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13 悪の末路

数日後、俺達は逃げ出した教会に戻ってきていた。


前回負わされた傷を完治させ、戦えるだけの体力は回復している。

万全の状態だ。


教会の入り口で俺達を出迎えたのは、マリサと彼女の肩に止まるカラスの悪魔だった。

奴が堂々と出てきていることに違和感を感じる。

回りには他にシスター達もいるのに誰一人としてカラスの悪魔を気に止めていない。それどころか彼女達は皆目が虚ろでふらふらしている。洗脳状態にでもされているのだろうか?


「戻ってきてくださって嬉しいわ。私に救われる気になったのね」


シスター達を無視して口を開くマリサは笑みを浮かべている。


「……気を付けろ聖女、何かおかしい」

「ですね……シスターの皆さんの様子が明らかにいつもと違います」


隣に立つ聖女にだけ聞こえるように呟くと、同じ様に警戒しているらしくそう返ってくる。


「あのマリサって聖女は俺が引き受ける。だからお前はあのカラスを頼む」


きっとあのマリサがシスター達におかしな力を使ったのかもしれない。

カラスの悪魔とマリサが契約しているとしても、契約者の方さえ抑えてしまえばなんとかなる。



小声で指示を出したその時、教会の奥から白髪混じりの中年の男と一人のシスターが姿を現した。

他のシスター達と違い足取りがしっかりしているところを見ると、マリサの力は影響していないようだ。


「この様なところで何事ですか……?おや、聖女様ではありませんか!マリサ様から悪魔に拐われたと聞いて心配していたのですよ」


どうやら聖女の顔見知りらしい。


「あいつらは?」

「この国の司教様と補佐のシスターコレットです……司教様!コレットさん!そのマリサさんという方はシスターハンナを殺めた方です、危険ですから離れてください!」


聖女がそう叫べば司教は驚いたような顔をしてマリサから離れ、コレットとかいうシスターとこちらに駆け寄ってくる。


「なんと!危うく騙されるところでした……!聖女様、ご忠告感謝します」


そう言って聖女の元に握手を求めるように手を差し出しながら歩み寄ってくる二人に俺は眉を寄せる。


「信じてくださるのですか……?」

「もちろんですとも。私は聖女様の味方――」

「離れろ!」


司教に近付こうとした聖女の腕を慌てて掴み引き寄せる。


「わ、どうしたんですか?司教様は私の言葉を信じて……」


俺は聖女の腕をつかんだまま司教を睨み付けた。


「どこの世界にどうみても悪魔の姿をしているヤツを『聖女』と呼ぶ司教が居るんだよ!?」

「……あ」


やっと気がついたのか聖女は司教に視線を向けた。

今の聖女は角と黒い翼をはやした誰がどうみても悪魔らしい悪魔の姿をしている。にも関わらず、その言葉をあっさり信じそれが『聖女』という確信をもって話し掛けてくるのはどう考えてもおかしい。


警戒を露にした俺に司教が首をかしげた。


「それで聖女様を守ったつもりですか?……もう手遅れですよ」


一瞬、司教が唇を吊り上げたかと思うと差し出していた反対の手から鋭いナイフがこちらに向けて振り下ろされる。


「危ない!」

「きゃっ……!」


聖女を庇いながら攻撃を避ける事には成功したが俺達はバランスを崩してそのまま地面に倒れ込んでしまう。


「……おやおや、この近距離で外してしまうとは。私も歳ですかねぇ……次こそ当てますから。少々苦しむかもしれませんが、すぐに天に送って差し上げますのでご安心下さい」


そう言いながら司教は一歩一歩こちらに近付いてくる。


「あら、司教様!お待ちになって!可哀想な聖女の様をお救いする役目はお譲りしても構いませんが、聖女の力は私のものですわよ?」


慌てた様子でマリサが司教の元に駆け寄ってくる。


「分かっておりますともマリサ様。私が瀕死まで追い込みます、その方がマリサ様の負担が減りますから。止めを指す事はお任せしますよ」

「あらそう?それなら任せますわ」


教会の司教や聖女を名乗る者達の会話とは思えない。

俺は隙をついて起き上がると反撃するべく聖女の力を発動させた。

俺が使うには反動が大きいがこいつらを倒すためには仕方がない。

天も奴らを倒すべきと判断しているのか、あれだけ俺を苦しませた『戒めのティアラ』は全く発動しなかった。

魔力を操る時のように、聖女の持つ浄化の力を大きな塊にして奴らにぶつける。


「なっ……!?いつの間に!?」

「話している最中に攻撃なんて卑怯ですわ!」

「うるせぇ!くらいやがれ!!」


避ける暇など与えず浄化の力を球体のような塊にしていくつもいくつも奴らに投げ付ける。


「っく……!ちょっと、カラス!助けなさい!!私は貴方の契約者でしょう!?」


マリサがカラスに助けを求めるがカラスはいつの間にか彼女の元を離れて空中に避難していた。


『やーなこった。お前のお守りにもそろそろ飽きて来てからなァ。お前の魂を食って次の契約者を探しに行くことにした』

「っ!?魂を食べるって何よ!?迷信だっていったじゃ……あぐぁぁっ!?」


カラスの悪魔はマリサの背中に回り込んだかと思うと心臓めがけてその嘴を突き刺した。

突然の痛みと苦痛にマリサが地面に倒れ込む。


それと同時に浄化の力をこれでもかと受けた司教も地面に倒れた。

司教の方は心身ともに相当汚れていたのだろうか、浄化の力によって体がサラサラと砂のように崩れていく。


「あぁ……いだい……っやだ、死にたくない……私はっ」

『異世界の人間でも生に執着するとか、お決まりすぎて笑えるわァ。お前の世界風に言うならウケるゥ、か?ギャハハッ』

「あ"あ"ぁっ……!!」


倒れ混んだマリサの背をカラスの悪魔は容赦なく啄んでいく。

痛みに叫ぶその声すら甘美な音楽のように聞こえているのか、奴は楽しげに笑っている。


「……悪魔さん……?いったい何が……ひっ!」


司教の攻撃を受けて意識を失っていた聖女が起き上がり、目の前の光景を見て悲鳴を上げた。


「お前は見るな」


聖女の頭をぐいっと引き寄せて抱き締める。


「で、でも助けないと……!!」


マリサは聖女にとって自分の家族を殺した相手だというのに、助けようと思えるなんてお人好しにもほどがある。


だが、助けることは出来ない。

契約が成立した時点でその魂は悪魔に囚われてしまうのだから。





「あれが悪魔と契約した人間の末路だ」





俺の言葉に聖女は小さく肩を震わせた。


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