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白い球体

「ぴゅっぴゅ」

「ほお、そうかそうか」

「ぶぶぶく!!」

「それはまあ大変だったなあ」

「ガガ!ガ、ガガガガ!!」

「これ、女の子がそんな言葉使ってはいかんぞ、お嫁に行けなくなってしまうからな」

「「「「?」」」」


「意思疎通できてないんかい!!!!!」


 

 ルイの報告を受けて広場についたリッツの開口一番は切れの良い突込みだった。



 山下は広場の中央で大小さまざまな魔物に囲まれて立ち尽くしていた。広場は森の中央に置かれており、リッツが務める森の役場などの公共施設、店、種族ごとの家、森からとれる物を加工する小屋の順で建物が建てられている。もっともすべて意思疎通ができない幼体であったので彼に危害が加わっているということはなかった。



 しかし、予期せぬ問題が一つ存在していた。



「ほあ?」



 情けない声とともに広場を光が包む。昨日リッツが散々見せられた光よりも数倍強く、広範囲に広がったそれに幼体の魔物たちは瞬く間に閉じ込められる。瞬間のできごとで、多少驚きはした彼らは次第に目を虚ろにし、虚空を見つめ始める。



 数秒のたち、光が完全に消え去ると山下がハッと辺りを見渡し



「君たち、ここはどこかな?」

「ぴゅ?」



 繰り返されること三回。山下から発せられる光とともに広場内の魔物は数秒前の会話を忘れ、まるで今会話が初めて行われたかのようにふるまうのだ。



「こんなの一体どうしたらいいのよ~!」



 そんな言葉とともにリッツはへにゃへにゃとその場に座り込んでしまう。広場の入り口、ちょうど現象の範囲外にリッツとルイはいた。



「精神に作用してるのか...それとも時間の巻き戻し?どちらにしてもこの範囲と人数は並大抵じゃできないのでは?」

「んなことわかってるわよ!!」



 ルイの指摘はリッツでも容易にわかる。この範囲と人数に影響を及ぼすのは魔族にもきつい。加えて山下はMPがもっとも少ない人間、たとえ足りたとしてもそれを操るのはおいそれとできることではない。



「じゃあこれはスキルなのでしょうか?」

「それはもっとありえないわ」



 そうスキルはもっとありえない。なぜならスキルにはそれ相応の冷却時間クールタイムが発生するからだ。



 簡単なスラッシュですら10秒、少し複雑になると1分を軽く越してしまう。この現象を引き起こすには確実に10分ほどの時間が必要になるだろう。しかし、実際には一定の冷却時間はなく、突然発生しているようだった。



 ほかに考えられるのは...



 そこまで考えるとリッツは頭を振る。



 そんなことはありえない。それよりも魔物が集まる前にどうにかしないと...



 広場には幼体たちの親と思われる魔物はいない。おそらく新しい森の開拓に駆り出されたのだろう。そして彼らがこの広場に戻ってくるのも時間の問題だ。



「やましたさーん!!」

「ほあ?」



 間の抜けた声とともに山下は顔を向ける、どうやら自分の名前は憶えているらしい(覚えてないと困る)



()()を今すぐやめてくださーい!」

「...なんじゃって?」



 耳に手を当てながら、よたよたと近づいてくる。当然現象の中心である山下がよってくるので、



「わー!!だめですだめです!!こっちこないで!」

「お、ああ、そうかい...」

「ああ!そんな悲しまないで!!」

「自分から近づいてどうすんのよ!」



 光に触れかけたルイをリッツは服の裾をつかみ、間一髪で引き戻す。その勢いが強かったのかリッツの五倍以上の体重をもつルイが後ろへと投げ飛ばされる。



「へぶっ!!」



 地面で大の字になるルイをよそに、再び光は強くなる。



「...」

「...な、なによ」


 光が弱くなったあとの山下は今度はじっとリッツを見つめる。そしてハッ!と何かに気づき、わなわな

と指をさす。



「そ、そんなまさか...!」

「はあ...私はリッコよ。あんたの言うリツコじゃ「サツキちゃん、その服ほんとうに着たのか!!」

「別パターンを出すなあぁぁ!!!!!」



 殴りかかろうとするリッツをいつの間にか起き上がっていたルイが羽交い絞めにする。しかし、それなりに鍛えられた身体であるルイでもかなりきつい力で振りほどこうとする。



「ちょ、リッツ!おちつ、え、なんでこんな力強いの?!」

「この服は正装じゃあぁぁ!!!」

「あ、そこなの?!ていうか光に巻き込まれちゃうから!」

「いや!忘れる前にやつにいやというほどわからせてやる!!天丼を守れ!!」

「リッツ!キャラ崩れてるよ!!?」



 二人のやり取りをよそに、山下が広場の中央へと歩いていき、光が二人以外を包む。



「君たち、ここはどこかな?」

「ぴゅ?」



 そんな光景を見届けた二人はがっくりと肩を落とす。





 真上まで来ていた太陽は西へと続く巨大な雲に覆われ、辺りは少し暗くなっていく。

 


「...しょうがないわね」

「...?よ、妖精王様?」

「どう考えたって、この原因は山下よ」



 首をかしげるルイをよそに、リッツは両手を広場の中心部、山下へと向け、魔力をこめる。



「ちょっ!!リッツ??!」

「あてはしないわ!やけっぱちよ!!妖精の火(ファイヤーエレメント)!!!」



 短い詠唱とともに両手にこぶしほどの大きさの炎が生成され、山下の顔の真横を通り、決して当たらないように射出される。ちょうど広場を光が覆う直前であった。



「へあ?!」



 間の抜けた声とともに迫りくる火の玉を認識すると同時に広場を覆うとしていた光は急速に凝縮し、山下を守るような白いバリアとなり、その姿を見せなくする。



 軽い爆発音とともに空気が震える。山下に当たらないはずだった火の玉はどうやらバリアに衝突し、爆発したらしく、広場の中央には煙が上がり、バリアごと山下の姿を見えなくさせる。



 爆発に驚いた魔物の幼体たちは蜘蛛の子を散らすかのように方々に散っていき、その騒ぎを広めていく。

 


「り、リッツ...!」

「......あなた、何者?」



 先ほどまでとは違い鋭い目つきで問いかける、その顔からは動揺がたやすく見て取れた。老人が()()()()()であるなら、()()()()()()であるなら、()()()()()であるなら、妖精の森はなにもしない。もともと自治領として認められたここはたとえ魔王に歯向かうものでも受け入れ、癒し、送り出していく。それは形成当初から受け継がれてきた妖精の森の掟のようなものだった。



 しかし



()()()()()()()()...」



 しわがれた、ガラガラとした声が煙の中から響いてくる。それは確かに年老いたものの声だけれど、地響きのように低く、はっきりとした意識を感じる。それは先ほども出の山下からは全く感じられなかった。



 雲の隙間から太陽が顔をのぞかせる。つかの間の光が煙によって反射され、山下の立っていた場所に光光が差し込む。そこには着弾前に形成された白い球体が傷一つなくたたずんでいた。



 中からは先ほどの低い声が響いてくる。



「嬢ちゃん、ちょっとこれはひでえんじゃ...」



 声はそこで途切れ、人が倒れる音が聞こえた。同時に白い球体は崩れていき、中からはどこにでもいそうな老人が倒れている。



 慎重な足取りで近づくリッツに対し、ルイはドタドタと足音を立てて山下へと駆け寄り、その状態を確認する。球体と同じく山下の身体に異常は全くない。



「よ、妖精王様...この人はいったい...」

「ルイ、この人を宿に運んだあと、旅立ちへの準備を急ぐように伝えて」

「へ?あ、はい!」



 いつになく神妙な面持ちのリッツから何か感じたのか、ルイは山下を担ぎ上げると森唯一の宿屋へと走り去っていく。



「あんなもの、この森においておけるわけないじゃない...!!」



 走り去るルイを見送ると、リッツは執務室へと急ぐ。



 先ほどの爆発は幼体の魔物の魔法が暴発したとすれば丸く収まるだろう。それよりも...



 先ほどの白い球体が脳裏にちらつく。詠唱もMPの消費もなく、スキルと呼ぶにはあまりにも効果時間が長すぎるバリア。明らかに山下の力から逸脱した能力。



 明らかにあの老人には過ぎたもの、つまりあの人は...



 考えながらその足を速めていく。



 太陽は再び雲に隠れ、辺りは薄暗くなっていった。

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