表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/26

義のために助太刀いたす!




「おい起きろ。この大喰らい!」


 慶次郎の首元で日本の小太刀がクロスして頸動脈を狙う。

 ここのところ慶次郎の首はこの攻撃を毎日受けている為、硬質化している。まるで女型巨人のうなじのようだ。

 真田信綱や真柄直隆が振り回す大太刀でも首を落とせないのではないだろうか? 剣聖なら簡単に「首ちょんぱ」であろうが。


「なんだと? この小喰らい。だから背が伸びんのだ。もっと食わず嫌いをせず給食を食わないと担任の先生に叱られるぞ」


 慶次郎の世界線では担任の先生は今でも厳しいらしい。


「くっ。この体は素早さと隠密のために大きさを犠牲に」


 どう考えても負け惜しみに聞こえる。

 しかし最近は大人の余裕スキルも少しだけ身につけた慶次郎である。

 見逃してやろう。



「どうだ? 武田の兵は。まだ志賀城を囲んでいるのか?」

「そのようだな」


 現在、関東管領上杉憲政の令にて、この二人、大胡忍群第一小隊十名+馬鹿武将が信州出兵に参陣している。

 信州の佐久郡へ延びていた甲斐武田の侵略が、いよいよ大詰めを迎えていた。

 佐久郡北部の志賀城に数百名の国衆が籠って武田に応戦するがどんどん追い詰められていた。


 そこでお隣の上州に勢力を維持していた関東アホ管領上杉憲政に援軍を求めちゃったのである。

 すでに落ち目の関東管領。

 よせばいいのに大軍を率いて碓井峠を越えて武田と戦いを始めようとしている。



 この戦いはアホ上杉軍が大惨敗する運命にあるが、それを知っている「のほほん大胡一家」は十一人だけ派遣した。


「十一人いる! ってかっこいいじゃない? それで十分ですわよ。全員エリート集団~♪」


 20世紀後半に活躍した腐ガァルを生産しだす直前の女性対象マンガがネタであろう、誰も分からないギャグを放つ偽観音。

 この作戦指導(入れ知恵ともいう)によって、当たらず触らずの参陣だけにとどめた大胡。





「そろそろ来やがりますわよ。覚悟しなさいませ~」


 政賢から借りて来た観音菩薩像から映し出される偽銀髪幼女が嬉しそうに予告する。

 どうやら観音菩薩のユニークスキルで千里眼というものがあるらしい。

 それで偵察などもこなすという。

 もうチートを通り越していますな。戦場の霧とか関係ないのか、この連中。



「じゃあ、俺たちはここに潜んでやり過ごすので良いのか?」

「観音様、それでは勝手に退陣したと言われるが」



 揚羽の精神構造は安定して物ではなく、たまにしかあの中年オヤジキャラは出てこないらしい。

 普段はまとも?な十代の少女である。


 結構忍者としては律儀だな、揚羽。

 そう思う慶次郎。

 結構()い奴じゃ、近こ~よれ。

 悪代官的台詞が頭をよぎる。



「よいのですわ。今回も関東管領上杉勢力を削ってその間に大胡の威信を高めるせこい作戦よ。お~~っほほほほ~!」


 自分から「せこい」と宣言する偽観音。

 言われるままにこの先碓井峠付近に兵糧の集積所を作っておいたがこれが目的か。また敗残兵や逃げ惑う信州の者にお慈悲米をばら撒くと。



「しかし。それでは上州の武将たちの多くが討ち取られ……」


 ほんと真面目だな。揚羽。

 そんなキャラだったか?

 揚羽の過去記憶をサーチする作者。

 なるほど。

 両親や叔父たちが武田の敵に雇われて殺されたと。

 これは千載一遇の復讐場面だな。



「揚羽よ。大丈夫だ。俺は知っている。あと三年後くらいになれば砥石城辺りで武田は惨敗する。その時には晴信の首、獲ってやろうぜ。その時は手伝ってやる」

「それはさせませんわよ。砥石城は簡単に落ちますのよ」


 なるほど。あれのことか。

 真田幸綱の弟、矢沢綱頼があそこを守っているが内応させるのか。シナリオ通りじゃないか。つまらん。


 慶次郎、どうした。

 らしくないじゃないか。

 楽なことは好きなくせに。



「だから砥石崩れは起きませんし、晴信も大けがしませんの」

「ちっ、つまんね~奴だなぁ」

「何か言いまして?」


「おい揚羽。晴信の首を取りたいのなら手助けするぜ。義によって助太刀いたす」

「……本当なの、か?」


 全く義など持ち合わせていない口が「自分の見栄のために」1ミクロンも思っていないことを提案する。

 何故って?

 さっきサーチしたとき垣間見た揚羽の泣き顔が結構かわゆかった。ただそれだけだ。それだけで命を張る。

 これが前田慶次郎という男の本質である。

 (別に男の娘が好きな訳ではない、決して!)


 な~んにも考えていないのである。

 流石INT1だ。

 ようやくこのシステムがわかって来た。

 レベルアップでスキル割り振りなど出来ない。

 どのようなパラメータを使用して経験値を取得したかで、それぞれのパラメータが上昇する。

 つまり戦えば戦うほどLPやSTR、AGIが上昇。

 だが1しかないINTや精神的耐性がない慶次郎はそれを使用しないため全く経験値を得られない。

 つまりずっとこのまま知性乏しき武将から脱せないのだ!

 お、恐ろしいシステム的欠陥!!



「では、ゆるりと参ろうか。晴信の首を取りに」

「待たんかいワレぃ。今晴信殺ってシナリオ通りいかなくなれば先が混沌するのでありますわよ!」


 うるさい偽銀髪幼女の姿を映し出す観音像をそこらへ転がして武田の軍へ向かおとする。


「お待ちになりなさい! あたくしをこんなところに置いて行くとは天罰が~~~」


 転がって上を向いた観音像から延びる視線が上を向き、それと共にレイヤー観音の姿も横に寝転がって映し出されて足掻いている。




 その後、殿さまの大事なものであると思い出した揚羽に救い出された観音像は無事回収されるが、その間、引っ込むことが出来ずに足掻き疲れ観音映像はぐったりと醜態をさらしていた。

 揚羽が仏教信者でよかったな。

 カエデよ。




いつもお読みくださり誠に感謝しております。

★評価やブックマークをいつもありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ