狼少年になった悪役令嬢
狼少年になった悪役令嬢
私、嘘を吐き続けますわ。
初めまして、ご機嫌よう。私はキャロライン・エルシー・フローレンス。公爵令嬢ですわ。私、実は所謂悪役令嬢ですの。
順を追って説明しますと、まず、私は所謂異世界転生というものをしたようなのです。前世で童話作家として活動していた結果、何故か異世界の神さまに気に入られて死後好きな世界に転生する権利を得られたのですわ。そしてこの世界で目が覚めましたの。大好きな乙女ゲームの世界。しかし、私はヒロインではなく悪役令嬢に転生していたのですわ。でも、私幸せですの。だって、ずっと大好きだった最推しの攻略対象者、ミカエル・ベンジャミン・ケント第二王子殿下と婚約者になれたんですもの!例え、いつか婚約破棄されるとしても、それでも私幸せですの!ですが、ミカエル王子殿下は内気で気弱、大人しくご自分に自信を持てないお方なのです。
だから、私考えましたの。
ーミカエル王子殿下をお支えして、いつかくるヒロインさんとの幸せのための踏み台になろうと!
幸いにして兄も弟もいるので公爵家の跡継ぎは心配いりません。もし私がミカエル王子殿下に振られた後修道院に入っても問題ありませんわ。ということで早速、五歳の頃からミカエル王子殿下にある嘘を吐き始めましたの。ミカエル王子殿下は学力も魔術も武術も十分に天才の域にあるお方ですが、優秀な兄である王太子殿下と比べられ自信を持てませんの。ですから、子供だからこそ許される小さな嘘でミカエル王子殿下を元気付け、やる気を出していただき、自信を持っていただく作戦ですわ。
その嘘とはずばり、私が予知夢を見たというもの。そしてその予知夢では、ミカエル王子殿下が勇者としてあれやこれやと大活躍!大事な可憐で美しく優しい妃のために世界を駆け巡り様々な功績を残すというものでしたわ。
「キャロル、僕、本当にそんな風になれるのかなぁ」
「もちろんですわ!予知夢を見たんですもの!間違いありませんわ!」
「ふふ、そっか…じゃあ、可憐で美しく優しい未来の妃のために頑張らないとね」
「ええ、応援しておりますわ!ミカエル王子殿下!」
「うん、ありがとう!」
ー…
嘘を吐き始めてから早数年。もう十五歳になってしまいましたわ。ミカエル王子殿下は目的通り、才もありながら自信に満ち溢れた素晴らしい第二王子となられました。ですが、そろそろ学園生活も始まりますし、ヒロインさんと出会ってしまわれるのかしら…。ああ、後悔はありません。ですが、名残惜しいですわ。
「キャロル、何を考えているの?」
「ミック様!すみません、少し考え事をしておりましたの」
「…何か悩み?僕で良ければ相談に乗るよ?」
「え、えっと…わかりましたわ…あの、その、予知夢でみたミック様の妃のことで…」
「君のことで?どうしたの?」
「…え?」
「え?」
「…え?」
な、なにかしら、なんだか認識の齟齬があるような…?
「ねえ、キャロル。まさかとは思うけど、君が言う妃って君のことじゃないの?」
「え、ええ。ミック様にはもっと素晴らしい、相応しい女性が…」
がしっ、と肩を掴まれる。ミック様は真顔。わ、私、何かしてしまったかしら?
「キャロルは僕が浮気する男に見えるの?」
「い、いえ、そんなことはございませんわ!」
「ならその予知夢は今すぐ忘れて。僕はキャロル一筋だからね?他の女性にうつつを抜かすことはないからね?いいね?」
「は、はい…」
あまりの剣幕に思わず頷く。
「わかってくれてよかった。僕はキャロル以外に妃も側室も持つ気はないからね。安心してね」
な、なんだかいつのまにか、すごく愛されていたかも知れませんわ。嬉しい…。
…そして学園生活が始まり、物語は幕を開けました。ヒロインさんももちろん入学してきましたわ。ですが彼女の皆様からの評価は愛らしいご令嬢ではなく変わったご令嬢でしたわ。なぜなら、折にふれ攻略対象の皆様に言い寄っているからですの。婚約者がいる方ばかりなのにね。その上多数の殿方に言い寄るなんて、逆ハーレムでも築くつもりだったのかしら。ミック様に対して一途ならともかく、他の殿方とも関係を持つつもりなら容赦いたしませんわ。ミック様が私を好きになってくださってよかったですわ。それに、ミック様は私を溺愛してくださる故、他の攻略対象者の方々と違ってヒロインさんに見向きもされなかったようですわ。もちろん嬉しいですわ。それどころか、ヒロインさんが私に虐められたと冤罪を吹っ掛けてきた時には、真っ先に庇って無実を証明してくださったんですの。そのおかげでヒロインさんの浅ましさはすぐに噂になりましたわ。それどころか、何股もかけていたためミック様以外の他の攻略対象者の方々からも蛇蝎の如く嫌われているようですわ。学園にも居辛くなって、困っているそうですの。
ミック様以外の攻略対象者の方々とその婚約者様方はちょっといざこざはありましたが、最終的に丸く収まってらぶらぶいちゃいちゃのご様子ですわ。
まあ、色々ありますけれど、逆ハーレムなんて最悪なものを築こうとされたヒロインさんはざまぁな結末になりましたし、攻略対象者の方々もその婚約者様方も幸せになれましたしハッピーエンドではないでしょうか?
私?私はヒロインさんが現れようがなんだろうが、ミック様からの寵愛を受けられ、ミック様と相思相愛ですのでとても幸せですわ。ええ、とっても。
ただ一人の人のために嘘を吐く。それも一つの選択肢ですわ。
最後は幸せなお妃様に