バグ技をリアルでやる
「う~ん。やっぱりあのツンデレ銀髪幼女(偽)、こっちへ来れなかったのか? 多分あの大男のおっさんは後藤透徹の子孫だろうなぁ。
これではチートはできない?
どうやって無一文で兵糧を手配せよと?」
大胡城の物見やぐらに勝手に登って腕を腰に当てて四方を見渡しながら思索を廻らす。
「イージーモードシナリオでは政賢が関東管領の隠し子で二百貫文の原資をせしめていたのでそれを元手に米転がしをしたんだけどなぁ。
そんなことはなかったようだし」
慶次郎は銭儲けが好きである。大好きである。
だからゲームの初めに過去の伝説的な遊戯機械であるパチスロのようなシステムで出目を合わせると商人に値引きをさせることのできるミニゲームを作った。
しかもそこにはバグを使った裏技を仕掛けていた。
自分しか知らないチートプレイが好きなのだ。
ゲームの最初の評定で兵糧調達クエストを受ける。
皆に馬鹿にされながらも必至で全国を回るのだ。
そこまでは普通だ。
しかし!
全国各地にある米問屋組合なのか? 同族経営なのか知らないが全く同じ顔をした米商人がどの町へ行ってもいつもニコニコ笑って商談をしてくれる。
この商人相手にその地方のコメを買い占めると、その地方だけコメ不足により相場が急上昇。
その地域でつい先ほど買い占めたコメを翌月に同じ米商人へ高値で売りつけるだけで莫大な利益をむさぼれるのだ。
そして普通ならば悔しがって涙を流すであろう米商人はニコニコしながら「まいどおおきに」といって絶対損をしている筈の商談をしてくれる。
この快感!
このプレイをやる度に慶次郎は至高の快楽を得ていた。
そのためにこのゲームソフトを作ったようなものだ。
その儲けた銭の一部(!)を殿さまにクエストの報告と共に手渡し、残りの大半は着服……げふんげふん。
その繰り返しで戦国大名並みの資産を築くのだ。
しかし……
現実となったこの世界。
「元手がない!」
あのチート技は主君から預かった元手があることが条件で成り立つものだ。
期限は三カ月。
ゲームでは元手を使って座(商人組合)にバカ高い手数料を取られながら東奔西走、特産品を転売する。
その元手はほんのちょびっとの自前の禄だ。
それでもゲームのノーマルモードでは初期の俸禄は五貫文手元にある。そして三か月ごとに五貫文入俸禄として入って来る。
この現実世界では秋の収穫時期に米と麦をそれぞれ二石。精々三貫文??
ナイトメアモードを通り越している。
頽れそうな脱力を支えるために物見櫓の周囲に取り付けられている手すりに体重を乗せて握りしめていたら危うく手すりを壊しそうになった。
なんとか元手を確保すれば今年の冬から春にかけて、どこで飢饉が発生するかはわかっている。
だからそこへ安く手に入れたコメを持って行くだけで利益を得られる。その銭で兵糧調達だ。
あ~、ゲームのように素早く移動出来たらいいのに!
しかも荷物六十貫を担いで!!
ん?
この体。
頑丈じゃね?
もしかしたらチートな肉体?
さっきも手すり壊しそうになったし。
試してみるか。
ここから飛び降りるとかできるか?
そして慶次郎はあっさりと飛び降りるのであった。
骨折でもしたらそのまま放逐でさすらいの身になるというのに。
ゲームセットだ。
リセットは無しよ?
慶次郎は度胸があるわけではなく単なる無謀な男であった。
「おおっ! 高さおよそ五間。十メートル! 見事に着地できた。カプセル雑居ビルなみに高いぞ! すげ~。慶次郎、すげ~! 今度にゃんぱらりで三回転して飛び降りてみようかな」
よく分からないことを口にしながら今後の事を考え始めた。
流石に六十貫の荷物は担げない。
およそ二百四十キログラム。
リヤカーでもないと。
「よう、に~ちゃん。見ねえ顔だな。新参者かい? じゃ、お近づきに一杯やっていきな。うぃっぷ」
知らず知らずに街道筋に出ていた慶次郎。
街道に面した酒屋で真昼間から出来上がっている客に呼び止められた。
未来では酒などは飲んだことはない。
酩酊感は味わったことがあるが偽物だ。
本当の酒を飲んでみたいと思うのは当たり前。
「銭はないぞ!」
「いいってことよ。ここ大胡では一杯目のお代がお殿様のご慈悲でタダだよ。肴も付くぜぃ」
こんな所も自分が書いたWeb小説と一緒か。
ホクホクしながら暖簾をくぐる慶次郎。
始めて飲む焼酎は麦の香りのする素朴な飲み物であった。
気をよくした慶次郎は皆とワイワイやっていると、店の片隅でクダを巻いていた一人の武士が絡んできた。
「おぅい。お前さん、大胡に仕官した新参者だぁ~ねぇ~。ちょっと俺の悩みを聞いてくれよ~~。シクシク」
どうやら泣き上戸の武士は冬木元頼といい、政賢が厩橋から連れて来た技術者であるという。
この焼酎も殿にせがまれて作ったという。
「い~~っつも、殿は無体な課題を俺に突き付けて来るんだよぉ~~~。こないだは酒を運ぶための車を作れというし~~、うっぷ。
作ったよ、作ったけどまだ改良しないとだとか言うんだよなぁ。
いったいどうせよと?
今度は何処をいじれば衝撃を和らげられるんだよ?
第一、街道はろくろく整備されていないからすぐに轍に突っ込んで
車が動かなくなるぜ。ごへぅ」
相当な泣き上戸だな、と思う慶次郎。
もし反吐を吐いたらすぐに逃げ出す姿勢で話を聞く。
「じゃあ、もう車自体は出来ているんですね? 冬木様」
「おう。俺様を舐めちゃいけないぜ。発想の糸口があれば一晩で仕上げてやるさ!」
……ここまで小説と同じとは。
では。
「鉄の板、つくれます?」
「ん? 作れるぞ。軟鉄でも玉鋼でもどんとこいだ!」
「ではそれを長さの違うものを束ねて……」
慶次郎はリーフスプリング(重ね板バネ)の図を書いて説明しだした。
紙などない。
冬木の着物の裾を引き裂き、そこに酒屋の亭主からもらった消し炭で図を描いた。
冬木は説明するというと自ら裾を破ってそれに書かせた。
相当な発明家らしい。
未来なら十分マッドなサイエンティストである。
それを持って転げるように技術研究の小屋へ走り込んでいった。
あ、遂に反吐を巻き散らした。
巻き散らしながらも小屋の中で作業を始めるマッドな技術屋。
慶次郎は見ないふりをした。
きちんと大人の対応が出来る時もある慶次郎であった。
「でぇ、でぇ、でぎだぞぉ~。おぇっぷ」
反吐を巻き散らすような恰好で冬木は、小屋の前で一晩腰を下ろして施策を廻らしていた慶次郎に彼の最新作を披露し始めた。
「こ、ここにぃ、鉄板を六重に重ね合わせたぁ。お主の言う溶接は出来なんだがよぅ。螺子で止めたので長くは持たんぞぉ。注文通り六十貫は積める強さにしたつもりだ。だが……ぐふっ、轍に嵌まると大変だぞぅ。その際はしらん」
「十分だ! ありがとう。冬木殿~!」
また吐きそうになって倒れている冬木に向かって土下座する勢いで礼を言うと荷車フェラーリ812GTS(さっき一晩寝ないで考えていたのはこの名称であった)を強引に引っ張り走り始めた。
何処へって?
それは酒場だ!
これまた強引に酒場の焼酎を樽ごとかっさらっていく。
「どろぼ~~~~!」
「なぁに。1年分の前借だ。毎日通えば三百六十日で三百六十合。三升は十分ある! 前借だよ、前借り。だからタダだよな? いっただき~ぃ」
せこい事にはよく気が付く慶次郎であった。
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