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最強のクエはやっぱり兵糧調達




 剣聖伊勢守に連れられて西上野大胡城の主、大胡政賢に目通りがなされた。

 慶次郎の目には(あるじ)となる国衆が何とも頼りなく見えた。


 歳は今年で十二歳。

 なんでも現在の群馬県前橋市である厩橋城(うまやばしじょう)を支配下におさめる厩橋長野家から養子として迎えられたとか。

 慶次郎が未来で書いていたWeb小説と合致していることに驚くと共に「よく調べた!自分!」と脳内で自画自賛している慶次郎。


 慶次郎は臆面もなく自分をほめることのできる男であった。



 しかも。

 あの作品は自分の所属していた同人サークルの同志がその出来にいたく感動し、動画化するだけでは空き足りずゲームまで作ってしまった。

 ゲームタイトルは「政賢立志伝Ⅴ」。なぜⅤなのかは不明だ。同志の一人が「インスピレーションだ!」と言い張っていたが。


 この同人ゲームソフトは世界の祭典、サブカルの集まるネットコミカルマーケットで結構好評で商業化のお誘いも来た。

 しかしこれも危険思想を流布すると発禁指定となり、これまた裏ゲームソフトとしてダークウェブにて流通している。


 慶次郎は調子に乗ってパッチを次々開発するとともにおまけシナリオもリリースした。

 木下藤吉郎秀吉が出世街道をまっしぐら。天下統一をするシナリオだ。

 残念ながらこれは不評に終わったが。

 しかし逆にプレミアがついて流通している。

 どこにも物好きがいるのである。


 本編のゲーム内容は大胡の国衆が七難八苦しながら天下一統をして、南蛮人を撃退するシナリオだ。シナリオは頭にきっちりと入っている。

「?これは今からチャレンジするインポッシブルなミッションと同じだよな」と今頃気付く慶次郎。


そしてすぐ気を抜いてしまう男が慶次郎である。



「そうか。じゃあインポッシブルモードシナリオがノーマルモードくらいになったのか?」とお気楽に考え始めた慶次郎。



「……おい。おい! 聞いているのか? 人の説明を聞け。愚か者!」


 先程から慶次郎の前を歩いていた男、兄弟子の疋田豊五郎(ひきたぶんごろう)が少し声を荒げて注意をし始めた。


「これから初めての評定だぞ。しっかりせんか」

「ほぇ?」

「大胡の殿の直臣になれたことを素直に喜べ。信綱様は弟子は取るが家臣は持たぬ。大胡が大きくなればお前も活躍できるであろう。励め」


 そうだった。

 これから関東管領山内上杉憲政からの命にて武蔵河越で包囲戦を行っている関東管領勢へ加勢に征く事になった。

 その事前取り決めをする評定が行われるのだと今更思い出す。


「お主は黙っておれ。新参者はそうするものよ。かくいう拙者とて外様も外様。戦の時だけ参陣する食客よ」

「そうなんですか?」

「道場で大胡様の直臣は師匠と嫡子の秀胤殿しかいない。師匠は上泉城の城代だ」


 大胡城への道すがら色々な事を教えてもらう慶次郎。

 ここ大胡領は山内上杉家の領土の最東端。

 ここを任されている土豪が大胡家。

 大胡家は関東管領にいいようにこき使われているという事。

 数年前の堅城館林城攻略を命じられた際に退却の折り、(あるじ)と惣領息子を失い西隣の厩橋長野家から養子を迎え入れた。

 これが現当主の大胡政賢様であると。

 領地は当初七千石程度であったが政賢様について来た技術者が優秀で特産品や工業品の生産に成功。

 現在は一万五千石程度になっている事。


「へ~。ボ~ッと生きてるような殿さまに見えたけどやることはやっている……」


 すぐさま拳骨が慶次郎の頬桁にヒットする。

 これは伝説のコークスクリュー!?


「おのれは! そんな言いざまを他の家臣どもの前でしてみろ。(なます)にされるぞ。いや後藤殿が知ったら槍でぶっ叩かれ、天竺まで飛ばされるぞ」

「へぇい」


 二十一世紀に生きていた時よりも大分野放図なセリフを吐いている慶次郎。

 この頑丈な体とリンクして来たのだろうか。大分図太くなっている気がする。たぶん気のせいであろう。



 その後、小さな城門を潜りとても小さな三の丸を歩いて四十秒で通り過ぎ、更に小さい二の丸を二十秒以内で歩いて過ぎ去る。

 うん。

 小さい城だ。

 国衆の典型的な城だな。と、妙に納得している慶次郎。

 荒砥川という川が削って作られた小高い丘の上にある城だ。

 山城とは違う商業を意識した立地だと気づく慶次郎は自分のゲームデータと同じことに更に気を良くしている。



 兄弟子の疋田が下座の下座、足軽のさらに後ろのポジションを指さしてここへ座れと指図して自分は足軽の向こう、上座に近い家臣が並ぶ末席に腰を下ろした。

 急に不安になる慶次郎。


 一人暮らしが長いのに急に一人にされるとおろおろする小市民な慶次郎であった。




「なんとっ!? 酒配りをするために参陣せよと!?」


 突如、大きな怒鳴り声が上がった。

「ははぁ。あれは絶対に後藤透徹(とうてつ)だな。おつむのライトな猛将はやはり変わらないか」

 と腕を組みながら訳知り顔で(うなず)く慶次郎。


「後藤殿。逆に好都合であろう。関東管領殿は冬木殿が開発した秘酒、焼酎を所望しているだけじゃ。大胡の戦力などたかが知れている。それを思っての参陣の下令であろうて」


 ?

 ちょっとシナリオに変化があるか?


「この大胡家は在原の業平さまから代々続く名家! それを酒配りに使うとは、断じて許せん!」

「後藤殿。耳が痛い。もそっと小さな声で評定を出来んものか?」

「何を言うか! この馬面子倅! ろくに太刀も扱えぬ奴は黙っておれ」


 ああ、これは東雲尚政(しののめなおまさ)だな。

 武技は全くダメだが知略はぴか一に設定した。


「御下命が下ってしまったものは仕方がなかろうが。ここは軍議をささっと決めてしまおう」

「ぐ、軍議……」

「フフン」


 やはりおつむはライトらしい猛将後藤。こいつはチートな戦力であるはず。

 身長は二メートルはありそうだが。

 さて東雲はいいとして、問題は大胡政賢がどう出るか。

 うまくあの偽銀髪ロリが乗り移っていてくれれば、なにかよい知恵を出すはず。


「殿、いかがなさいます?」


 家宰の大胡是定(これさだ)が政賢にその意向を聞こうとする。

 早すぎるんじゃないか?

 ふつーはもっと皆が献策をしてから当主が決めるのじゃ……

 だいたい軍略上手の東雲尚政は何処へ行った?

 慶次郎がぶつくさ言っていると軽格の列の隙間から見え隠れしていた主である政賢のでろんとした居住まいに納得した慶次郎。


「あ、これ。ふつ~の国衆の家臣団とちゃう?」


 たちまちこの状況を理解した慶次郎。

 やはりインポッシブルなミッションだったのだ。

 チート武将がいない!

 まあ、剣聖がいるだけましか……


 結構直感で本質を探れる男、慶次郎。



「ま~、あれですね~。ちゃちゃっと酒配ってちゃちゃっと帰る。戦いは嫌いだなぁ。酒だけじゃなくて兵糧も配ってそれで許してちょ~だいと平井の上様に言ってみよう!」


 なんだかイメージと違うが方向性はゲームシナリオとあっている気がする。

 これで最前線へほっぽり出されなければ生きて帰って来れるぞ!

 その最前線へと陣を決められてしまうのはどうあがいても逃れられないというシナリオにしていたことをすっかり忘れている慶次郎であった。


「しからば、肝心の兵糧の調達。何方がなされるか?」

「銭はないですぞ」


 即座に勘定方の瀬川がいらぬことを言う。

 家臣一同、下を向いたり庭を眺めたりし始めた。

 皆ほっかぶりかよ?

 なんちゅ~ハードモード。

 銭無くてどうせよと?

 これはヤヴァい方向へ向かう気がする慶次郎。


「慶次郎ちゃんだっけ? 新しく仕官した人」


「は、ひゃい! そうでありおりはべりいまそかり」


 急なご指名に古文活用を展開してしまいました。


「なんだかやる人いなさそうだから、最初の仕事、やってみる? やってみてね」

「慶次郎、これが出来ねば放逐されるぞ」


 小さな声で疋田が伝えて来た。

 殺生な~~><;

 と思うも、ここは男慶次郎。やるしかない!


「ははっ! この前田慶次郎利益。命に代えてもこの大命、成功させて見せまする! じっちゃんの名にかけて!」


 じっちゃんなんか会ったこともないし名前も知らない慶次郎。

 口だけは達者であった。



「では、各々方。家臣団の出立のために訓練などゆめゆめ怠りなく」


 ごかろ~ちゃん是定の合図で皆、殿さまに頭を下げて評定は終わった。



いつもお読みくださり誠に感謝しております。

★評価やブックマークをいつもありがとうございます。


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