大怪我は万病の元?
「御免なさい。ごめんなさい。ごめんなさい。堪忍してつかぁさい~」
政賢の前で必死に土下座する慶次郎。
「大怪我できませんでした~~~~ぁ!!! 度胸が足りませんでしたぁ。肝が据わっていませんでした~~~」
「まあまあ、慶次ろちゃん。無理して大怪我する必要はないよ~。その意気込みで戦って、という意味だから」
全く意味が伝わっていない登場人物たちであった。
意思疎通の何たる下手さ加減。
「風邪は万病の元っていうじゃない。大怪我も万病の元だよ~。よかったよかった。なでなで」
よくわからない言葉で慰める殿さん。
慶次郎の頭をすりすりと撫でる殿。
「ですが、これでは関東管領様の御勘気が解けないのでは?」
「ん~、そかもしれないけどね。家臣を失ってまで気を遣うほどじゃないよ」
東雲の疑問にご慈悲あふれる発言で返す殿様。
みな、うっすらと涙が。
おいおい、そんなことでこの厳しい戦国の世を渡っていく気か?
今後も憲政からあの手この手でいじめられるぞ!?
「取り敢えず、みんな無事でお味方優勢で終わったことだし、宴会でもするかな?」
気が緩んだ殿様。
なんたる不覚であろう。
これから夜襲があること、確定なのだが。
「お待ちくだされ。今宵あたり、北条の夜襲があるやもしれませぬ」
軍略が得意の東雲の注進か?
だがその声は野太かった。
「ごとーちゃん。すごいね~、酒豪のごとーちゃんが酒宴を断るのん?」
ゴクリッ、という大きな音がした。
もちろん酒豪後藤が唾をのみ込む音だ。
後藤の酒豪は坂東(関東)一だという噂も立っている。
あっぱれ後藤、その欲望を抑え込み注進を続けた。
「実は殿。最近儂の枕元に多聞天と名乗る妖が立つのでござる。儂と同じくらいの体躯をしており、頬に縦に長い傷がある男でござる」
ああ、あのおっさんか。
あの大男もリープし損ねたのか。
そう納得する慶次郎。
「その多聞天様の申す事、此度の戦を全て言い当てており申した。そして今宵、北条方の夜襲があると」
今度は皆がゴクリと喉を鳴らす。
「じゃ、それを関東管領様に上申しないとね~」
「お待ちくだされ! これは使えますぞ、殿」
「なあに? 東雲ちゃん」
うんうん。やっと東雲が軍略らしき発言を……
自分の作品がやっと生きてくると満足げな慶次郎。実は一番のお気に入りキャラがこの馬面狐顔の武将なのだ。
狐のような付け髭をいじろうとして落としそうになるのを必死でこらえながらの注進。
「大胡にとっての最善の状況は何でござろうか? 北条方が勝ちすぎてもいけませぬ。負けてもいけませぬ。そして関東管領様の力が少しばかり衰えていただければ、此度のような無情な仕儀を致さぬかと」
「それってもしかして夜戦を成功させるという事?」
「いかにも」
あくどい。
あくどいぞ、東雲! 慶次郎はそんな子に育てた覚えはありませぬ!
「で、具体的にはどうするの?」
「後藤殿。多聞天様はこの夜襲はどうなると?」
武士らしくない提案を聞き、頭に血が上っている後藤もかろうじてそのお告げを皆に伝えた。
「夜襲は成功。扇ケ谷上杉様討ち死に。全軍敗走……」
なんとっ!
まことか?
皆が口々にささやく。
剣聖が唇に人差し指を当てて静かにするように促す。
「実は某の所にも妖が枕元に」
「東雲くんとこにも?」
「はい。その者がここは無理せず大胡勢は陣を払えと」
「無断で退陣とか後で大変じゃない?」
「その妖が言うには、元々のご下知は酒配りだったのだから戦勝祝いの酒を後方に備蓄してある小荷駄から取ってくると伝令を出して、朝までに松山付近まで撤収せよと」
皆が、う~ん、と唸っている。
結局、あいつらにいいように操られている訳ね。
だがこれで未来の様子がわかって作戦を実行できる。
何というイージーモード!
慶次郎はニヘラ笑いが止まらない。
油断しやすい男であった。
「じゃあ大胡勢は酒配る用意?」
「それだけではござらぬ。もしお味方が敗走した際には、敗残兵に準備した兵糧をただで配れと」
「それはいいねぇ。人助けは、僕大好き」
「それにより大胡の殿の名声は爆上がりとのこと。真の仁将であると」
おお
成程
さすが多聞天様!
皆が口々に感嘆の声を上げる。
今度は剣聖も口を出さない。
「じゃあ、その作戦で行きましょ~。みんな準備宜しく~」
こうして大胡勢は陣を引き払い北上していった。
お味方は宴会が盛り上がり、大胡勢がいなくなったのに気づかなかった。
河越城南。狭山丘陵砂窪付近。
北条氏康
いったいなんだっのだ、あの鎧武者は。
どこから現れた?
あの一瞬で十人以上を倒す実力がありながら、何故大将である儂の首を取らないで退いた?
わからん。
理解できん。
人は理解できない者に原始的な恐怖を感じる。
氏康はあの者を《《危険》》と判断した。
あとで探りを入れさせよう。
「小太郎は前線か」
「はっ、かねてよりの作戦にて」
「うむ。後で話があると伝えよ」
闇の奥でから応との反応が感じられた。
今、風魔は全力で敵の上杉両名を狙っている。
まずは北条本隊の全力で、西にいる一万の敵主力を率いる関東管領山内上杉憲政を叩く。
それを潰走させた後、右回りに河越城北に本陣を敷いている扇ケ谷上杉朝定を叩く。
河越東の鎌倉公方は戦意が元々ない。簡単に潰走するであろう。
重要なのは最初にあたる山内上杉軍だ。これを潰走させればあとは楽な物。
その混乱に紛れて風魔が敵本陣を急襲。両名の首を取る手筈となっている。
先の鎧武者の詮索など今はどうでも良い。
この野戦に北条家の命運がかかっている。
ここが先途ぞ!
一心不乱に突撃じゃ。
その一刻後。
酒をしこたま飲んで寝ていた山内上杉軍はたちまち壊乱。
配下の必死の抵抗により難を逃れた上杉憲政は這う這うの体で上野平井の金山城へ逃げかえっていった。
そして扇ケ谷上杉朝定は風魔の強襲にあって自刃。
ここに扇ケ谷上杉家は断絶した。
この戦を機に北条家は一躍関東の雄へと飛躍していくのであった。
その頃大胡一家はというと……
「はいはいは~い。並んで並んで~。干飯はこっちね。水筒は一人一つだよ。干飯の袋は五つまで。押さないで押さないで~。たっぷりあるからね。なくなったらすぐ補充するから~」
殿自ら先頭に立って、水と兵糧を敗残兵に手渡していた。
「ありがたやありがたや~」
「何という神々しさ。なんまんだぶなんまんだぶ」
「おおっ。よく見ると白銀に光り輝いているようじゃ」
「これぞ真の仁将! 大胡政賢様。きっと大を為す御方じゃ!」
みなが口々に殿さんを称えているのを聞き、家臣一同ニコニコ顔が止まらない。
「さすがは多聞天様。他にも大胡には神様が付いていなさるらしい。これで前途洋洋じゃなぁ」
はっはっはっはっ!!
普段、神仏に興味を持たない武辺者たちにたまたまお告げがあり、それが当たっただけで喜んでいる日本人のなんと多い事か。
でも慶次郎ちゃんは知っています。
「その神仏の正体は~ 未来から来るのに失敗した来訪者~~~♪」
(国営放送の頭の大きな幼女に叱られたい慶次郎であった)
「今回も凄いパロディの連続だな」
「ええ、これじゃあ普通の人はついてこれないのじゃありませんこと?」
「いあいあ。この世界にはぐーぐる大先生がおられます。彼に聞いてみましょう」
「それをしないでわかる人はきっと作者と同い歳くらいですわね」
「わかっちゃう人は【つまんね~やつだなぁ】」
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