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07 悪魔と聖女と罠 

会議が始めったかと思いきや、マリサと名乗った聖女は突然身の上話を始めた。

最初は痛々しい人間の妄想かと思っていたが、話の中につい最近会ったばかりの同族が出てきたことで一気に警戒心が強くなる。

そうとも知らずヒロインである自分に酔っているマリサはうっとりと微笑んでいる。


「という訳で私はあなたからこの国の聖女を救ってあげるの。まさに聖女らしいと思わない?」


なにが聖女らしいだ、お前は俺の同族に唆されてその気になってるだけのくせに。

これだから欲にまみれた人間は愚かだと言われるんだ。


「その計画を成功させる気があるならベラベラ喋るんじゃなかったなぁ?俺の体を殺される前に、俺がお前を殺してやるよ」


そう宣言した途端、『戒めのティアラ』が発動し頭を締め付けてくる。殺してやるという殺意に反応したのだろうが歯をくいしばって耐える。この痛みに負けていては自分の体を守りきる事などできない。


そんな俺を見てマリサがくすくすと笑った。


「あらあら、カラスの言うとおりあなたってどんくさい悪魔なのね……どんくさいというより鈍い、かしら。どうして私があなたに計画を話したか、まだ分からないの?」


相手に計画を話すということはその人物には知られても問題ないと判断したからだ。

マリサ達が俺の妨害など取るに足らないと考えているか、もしくは――。

そこまで考えバッと視線を入り口のドアに向ける。


「まさか、もうっ……!」


計画を、妨害しそうな相手に話す理由。

話す相手がさして影響がない相手だと判断した場合――もしくは、事が済んでいる場合。

すべてが終わっているなら話したところで邪魔など出来るはずもない。

俺は慌てて聖殿を飛び出した。

最初に出ようとした時の様に電流は流れない。思い切りドアを開けると同時にシスター数人がこちらに掛けてくるのが見えた。


「おいっ!何があった!?」


シスターの一人に尋ねると教会の中に悪魔が紛れ込んでいたと説明された。

強力な悪魔であるから浄化しなければならない、と。

聖女様方急いでください、というシスターの言葉を最後まで聞き終える前に悪魔は人の集まる場所目掛けて駆け出していた。混乱する回りの声も、後ろから何食わぬ顔でついてくるマリサの足音も耳に入らない。

どくどくと鼓動が五月蝿くなるほど走ってたどり着いたのは、聖女と最初にであった礼拝堂だった。


「聖女様!あの悪魔を浄化してください!」

「まさか教会に現れるなんて…」

「なんて恐ろしいのかしら」


シスター達を押し退けて人だかりの最前列にでた俺は目を見開いた。

そこに居たのは自分の体に入った聖女だ。

しかし見慣れたはずのその体には見慣れない鋭利な角や、真っ黒い蝙蝠のような翼が生えている。誰が見ても異形と分かる姿をしていた。


そして聖女の腕の中では一人のシスターが死んでいた。目は見開かれたままぴくりとも動かない。よくみれば首がぱっくりと切り裂かれており、そこから溢れた血が真っ白いシスターの服を真っ赤に汚していた。

角や翼が現れたのはシスターの血に触れ穢れを取り込み、悪魔としての力が強くなったせいだろう。



「まぁ、なんておぞましいのかしら!」



誰もが遠巻きにその光景を眺めるしかできない中で声をあげたのはマリサだ。


「皆様、下がっていてください。私達聖女があの悪魔をすぐに浄化してみせますわ!」

「ち、ちが……私じゃ、私じゃないんです……っ!」


慌てて顔を上げたのは聖女だ。

何があったのか問いかけようとする俺の言葉を遮ってマリサが再び声をあげる。


「どうみてもあなたが何の罪もないシスターを手に掛けたとしか思えませんわ!それを自分ではないだなんて……皆様聞いてはなりません。これは悪魔の罠ですわ!同情させて隙を作り皆殺しにするつもりなのです!」

「違います!そんなことっ……!」

「罪を重ねる哀れな悪魔よ、大人しく浄化されなさい!」


聖女の言葉を無視してマリサは浄化の力を発動させる。

白く目映い光がマリサの手に集まっていく。

それは俺が聖女を殺そうとした時の魔力の塊に似ていた。


「やめろっ……!」


俺は聖女を庇うように腕を広げマリサの前に立ちはだかった。

同時にそれを見ていたシスター達が驚きざわつきはじめる。


「聖女様、なぜ悪魔を庇うのですか……!」

「悪魔を浄化しなければ皆殺しにされるのですよ!?」

「人殺しの悪魔は存在してはいけないのです!」


悪魔の中身が聖女だと知らないシスター達から投げ付けられる言葉に、悪魔の背中で聖女が絞り出すように小さく呟く。


「違う……私じゃ、ないっ……私は殺したりしてないっ……」


その声が耳に届いた瞬間、俺は叫んでいた。


「違う、こいつは人を殺したりしない!絶対に!」


その叫びにシスター達は一瞬静かになる。

彼女達の目に映るのは必死な聖女の姿だ。もしかして本当に違うのではと誰かが小さく呟いた瞬間、マリサはくるりとシスター達を振り返った。悲しげな表情を浮かべながら。


「騙されてはなりません!この国の聖女様はあの悪魔に唆されているのですわ!すぐにこの聖女マリサがお助けします!」


そして再び俺と聖女に対峙すると、マリサは楽しげに目を細めて浄化の力を打ちこむ。


「今すぐその悪魔から解放して差し上げますわ、聖女様」


聖女を後ろに庇っている俺は避けることも出来ずに、攻撃的な浄化の力をそのまま受け止めてしまった。

皮膚が切り裂かれ全身を痛みが襲う。


このまま死ぬなんて冗談じゃねぇ!


俺は体に宿る聖女の力を開放した。

上手くいく保障なんてなかったが以前助けたアルフとかいう子供の母親に、浄化の力を使ったことを思い出して抵抗を試みる。

すると突然、眩い光が現れ俺と聖女を包み込んだ。

何が起きたのか訳が分からないまま俺は意識を飲まれ倒れこんでしまった。


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