ようこそ『追放者ギルド』~の感想
なろうで掃いて捨てるほどありふれている「追放物」。どれも展開がワンパターンで、追放されるパーティ、ギルド名、リーダー、そして主人公の名前を変えただけの文章にうんざりしていた中、この小説が目につきました。
「追放物」を知らない方に説明しますと、主人公はトップレベルの冒険者パーティに所属していたが、リーダーからパーティへの貢献が少ないことなどを理由にパーティから抜けることを強制されます。しかし実は主人公はパーティを陰から支えていた立役者であり、追放された主人公は本当の仲間に巡り合い栄転、一方追放したリーダーは主人公が抜けた穴を埋めることができず凋落する……そんな内容です。
この内容の是非はともかく、本作では追放された仲間の実力に気づき、新興ギルドを立ち上げてなりあがろう、というあらすじになっています。まあ、追放されるキャラが主人公からそうでなくなっただけかもしれないですが、他にどのような変化球を見せてくれるのかと期待しました。
本作の世界観は個人のステータスを自由に見ることができ、その結果数字の優劣がそのまま人間関係へと表れています。具体的には強い者は強い者同士で組むことにより、より強大なパーティを作る。一方、ステータスが低い者はパーティから面白半分で追放される……なんでステータスが低いのにパーティに入れたのかという突っ込みは置いといて、なかなか興味深い世界観だと思います。ステータスという具体的に他者と明確な優劣をつけられる存在により、自分より劣ったものに対する攻撃性を露わにする。この部分はリアルな描写であり、評価できるポイントだと思いました。
本編の話をしましょう。この物語はステータスの数字だけでなく、個々の隠れた特殊能力である「隠しスキル」を見ることのできる男、アイゼン・テスラ―を主人公として進みます。彼は冒険者を統括する組織であるギルドマスターを目指し、ギルドマスター育成学校を卒業しました。現実で例えると高校の校長になりたいから校長育成学校を卒業しました的なノリでしょうか?そんな彼はステータスだけでなく、隠しスキルを加味した総合力の方が重要だと考えました。
彼は冒険者ギルドへ就職を志願するも、十以上のギルドからお祈りされてしまいます。現実で例えると校長育成学校を卒業した後、教職員を志願していたようなものですね。そんな中、とあるギルドに入ると今まさに追放されようとしている冒険者を目にします。追放理由は当然ステータスが低いという理由です。
アイゼンは追放しようとする男の隠しスキルを見ると、ステータスが底上げされるスキルでした。一方追放された冒険者、ヴィリーネのスキルは第六超感。直感で敵の待ち伏せや罠を回避でき、敵の弱点を見極められるというものでした。
アイゼンは追放されたヴィリーネをスカウトしますが、その際追放した男から衝撃的な事実を告げられます。なんと彼女は臆病な性格なのです。命がかかった冒険者をするにはあまりにも大きい枷ではないでしょうか?もはやステータス以前に冒険者をやめるのが正解な気がします。しかしヴィリーネの才能を信じたアイゼンは彼女を自分のギルドにスカウトしました。その際のセリフが「俺がヴィリーネちゃんの本当の価値を教えよう。」だったのですが、冒険者でなくそのスタイルを生かして云々みたいな流れに見えたのはきっと私だけでしょう。
その後アイゼンは追放した男に無用な挑発をし、ギルドを出ようとするところで男に問いました。
「ヴィリーネちゃんをダンジョンに連れて行かないときがあったか?」
男は記憶を巡らせた挙句、ヴィリーネの本当の力を察し、追放したことを激しく後悔したのでした。
……この流れに違和感を感じたでしょうか。今まで「ステータスが最重要!それ以外の素質は屑同然!」というスタンスだった男が、急に「この子はトラップを絶対に回避できる能力を持っていたんだ!それを追放してしまった俺たちはこの先数多くの凶悪なトラップにおびえ続けなければならないんだ!俺はなんてことをしてしまったんだ!」という考えに一瞬で至ったということですね。そもそも個人に隠しスキルがあることは主人公しか知りえない情報なのですが、彼の行動はあたかもそれを知っているようなものであり、違和感を生み出しています。
結局本作も数多の追放物と同じ展開であると思い、三話で読み止めました。もしかしたら先の展開で夢をあきらめかけた多くの冒険者とともに活躍する物語が描かれているかもしれませんが、この先は興味を持った方に追っていただきたいと思います。