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96:とある大魔導士の極大閃熱



「見ろ、魔物がゴミのようだ」

閃光弾(目がー!)の準備は任せろ」

「ゴミって言うか土砂災害の濁流って感じねぇ」



 南門に布陣する冒険者や騎士団のはるか先、やっと見える位置に魔物の群れが視認できた。

 街道を飲み込み平原に広がりながら迫るそれは、ゆっくりながらも蠢く波。

 すでに向こうからもこちらが視認出来ているだろうにも関わらず、足の速いウルフの一体も駆けて来ない。

 まるで列を乱さないよう行軍する軍隊だ。


 守備陣の最前線、【魔獣の聖刀】の三人は軽口を叩きながらも、その異様を見て改めて話す。



「うーん、明らかに変だな。仮にゴブリンキングとかリーダー格が居てもこれだけまとまるなんて出来っこないだろ」


「途中の村とかも素通りなんでしょ?それがそもそも魔物の思考じゃないわよ」


「人為的なもんだろうな。かと言ってそれが何かと言われてもなぁ……闇属性魅了魔法(チャーム)じゃないだろうし、召喚士の従魔も違う。魔道具か?新魔法か?」



 アレク・クローディアの疑問にデュークが考えを述べるがピンと来ない。

 チャームは魔物を一時的に操る事が可能だが成功率が極端に低い魔法だ。闇属性を得意とするビーツでも低く、まず使用しない上級魔法である。それを魔物の集団全てに掛けたとは考えづらい。

 召喚士の従魔契約魔法でも魔物を操れる(指示できる)が、召喚眷属を含めても一万五千もの規模となるとビーツほどの力量を持った召喚士が百体の従魔に眷属召喚させたところで、そこまでの数にはならない。まぁ実際どの程度の数を眷属召喚出来るのかはビーツ自身も把握していないが。



 何はともあれ王都目がけて一直線に来ているのは確か。

 迎撃以外にあるまい。

 クローディアは後ろを振り返り、冷や汗を流す冒険者たちに声を掛ける。



「みんな聞いてちょうだい!とりあえず私らが全力でぶつかるわ!でもあれだけの数を完全に防ぐなんて無理!必ず打ち漏らしが出るわ!みんなはそいつらをヨロシク!」


「嬢ちゃん、わしも最前線で戦いたいんじゃが」


「あら、ベンさんじゃない」

「おっ、こんちは!」

「えっ!獣王陛下!?……って何お前ら、不敬すぎるだろ!」



 冒険者たちの一団から現れたのは【白爪】ベンルーファス前獣王だった。

 他国所属の冒険者は任意での参加であったが当然のようにベン爺はやって来た。さらに最前線で戦いたいと言う。ちなみにレレリアはレンタル工房でアイテム作成中である。集中しすぎて警鐘など聞こえないようだ。


 気軽に挨拶したクローディアとアレクに対し、デュークが突っかかる。自称パーティー唯一の常識人は貴族としての礼儀や作法も当然弁えている。隣国の王族に対する姿勢ではないとパーティーメンバーを叱咤した。

 しかしすでにそんな間柄ではないのだ。ベン爺も礼儀など無視するタイプだし。

 というわけでベン爺が【百鬼夜行】に入り浸っている事など知らなかったデュークにアレクが説明しつつ、クローディアがベン爺と話す。



「悪いけど一番槍は任せてもらうわ。王国の面子ってやつでね。ベンさんが怪我するとは思えないけど、みんなと一緒にフォローに回って頂戴」


「ううむ、仕方ないのう」


「じゃあみんなもそんな感じでよろしくね!乱戦になると思うけどパーティー間の距離は意識して!魔法を撃つ場合は魔物がまとまってる所を狙うように!くれぐれも乱戦中の誰かに当てるんじゃないわよ!私に当てたらぶった斬るから!」


『おおう!』



 なんだかんだで冒険者をまとめるのが上手いクローディア。リーダーであり宮廷魔導士をまとめるアレクよりも冒険者相手だとクローディアの方が上手い。

 自分の道場で指揮しているというのもあるだろうが、転生者四人の中で前世的に最年長(四〇歳)だったので当然とも言える。



 冒険者たちの士気を上げ、意識を統一し、簡単ながら戦術を伝える。

 そうこうしているうちに魔物の群れは徐々に迫る。



 戦いにおける初撃は遠距離攻撃と相場が決まっている。

 この場合は弓か魔法だ。投げナイフや投石では飛距離が短い。

 熟練弓使いや熟練魔法使いの最長効果範囲は約百五十~二百メートルと言われる。それより遠くへも飛ばせるが、命中率や威力が落ちる。ゴブリンの頭を狙って射貫ける威力を出せる距離が最長効果範囲というわけだ。

 弓矢ならば風の抵抗や重力が関係するし、魔法ならば魔力の霧散や魔力線(パス)の伝導距離、土や氷魔法の場合は弓矢と同じく重力なども関わるだろう。


 さて、ここにアダマンタイト級の【大魔導士】が居る。【消臭王】とも呼ばれるがここでは【大魔導士】としよう。

 パーティーの攻撃魔法担当であり、防御は紙、移動は鈍足の完全固定砲台である。

 彼は言った。

 「魔力が霧散するならもっと魔力を込めればいいじゃない」

 「魔力線(パス)が届かないなら届くように魔力を込めればいいじゃない」と。


 零歳から魔法に明け暮れたアレクは常人を遥かに超えた魔力量を持つ。

 前世の漫画やゲームで見た魔法を再現しようと無理矢理魔法を行使した事で細かな魔力操作技術も得ている。

 さらには世界に数人しか居ない六属性魔法使い(セクストゥープル)でもある。

 欠点としては全属性の素養レベルが低い為に魔法の発動が遅く、消費魔力が多いという事だが、それを前述の魔力保有量と持ち味の繊細な魔力操作で補っていた。


 アレクの最長効果範囲は五百メートルに迫る。

 無理矢理魔力を込めて、無理矢理魔力線(パス)を伸ばした結果だ。

 とんでもない魔力と時間が掛かるが、こうした防衛戦であればその真価を発揮できる。

 ゆっくり近づく集団とか、アレクにとってはこれ以上ないご馳走だ。

 クローディアもデュークも分かっている。だからクローディアが言った「一番槍」とは三人の事を指すわけではなく、アレク個人を指していた。



 そろそろスタンピードの先頭集団が五百メートル圏内に入る。

 いくら大魔法を使おうが波の如く押し寄せる行列を全て効果範囲に収めるのはアレクでも無理だ。狙うは先頭、足並みを乱れさせる。



「よっし!いくぞ!」

「構わん、薙ぎ払え」

「初撃目標、千体撃破ね」



 アレクの気合にデュークとクローディアが軽口を叩く。

 そんな事などお構いなしに魔力を操作し始めた。


 まずは両手を体側に手のひらから炎の渦を出し、真上に向ける。ファイアストームという敵を炎の渦で包む魔法があるが、それを両手から出し尚且つ圧縮させているような高熱の渦だ。

 それを頭上で合わせると、まるでアーチのようにアレクの両手から炎の橋が架かった。



「な、なんだアレ!」

「ひょっとして例の大魔法か!?」

「魔族相手に撃ったってやつ!?」

「すごい熱そう……」



 後ろでその様子を見ていた冒険者たちが騒ぎ出す。

 確かに過去に王都で魔族相手に撃ったことがあり、それは英雄譚にも書かれている。しかし実際に見た者などそうは居ない。騒ぐのも当然だ。


 アレクは炎のアーチを作り注目をそちらに集めながら、魔力線(パス)を魔物の先頭集団に飛ばしていた。限りなく遠く、限りなく広く、膨大な魔力を込めて。

 つまりは炎のアーチはただの見せかけであり、魔力の無駄遣いである。


 今度は広げた両手を頭上で合わせる。炎の渦を圧縮させ両手に封じ込めるイメージだ。

 頭上で両手に握られた炎は、行き場をなくした熱が光となり、まばゆい光線が両手の握り拳の中から漏れ出す。

 ちなみに炎の渦を作っている時は手のひらに氷魔法の膜を作り、圧縮させた後は火魔法から光魔法に変えて光らせているだけだ。

 全ての属性を使え、繊細な魔力操作技術を持っているからこそ出来る芸当である。

 もちろんこの光らせる演出も魔力の無駄遣いである。

 なぜそんな無駄をやるのかって?漫画の完全再現をしたいだけだ。完全な自己満足である。


 「うおおおおお!」と気合の咆哮を発し、頭上で合わせた握り拳を眼前に出す。

 照準をつけるように両手の親指と人差し指を少し開く。

 そこから出た魔力線(パス)を熱線が辿れば、魔物の先頭集団、その広範囲に繋いだ魔力線(パス)で大規模な熱爆発を引き起こす。

 周りの冒険者たちが息を飲む。

 これから起こるであろう大魔法の威力に身震いする。

 これがアダマンタイト。これが宮廷魔導士長の力かと。



「いっけえええ!極大閃熱(ベギラg)――――」






 ……その時、大きな影が彼らを通過した。





 誰からともなく見上げる。

 魔法に集中していたアレクさえもだ。


 そして冒険者、騎士団、全員の時が止まった。



 ……ドラゴンだ。

 とんでもない大きさのドラゴン。

 淡い緑の体毛と白い鱗がかろうじて見える。

 畏怖の象徴とも言うべきそれが、王都方向から魔物の群れの上空へと迫った。



「ド、ドラゴンまでいるのかよ!」

「なんだあの大きさは!」

「もうだめだ!お終いだ!」



 騒ぐ者、唖然とする者、逃げ出す者。

 騒然とする中で【魔獣の聖刀】の三人の反応は違った。



「……うっそだろ」

「マジかよ……なんで出てきてんの?」

「うわぁ……ビーツ……」



 そんな声など聞こえるはずもなく、ドラゴンは極光のブレスを放つ。


―――ゴオッ…………ドゴオオオン!!!


 魔物は瞬時に消える。

 地面は焦土と化す。

 一薙ぎするだけで何千体の魔物が死んだのか。

 それを三発ほど連続で放ったドラゴンは、悠々と地獄に背を向けた。




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