
試合終了のホイッスルと共に、俺は大声で叫んだ。
すると、近くにいたチームメイト達が駆け寄ってきて皆それぞれに言葉を掛けてくる。
「惜しかったな! だが、お前のシュートは最高だったぞ!」
「まあそう怒るなって。お前さえいれば次は絶対に勝てるから」
「よくやった、伊槻! やっぱお前は最高―だわ!」
ちっがーう! そーじゃないんだって!
なんで? どうして? おかしいだろ?
お前らはそれでもベスト4か? なぜもっとえげつないラフプレーを仕掛けてこない? それで良くベスト4に入れたな! ふん! ちゃんちゃらおかしいぜ。
ほんと、とんだ期待外れだった。お行儀が良すぎるなんてもんじゃないっての。
その後、ミーテイングが終わり、それからグラウンドの片付けが終了し、これで解散となった俺は和也と綾の元へと向かった。
「お前がFW? って思ったが、なかなかどーして大したもんだな」
「うっせーんだよ! この裏切りもんが!」
「あはは… 俺は中学の時から高校ではサッカーやらないって言ってただろ?」
「ふん!」
「ま、まあまあ… でも、ベスト4相手に引き分けなんて凄いじゃない」
「あんがと、綾。でも、ま、そーたいしたことでもないよ」
「まったぁ~ そーやっていっちゃんは直ぐ調子に乗るんだから…」
俺達3人のいつもの会話なのだが、そこはかとない違和感が、……いや、剥き出しの違和感がありまくる。俺達はいつも仲良し3人組……なのだが、数えなくても5人いるこの状況はこれ如何に?
「あのさ、和也… その娘は?」
「ああ、この娘か。ククッ…やっぱ気になるよな?」
和也の隣にいる娘、俺はその娘を知っている。いや、知らない奴の方が少ないだろう。確か彼女の名は相良 凛。和也と同じ1年3組で最も綺麗だと噂されている娘だ。俺は和也のクラスに何度も遊びに行ったことがあるんでよく知っている。
だがしかし、なんでこの娘がここに? しかも和也の隣で?……
も、もしかして… だから和也と綾は離れてたのか?
「お、おい! 和也、テメェ~!」
綾と別れて和也はこの娘と付き合ってるってか?
そ、そんなの! 俺が絶対許さねーぞ!
「ちょ、話を訊けって、伊槻!」
言い訳かまそうとする和也の胸倉を掴みかかろうと、俺は前のめりになって和也に近付こうとした。だが、そんな俺の目の前にいきなり誰かが立ちはだかる。
「ち、違うんです。加瀬君は誤解してます…」
俺と和也の間に割って入ったのは相良さんだった。彼女は必死になりながら、かなり焦った感じで「違うんです」と「誤解です」の言葉ばかりを繰り返す。俺は余りにも繰り返されるその言葉に、無意識でとある言葉をつい口から出してしまった。
「浮気でもしたんすか?…相良さん」
「はい?」
目を見開いたまま、冷ややかな目で俺を見つめる相良さん。
言ってから「しまった!」とは思った。だが、「違うんです」と「誤解です」に続く言葉は「浮気しちゃいました」って言葉しか思いつかない。これも悲しきBSS少年の性ってもんなのだろうか? ほんとダメだ。俺の精神は完全に病み切っている。
「や、ごめんなさい、相良さん。今のは気にしないでください…」
「は、はあ…」
「それで、誤解ってどー言うことですか?」
「あ、あのですね… 関君は、私のお願いを訊いてくれただけなんです…」
「………はい?」
彼女の言葉や態度を見てて全く要領を得ない俺。この状況が何なのかさっぱり分からないって感じだった。だが、更にそこへ謎が舞い込んでくる。
「あのねいっちゃん、相良さんもそうだけど、私からも紹介したい人がいるの」
「紹介?」
「ええ。 いっちゃん、彼女は知ってるよね?」
そう言って綾は隣にいる女子に視線を向けた。
綾の隣に佇む女子。言われるまでも無く、俺は彼女を知っている。「仲の良い友達が出来たの」…もう結構前に、綾はそう言って彼女を俺に紹介していた。
彼女の名は斉藤 詩織さん。綾と同じ1年4組で、綾と仲の良い友達である。ただ、彼女も相良さん同様で有名人である。綾と同じタイプで愛想よく可愛いって感じの女子なのだが、ただその可愛さが半端ない。なんせ同じクラスの男子が俺に紹介しろと迫ってきたぐらいだ。ただ、俺と彼女の間に個人的な関係ってのは殆ど無い。
だが、やはり不思議でならない。
綾は俺に「紹介」と言ったのだが、何を今更紹介する必要がある? 俺は彼女と二人で話したことだってあるのに。
全く持って意味不明。和也も綾もいったい何をしようとしてるのか?
「ま、伊槻が理解出ないのは仕方ない。ちょっと話がややこしいんで、俺から簡潔に説明するよ…」
「お、おう…」
「実はさ、俺は相良さんから、そして綾奈は斉藤さんから、それぞれ別に相談を受けてたんだよ」
「相談?」
「ああ。―――お前のことが好きだって相談だ」
「………えっ? は? ほ? およよ?」
思いっきり変なところから声が出た。
だって、だってね、こんな美少女が、しかもいきなり二人? 俺のことが好きだって?
う、嘘だ! こんなの詐欺に決まってる! も、もしかしてあれか? 惚れ惚れ詐欺? ま、まさか、俺を若年性ATMにしようって魂胆なの?
「あのね、加瀬君… 関君が今言ったのは本当なの。実は…私は前から加瀬君の事が好きだったの」
「それは私も同じ。ずっと綾奈に相談してたんだけどね、私はようやく加瀬君に告白する決心がついたんだ…」
「………」
「俺と綾奈はそれぞれから相談を受けててな。それで、公平を期すために今日こうやって同時に告白してもらうことにしたんだよ。まあ、そーはいっても決めるのはお前だけどな…」
なるほど。だから……
和也と綾は別々の場所にいたんだ。確かに相良さんと斉藤さんを同じ場所に集めるのは常識的に良くない。
だけどこれって……どうなの?
二人の美少女から注がれる真剣な眼差し。それは、これがまごうこと無き現実であることを証明している。だが、こんなこといきなり言われて現実感出ます?って感じだ。しかも、俺がイケメンならまだ理解はできる。 だが、実際の俺はイケメンどころかたかが一介の高校生。いや、正確に言うとちょいと精神を病んでるサイコな男子生徒だぞ? そんな俺に美少女2人を天秤に掛けろだと? そんなの、
ムーリー。無理無理無理。
二人からどちらかを選ぶってよりも、病んでる俺の精神を叩き直すことの方が先決だ。こんな状態じゃ誰に対しても失礼極まりない。だからここは是が非でもこの状況から逃げ出さねば!
「い、いや…あのさ、こんなに可愛い女子から、しかも二人同時にだなんてさ、ちょっとすぐには答えなんか出せそうもないよ…」
俺は兎に角この場から逃げることを考えた。適当なことを言って日を稼げば、いつしかこの話だって有耶無耶になるかもしれない。
しかし……
「ならいつだ? いつになったら返事が出来る? それぐらいはっきりさせるのは礼儀ってもんだぞ?」
和也は思いっきり核心の部分を突いてきやがった。絶対有耶無耶にさせないって感じで思いっきり攻め込んでくる。
「そ、そんなこと言ってもな………」
「いっちゃん、私も和也と同じ意見。今日明日とは言わないけどさ、はっきりした答えだけはいつか伝えないといけないって思う。いっちゃんだって嫌でしょ? もし告白しても何ら答えが貰えないなんて…」
「綾……」
告白しても答えが貰えない?…そんなのまだいいじゃねーか。俺なんて、その告白すらできなかったんだから…。
「お願いいっちゃん。せめて返事することだけは約束してあげて。ちょっと時間かかっても、きっと彼女達は待ってくれると思うから」
「そうだぞ、伊槻。返事するぐらいは人としての礼儀だ。それともなにか?―――お前には他に好きな娘でもいるのか?」
なんだよ和也。やけに煽ってくるじゃねーか? 人の気も知らねーで好き勝手言いくさりやがって。
「伊槻、答えなんか簡単に出るだろ?―――自分の心に素直になれば、自分が誰を求めてるかなんて嫌でも分かるだろーに?」
和也、お前ちょっとしつこすぎんぞ。お前はどんなけ俺を煽れば………
そうか。分かった。やってやんよ。
「和也、分かったよ。要は一番好きな娘を選べば良いだけなんだよな?」
「ああそうだ。簡単だろ?」
「ふっ、確かに…」
俺はゆっくりと歩を進めた。和也の言葉に従うのなら、答えなど簡単に出る。
目的の場所に着いた俺はすうっと大きく息を吸った。そして、吐く息を利用して、大きな声を振り絞り、素直な想いを相手に叩きつけた。
「綾! お前が好きだ。―――俺の彼女になって欲しい」
4年間に渡る想い、俺はその想いを真実の言葉として綾に伝えた。
「………えっ?」
相良さんと斉藤さんは意味も分からずその場で唖然としていた。そして綾は、小さく一言だけ発すると、驚いた表情のまま完全に動けなくなってしまっていた。
―――あ~あ… やっちまったな、俺。
滑稽なことをやってしまった自分が本当に馬鹿だと思えた。墓場まで持っていこうとしていたこの想い、それをあろうことかこんな場で言ってしまうなんて。
だが、静まり返ったその場に和也の声が響く。
「綾奈… 伊槻はしっかりと告白したぞ。今度はお前が答える番だ。嘘偽りのない真実の答えを伊槻に伝えてやれ。俺との関係を気にする必要なんて無いから。俺はお前の出した答えに黙って従うつもりだ…」
和也はとんでもないことを言いやがった。
俺か和也のどちらかを今ここで選べだなんて。気でも狂ったとしか言いようがない。
………ったく、俺にキチガイじみた告白なんかさせやがって。和也のボケが。
最悪の空気が流れる。これ以上ないほどに。
だが、暫くして……
「えへへ… ゴメンね、いっちゃん。―――2年前に、その言葉を訊きたかったな。そしたら、喜んでOKだったのに。でも、今の私はもうその気持ちに応えることはできない。今はいっちゃんよりも好きな人がいるから。だから、ほんと、ごめんね……」
綾は……泣いていた。
その愛らしい目尻から、一粒の大きな滴がゆっくりと頬を伝っていった。
「これで気は済んだか、―――伊槻」
「ああ。―――お前は本当にかけがえのない親友だよ」
「そうか。なら、今からその二人としっかり話をしろ。もう何を迷うことも無いだろ?」
「だな。お前の言う通りにするよ」
相良さんと斉藤さんには本当に申し訳ないことをした。
だけど、今は最高の気分だ。心の中にあったしこりが一気に融解していくのを感じる。綾の流した一滴の涙は、俺の心の全てを救ってくれた。これでもう迷わずに前を向いて進むことが出来る。俺は思いっきりフラれた。けれど、今は生きてきた中で最高に幸せだ。
………さて、二人と向き合ってみるか。
そう思って体の向きを変えようとすると…
―――パチ…パチ…パチ。
ゆっくりとしたテンポで拍手する音が近づいてくる。
「なかなか良い告白だったね、いっち。さすが私が見込んだ男子だけの事はあるよ」
「………か、片瀬さん」
いきなりの彼女の登場に誰もが驚く。だが、片瀬さんは俺以外の存在を無視するかのように堂々と話を続けていった。
「いっちの一途な想い、私はそれに感動しちゃった。やっぱ本物の男ってさ、こうあるべきだと私は思うんだよね」
「………は、はあ」
「だからさ、いっち……」
「はい…」
「―――私の彼氏になってくれない?」
「………???」
俺の思考回路はとうとう限界を迎えた。
相良さんと斉藤さんだけでも一杯一杯なのに、ここへ片瀬さんまで入ってくると非現実すぎてまともな思考などできる筈も無い。
これは果たして夢か幻か?
不思議に思った俺はちょっとだけ首を右に傾けてみた。すると、片瀬さんは首を左に傾ける。眼が合った二人はにっこり微笑んだ。次はちょっとだけ首を左に傾けてみた。すると、片瀬さんは首を右に傾ける。もう一度眼が合った二人はにっこり微笑んだ。
―――うん、やっぱ片瀬さんは今日も可愛いや。
すんごく納得。……していると、納得のできない方々からご意見が降り注いできた。
「片瀬さん、悪いんですけど、今は私達と加瀬君とで話し合ってる最中です。横槍を入れるのは止めてもらえますか?」
毅然とした見事な振る舞いを見せる相良さん。美人で名高い相良さんらしいって感じだ。
「そうよ。私と相良さんの勝負を邪魔しないでもらえます?」
少し頬を膨らませてプンプンと怒る斉藤さん。とっても可愛い。
「あら、誰と付き合うのかはいっちが決める事でしょ? 私はいっち以外の誰の言うことも聞く気はありませんけど?」
さすが片瀬さん。女王としての風格が滲み出てる。
………さて、俺はどうしたらいいのかな?
彼女達に比べたら俺なんてただの産業廃棄物。口出しするのなんておこがましいと思ってしまう。
「うふふ… まあ時間もあることだし、これからゆっくりと話し合いでもしましょうか?」
「ええ。それは勿論」
「私もそれでいい」
片瀬さんの言葉に同意を示す相良さんと斉藤さん。
「それじゃ、そー言うことだから。関君と岬さんは席を外してもらえる?」
「ああ、片瀬さんの言う通りだな。俺と綾奈はいない方が良いだろう。さて、帰ろうか、綾奈?」
「う、うん。そーだね」
これが本当の片瀬さん?
何だか今日の彼女からは凄まじい貫録が窺える。いつものふわふわした感じが全くしない。
結局、それから直ぐに和也と綾はその場から立ち去っていった。相変わらずの仲睦まじい二人の姿。離れて歩いているにもかかわらず、俺には二人が完全に繋がった一つの存在のように思えた。……俺もいつかは。
あのような関係を誰かと築きたいって思う。そして、俺はあの二人をずっと見守っていきたい。
さて、ここから俺の恋は再スタート!
話し合いに興じる3人の美少女達。その誰もが、俺の彼女になることを望んでくれている。ほんと、俺はどれだけ果報者なんだろうか。最後に誰と付き合うことになるのかは分からないが、俺は彼女たち全員に真摯な態度を取る必要がある。これだけは絶対だ。
それから俺は少しだけ幸せ気分に浸りながら、彼女達の様子をぼんやりと眺めていた。だが、結構な時間が経過しても話し合いは平行線を辿ったままの様だった。ふと見れば、もうグランドには俺たち以外に誰もいない。流石にこれでは埒があかないと思った俺は、日を改める提案をしようと彼女達に近付いた。そして…
「あ、あのさ… 今日はもう遅いし、続きは後日って事にしないかな? ほら、もうグラウンドには誰もいないだろ?」
「………確かにそうね」
俺の言葉を聞いた片瀬さんは辺りを一通り見渡すと、納得といった表情で俺に視線を向けた。……んが。
ここから新たな幕が切って落とされようとは誰が予測できたであろうか?
(片瀬さん)「じゃあ、先ずは確保から行っときますか…」
(相良さん)「そうね」
(斉藤さん)「ちぇっ 片瀬さんはいいなぁ~」
(片瀬さん)「ジャンケンで決まったんだから文句なし!」
(斉藤さん)「は~い」
何やらブツブツ3人で喋っていた彼女達。だが、そこから離れた片瀬さんは俺に近寄ると、何一つ表情を変えることも無く俺の手を掴んだ。
いきなり手を掴まれた俺はもうビックリ。なのだが、すべすべとした極上の柔肌の感触が驚きを一気に掻き消した。……片瀬さんの手って柔らけぇ~。
などと思っているのも束の間。
―――パシャリ。
(斉藤さん)「OK。ばっちし撮れたよ~」
(片瀬さん)「よし。これで確保完了~っと」
え~っとですね、僕のお手手はなんと! 片瀬さんの大きなおっぱいを鷲掴みなんかしちゃってたりしてて……えへへ。
み、皆さん勘違いしないでね? 俺の手におっぱい握らせたのは片瀬さん本人なんですから。
いきなりの事に茫然として立ち竦む俺。
そんな俺の耳元にその美しい顔を近付けた片瀬さんは、不敵な笑みを浮かべながら、吐息混じりに甘~い感じで囁き始めた。
「うふふ… これでもう逃げられないね? …いっち。もし私達に逆らったりしたらど~なるか?……分かってるよね?」
「………はい」
タイーホされるって事でしょ? いっちゃんもそれぐらいは知ってるだおー。
「さってと、これで邪魔な他の女狐に入り込まれる余地は無くなったぞっと。後は私達で自由にできるって事だよね?」
片瀬さんの言葉に大きく頷く相良さんと斉藤さん。
その光景を見ていた俺は不思議でしかなかった。なぜここまで俺に拘る?…言っておくが、俺なんてちょっと身長が高いだけの平凡なフツメンにすぎんのだぞ?
「あ、あのですね皆さん… どーしてそんなに俺のことが好きなの? 意味わかんないんだけど…」
(片瀬さん)「へぇ~え、自覚無いんだ…」
(相良さん)「クスッ… でもそこがいいんだよね~」
(斉藤さん)「何で好きかって? ほんと愚問。そんなのこれっきゃないっしょ?」
呆れ切った顔した斉藤さんは徐にスマホを取り出すと、てきぱきと操作してから画面を俺に見せつけてきた。俺は彼女に促されるままその画面に表示されているものに眼を通す。
「へ? ランキング別投票結果?」
画面に表示されていた文字を読んで分かったのは、アンケートによる投票結果のようなものだった。
「これはね、1年生女子で行われたアンケート結果なの。ほら、男子もやってたでしょ? スマホを使って美少女コンテスト…」
「あ、ああ… 確かに」
「それでね、同じようなの女子でもやったんだけどさ、………あ、これこれ。ここを見てちょーだい」
画面をスクロールしていた斉藤さんの手が止まり、彼女は再び画面を俺に向けてくる。その画面に映し出されていた文字、それは……
―――『 オスを感じる男子のランキング 』―――
しかも、そのランキングを見ると……
圧倒的得票数で第一位の欄には「加瀬 伊槻」即ち俺の名前が刻まれている。
「ま、そー言う事。理解できた?」
「………い、いや」
「クスッ… 加瀬君ってさ、ちょっと闇を抱えてていつも目をギラつかせてるでしょ? なんか殺気じみてるってか。でも実際喋ると優しいんだよね~。特に綾奈と喋ってる時の顔なんて最高だし。だから私はいつも綾奈を見て羨ましく思ってた」
「さ、斉藤さん…」
「うふふ… 私の場合はやっぱあれかな。……殺意の籠った猛々しい眼ってやつ? しかもそれを親友である関君に向けるんだもん。初めてそれに気付いた時はも~う背中がゾクゾクしちゃった。もしかしたら加瀬君がいきなり関君を殴るんじゃないかと思って…」
「さ、相良さん…」
「キャハハ… みんなまだまだだね。私なんていっちと同じクラスでしょ? だから常に感じてるんだよね~。………満たされない想いで心が乾ききった野生のオスの匂いを」
「あ、あの…片瀬さん?」
三人から好きな理由がそれぞれ語られたのだが、……
俺の行動に関しては確かに全て納得できる。そこに間違いはない。
・いつも眼をギラつかせている
→ 隙あらばBSSの鬱憤を誰かで晴らそうと思ってただけです。
・和也に殺意の籠った眼を向けていた
→ 当たり前っしょ。BSSの加害者なんだから。
・満たされない想いで心が乾ききった野生のオス
→ これは納得。だって、心の水分ゼロなんだもん。BSSのお陰で。
でもさ、本当にこれでいいのだろうか?
皆が俺を好きになってくれた理由ってさ、BSSを散々拗らせて心が闇堕ちしたのが原因でしょ? なんかこれっておかしくない? それにさ、俺はもうBSSを完治させちゃいましたけど?
「でもさ、今日は試合を見に来てほんと良かった。ぶつかってきた敵の選手を逆に弾き飛ばした加瀬君見て最高に興奮しちゃった。さすが私を3回も犯した男子って感じ。……ま、夢の中だけどね」(by斉藤さん)
「私はあれかな。グラウンドで獲物を探しているようなあの狼みたいな眼。あれだけでもう〇〇そうになっちゃたもん。あんな目で見つめられちゃったらさ、……思わず全裸になっちゃうよね? 普通に」(by相良さん)
「そうだよねぇ~ 試合中のいっちはほんと輝いてたもん。私も興奮しちゃって思わず妊娠しそうになっちゃった。あははは…」(by片瀬さん)
恥じらいも無くこのようなことを堂々と言い放った皆様方。この辺りから俺の心情に変化が現れたのは言うまでもない。………♪ドンドン引き引き ドン引き引き♪
「さってと、ここからは本当の勝負といきましょうか? 誰がこの『オス』をGETするかってことで?」
(片瀬さん)
「そーね。それが一番手っ取り早いし。もう芝居すんのも飽きちゃった」
(相良さん)
「ねえねえ~、勝ったらこのままお持ち帰りOKでいいの?」
(斉藤さん)
「「いいんじゃない?」」
(片瀬さん)(相良さん)
「あ、あ、あの~ みなさん?」
「「「あ゛?」」」
どーやら俺には何の権利も無いらしい。
もーすぐ俺には人生初となる彼女が出来るだろう。それも誰もが羨むような美少女の彼女が。……ただし、俺の意思には関係なく。
果たしてこれで俺は本当に幸せになれるのであろうか? 少し不安…いや、不安しかない。
人を呪わば穴二つ……ほんとそれ。
BSSで闇堕ちなんてするんじゃなかった。恨みなんて抱かなきゃよかった。そしたら、こんなイカれた女達に拿捕されることも無かったのに。グスン(涙)