鼻くそ武将見参!
「高坂殿。これはまずいですな。刻限に間に合いませぬ」
「そうじゃな。こう罠が多いと明け方までに攻撃を開始できぬ。御屋形様に作戦の中止を具申しようか」
高坂昌信と、同列の指揮官である馬場信春が話合っている所へ、使い番の者が駆け込んできた。
「高坂様! 中央の登り口に大樽を担いだ巨躯の徒武者がただ一人、鼻歌を口ずさみながら立っておりまする!」
何とも忠実な斥候であろう。
そんな正確に真実を伝えたら……
「ええい。武田を馬鹿にしておるのか?」
「上杉勢は既に山を下りたのか?」
「いや。その辺りに隠れておるのかもしれぬ」
「伏兵に注意せよ~」
大混乱になっちゃうじゃあないですか。
言わんこっちゃない。
でも流石に武田の新四天王の二人。
「静まれぃ! 物見の者、弓兵を二十余り連れて大物見せよ。たかが一人と侮るな。敵の挑発にものるでないぞ。慎重に見て来るだけじゃ」
沈着冷静な馬廻りの者が派遣された。
「やあ、遅かったではないか武田の、ひゅぅ。待ちくたびれて酒を飲み始めたところ、ひゃ。では客も来たことだし、これから宴会でもいたすといた、ひょ~」
慶次郎。
な、何か変だぞ。
いつものことだが。
おや?
後ろに幽霊が。
ああ銀髪偽菩薩ね。
あれが耳元で何かささやいているのか。
耳元でささやかれるのは男にとって危険な技だ。
女にとってもか。
智円ね~さんにかけられるとLPがごそっと持っていかれるので注意が必要な技だ。
「なに、ひゃひゅひょしているのよ。もっと強うそうな武者振りしなさいですわ」
「お前がそんなところで小声で話しかけるからだろうが!」
「馬鹿慶次郎がセリフ憶えられればこんなことしないわよ。恨むのなら自分の頭の悪さを恨みなさいのことよ!」
いあいあ。
INT下げたのはお前だろ。きちんと恨まれてやれよ。
「小頭。あいつ樽に腰を降ろし、酒を飲みだしました。近くに立っている小柄な女が笛を吹いております」
「風流な……などと言っている場合ではないわ! 矢を射掛けてみよ」
二十本余りの矢が正確に慶次郎の顔面にヒットする!
と、思ったが、当たりそうだった数本の矢をグァシッと掴み、その馬鹿げた握力で粉々にする。
「おっと、っとほ~。
無粋な事をするなよ、なはは~。
酒がこぼれるじゃねえか、よほほ~」
また息を吹きかけられているらしい。
ここで大見栄を切れば後世にその名を刻まれるであろうが、この体たらくでは武田方の軍学書(偽)には載せられないであろう。
こんな奴に大損害を加えられたとしたら……
「あ~。酒なくなっちまった。
い~、急いで戻らなくては。
う~、後ろからついてきては駄目だぞ。
え~、援軍は来ないのでな。
お~、お前らそこで罠と遊んでいるがいい、ゾゾゾっ~」
そうか。
馬鹿者らしく振舞い、その言う事を信じさせる策か?
それは楽だな。
簡単に演じられる。
「高坂様に敵は二人。大男と小柄な女。
頂上へ移動。大男は相当な使い手。
女は多分忍び。
だが知恵が回らない模様」
さすが優秀な武田の物見。
的確に真実を見抜いている。
それを聞いた馬場信春。
高坂昌信に進軍を提案。
明け方になろうとも強襲をして山から追い出すことになる。
山頂の向こうに布陣するはずの上杉勢に高低差を利用した突撃をする方針だったが、ここに少人数の忍びや武者をおいてさっさと下山しているかもしれぬ。
もう引き返すよりも突っ込んだ方が速い。
いち早く本陣と合流せねば。
「夜が明けた。だがもうすぐ山頂。敵兵無し。
あの巨躯の言うていた援軍とやらは結局こちらを惑わす事が目的か。
これは山を下りられたかもしれぬな」
しかし武田の先鋒は見た。
山頂まであと百メートルというところで朝日に照らされて、日の丸の旗差しものを背負った数百の兵が武田勢に火縄銃の銃口を向けているのを。
「うっ、種子島があのように多数。しかし。種子島は一発撃たせれば再装填に時間がかかる。その間に戦列に突っ込める。
木立の影を伝っていけ。
敵に撃たせたら突っ込め!」
武田の足軽は手槍を持ち木の陰に隠れて移動。
段々と近づいていく。
しかし山頂の火縄銃は火を噴かない。
しかし突然。疑問に思う武田兵が隠れる木が……伐採され出した!
賢明なる読者諸氏にはもうお分かりであろう。
偽観音の作戦とは、山頂付近に隠れていた大胡の義勇兵の射撃を最大限に発揮させるために
「朝日が昇るのを待つ」
「山頂から撃ち下ろすことで威力を増す」
「木立を伐採して射界を開く」
そのための一連の行動であった。
もちろん、最後の伐採は鼻くそ攻撃である。
今回は鼻くその代わりに小石を混ぜていた。
「第一列、放て~い」
「第二列目、放て~い」
「第三列、放て~い」
ガガ~ン!
ズガガ~ン!
ババ~ン!!!
妻女山に木魂する世界史上最初の連続一斉射撃。
その影に隠れて慶次郎の名声は隠れていく。
あのね。
幼女よ。
最初から馬鹿慶次郎の指弾で森ごと兵も薙ぎ払っていれば簡単だったのでは?
え?
そこまで目立たせたくなかったと?
そうですね。
馬鹿が自分の実力を自覚すると手に負えなくなると?
仰る通り。
核兵器のボタンを慶次郎に任せるような真似は出来ないと。
それは大事な事です。
これからも耳の後ろで息を吹きかけてコントロールしてください。
世界が滅びないように。
そこまでの力はないか。
こうして川中島の戦い。
武田の別動隊八千が戦闘不能になってしまいましたとさ。
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