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98:とあるドラゴンの襲来直後



「……まったくなんて日だ」



 南門の外に陣を布いていた冒険者たちの中で【星屑の聖戦】のリーダー、セーリャンはそう愚痴る。

 彼らは金級パーティー上位という事もあり、かなり前の方へと位置取っていた。

 故郷である王都の一大事である。急いでダンジョン【百鬼夜行】から駆け付けたのだ。


 しかし来てみれば魔物の群れは一万五千にも上るという。

 いくら冒険者や騎士団が総出とは言え、そんな数の前には絶望しかない。

 それでも逃げずに居るのは王国所属の冒険者としての矜持である。

 ……それと自分たちの少し前に居る【魔獣の聖刀】や【白爪】に期待している部分もある。


 なんとも情けない話しだ。

 【白爪】はともかく自分より年下の【魔獣の聖刀】に頼らざるを得ない。

 もちろん彼らの音に聞く強さは知っている。ビーツの同僚でもあるし有名人だ。王都民としては英雄視もしている。


 とは言えもやもやした気持ちがあるのも確かだった……が、魔物の群れが近づくにつれ、そんな気持ちもなくなった。考えている場合じゃないと言ってもいい。

 最前線の彼らは余裕綽々で軽口を叩いたかと思えば、クローディアが冒険者たちに指示を出し士気を上げる。セーリャンも大人しく従う。もはや年下どうこう考えている暇はない。

 アレクが準備し出した大魔法は見ているだけで畏怖するものだった。

 伊達に宮廷魔導士長ではない。伊達に英雄ではない。


 ……しかしその魔法が放たれる事はなかった。


 一体のドラゴンが突如現れ、魔物の群れを駆逐したのだ。


 何が起こったのか理解出来た者は、その場で【魔獣の聖刀】の三人だけだろう。

 セーリャンも他の冒険者同様に慌てた。

 ドラゴンが王都の方へとUターンするのをビビりながら見送った。



「な、なんだったんだ!あれ!」

「どうすんだよ……どうなっちまうんだよ……」



 パーティーメンバーも動揺が激しい。セーリャンはリーダーとして落ち着かせたかったが、自分にも何が何やら分かっていない為何も言えない。

 そうこうしているうちにクローディアが後ろを振り向き、冒険者たちに声を掛ける。



「みんな落ち着いて!まだ魔物の群れは全滅していないわ!迎撃準備を解かないで!」


「し、しかしあのドラゴンは……」

「そ、そうだよ!王都に行ったぞ!」

「俺たちも行った方が……」


「あのドラゴンは味方よ!魔物の群れに攻撃したでしょ!ほっときなさい!私たちの仕事は残った魔物の殲滅よ!」



 腑に落ちない所も多々あるが、クローディアの言う事も正しく感じた。

 魔物が残っているのに陣を解いて撤退するわけにはいかない。

 セーリャンは自分のパーティーメンバーに声を掛け、再度迎撃態勢を整えた。





 その後、極端に数が減った魔物の群れは冒険者と騎士団によって完全に駆逐された。

 残っていたのは後方に控えていたオーガリーダーやゴブリンジェネラル級の上位種が多かったが、その半分ほどがアレクの魔法によって遠距離から一方的に倒された。

 残った半数を冒険者や騎士団が相手したが、それも前線に布陣するパーティーのみで賄える量だった。おそらく後方の銀級以下のパーティーに関しては全く戦っていないだろう。



「魔物の全滅を確認!怪我人は速やかに戻ってくれ!それ以外はこれより総出で剥ぎ取りするぞ!数を集計する!ちょろまかすなよ!」



 最後尾からギルド職員のパベルが大声を上げる。

 セーリャンたちは幸いにも怪我人がなく、大して戦っても居ないので剥ぎ取りに参加した。

 全く戦っていない銀級以下の冒険者たちも同様だ。戦う事は叶わなかったが少しでもこの防衛戦に貢献しようと剥ぎ取りを行う。

 なにせ一万五千。まぁドラゴンのブレスで消滅した魔物も多いので総数を数える事は無理だろうが、それでも死体を放置したままでいいわけがない。

 出来る限りの素材収集を行おうと彼らは奮闘した。



 剥ぎ取りに参加せずに王都へと戻る怪我人たちと共に【魔獣の聖刀】の三人も帰還していた。誰より多くの敵と戦っていたので剥ぎ取りは免除されたのだ。

 南門から大通りを歩けば、道行く人々が歓声を上げる。

 魔物殲滅の一報はすでに流れていた。



「助かったよ!ありがとう!」

「さすが英雄パーティーだ!アレキサンダー!クローディア!デューク!最高だ!」

「またスクロール買うぜ!【消臭王】!」



 そんな浮かれた都民たちに(アレクは苦笑いながらも)手を振り返す一方で、現れたドラゴンを不安視する声も聞こえる。



「ドラゴンが帰って来たと思ったら、消えて【百鬼夜行】の辺りに少女が落ちて来た」

「それをジョロがグルグル巻きにして運んでいった」

「また【百鬼夜行】関係か」

「またか」



 そんな声が聞こえる。噂話しの中ではすでにビーツの関係者だとバレているらしい。

 三人は溜息まじりに帰路を急ぐ。


 アレクは宮廷魔導士長として国王に報告しなければいけない為、クローディアとデュークで【百鬼夜行】へと向かった。





 避難民たちがどんどんと柵門から出て来る中、クローディアとデュークは屋敷に向かって逆行する。

 途中、歓声まじりの感謝を伝えられ、二人は手を上げて応えた。

 英雄でもあり王国貴族でもある二人は民意に応える義務も感じていた。

 内心はオオタケマルの件でそれどころではないのだが……。



 二人は庭園でジョロたちを探したがすでに管理層に戻ったらしい。

 屋敷に入り階段へと向かえば、しょんぼりしたカジガカが「がぅ」と迎えた。どうやら素通りさせた事で怒られたらしい。

 そんなカジガカをモフモフっとフォローし、二階の転移魔法陣から管理層へと飛ぶ。


 応接室に着けば、同じくしょんぼりしたジョロと、珍しく落ちこみ気味のホーキ、何やら申し訳なさそうなマール、笑っているモクレンが居た。



「お疲れ、みんな」

「久しぶり」


「……クローディア様お疲れさまです。デューク様もお久しぶりです」



 ジョロ、ホーキ、モクレンの向かいのソファーにクローディアとデュークが座る。

 落ち込みモードのホーキは給仕をマールに任せるらしい。

 デュークはマールの存在を知らず「えっ普通の人間も働いていいの?ここ」と驚いていたが経緯をクローディアから説明され、改めてマールと挨拶を交わした。

 ホーキ仕込みのマールの紅茶を飲み、クローディアはジョロたちに切り出す。



「とりあえず、ジョロとホーキはしっかりしなさい。ビーツの留守を預かってるんでしょうが」


「「はい……」」

「ははは、無理だよクロちゃん。この二人はしばらく引きずるから」


「困ったものねぇ。過ぎた事を悩んでも仕方ないじゃない」

「もうビーツには連絡したのか?オオタケマルは?」


「ご主人には連絡済みだよ~。魔物を殲滅した事もタケちゃんが寝た事もね~」

「ご主人様はご自分が説明不足だったと仰っていました。転移魔法陣の設定も変えておけば良かったと」

「しかし我々がちゃんとしていればオオタケマルを外に出す事など……」



 陽気なモクレンと対照的なジョロとホーキ。

 いつも冷静で完璧な二人がここまで凹むのはクローディアもデュークも初めて見る。



「だーっ!うじうじ五月蠅いわねっ!バレるのなんか遅いか早いかの違いでしょ!」

「だな。俺も経過はともかく結果を見れば良かったと思うぞ?」



 クローディアが叱咤してデュークがフォローする。

 特にジョロはビーツとデュークが四歳の頃、従魔となったばかりの小蜘蛛の頃から知っているので親身になってしまう。

 確かに存在がバレはしたものの、オオタケマルの蹂躙のおかげで死人も重傷者も出なかったのだ。当初の予想に反する大戦果と言える。



「いずれにせよエド辺りを通して周知させないと王都は混乱しっぱなしだろう。アレクが報告した後に遠からずここに来るはずだ。何をどこまで周知させるのか……ビーツと念話を繋いでくれるか?先に打ち合わせしたい」



 デュークはそうジョロに告げ、従魔を間に挟んだ打ち合わせを行った。

 クローディアはエドワーズ王子への報告や都民に対する発表の件など、デュークに丸投げする気全開である。



「頼んだわよ、外務大臣」

「エドはお前の上司でもあるんだぞ。外務でも何でもねえよ」



 デュークは自称パーティー唯一の常識人である。

 その他、パーティー内では交渉担当の″外務大臣″やパーティーの財布を管理する″財務大臣″でもあった。

 帰って来て早々苦労人は溜息を何度もつくはめになる。




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