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94:とある英雄パーティーの集結(不在一名)



 王都中の大通りが人でごった返す。

 ただでさえ多いのに避難民が我先にと避難場所へと足を運んでいる。

 警鐘が鳴り続ける中、衛兵は大声で避難を呼びかけていた。


 そんな中、貴族区にほど近い屋敷から大通りへと出て、南へと走る人影があった。

 人波をかき分け走り続けるその速度は、まさに″風″。

 すれ違う避難民はビュンッという風音に驚き「今、誰か通ったか!?」と把握すら出来ない。



「ノリ遅れたーーーっ!」



 前傾姿勢で急ぎ走るその女性は紅いハーフマントと腰に佩いた太刀が特徴的な美女。

 そう、【陣風】クローディア・チャイリプスである。


 警鐘が鳴り出してから事態を把握するまで時間を要した。

 貴族としての責務などお構いなしに、一人の冒険者として戦いに赴く為、彼女は走る。

 そう、王都を守る為に戦うのだ。

 前線に出て戦うのだ。

 断じて楽しんでなどいない。王都の危機なのだから。



「ええい!うっとおしいッ!」



 誰より速く走るクローディアであっても人波溢れる大通りを進むのは困難を極めた。

 口が悪くなっている気がするが英雄であり美人な貴族様でもあるので気のせいだろう。


 しかしそんな彼女をあざ笑うかのように、頭上を追い越す影があった。



「クロ!先に行くぞ!」

「ええっ!?」



 クローディアの上から声を掛けたのは宮廷魔導士長アレキサンダー・アルツであった。

 まるでサーフィンのように人の頭上をすいすいと進む様にクローディアは驚いた。


 フロートボードという魔道具がある。

 風属性中級魔法のエアフロートを付与した板状の魔道具で、浮かす為だけの用途であり、主に工事現場などで活用されている。

 アレクはこれを改造し、サーフボード状にした。とは言え浮かすだけの魔道具である事には代わりない。移動は自身の風属性魔法で補っている。

 加速・停止・方向転換などかなり細かな魔力操作を必要とし、乗り続け操作し続けるだけで魔力を消費するので「これ使えるのはオレとクロくらいだな」とは本人の談である。

 もっとも、そのクローディアは操作版フロートボードの存在をしらなかった上に軽々と追い越されたので憤慨している。



「ちょっと待ちなさいよ、アレク!私にもそれ貸しなさい!」

「お先~」



 ヒラヒラと手を振り、前を行くアレクに、怒髪天のクローディアは追いすがる。

 さすがはアダマンタイト級と言える速度で二人は南門へと向かった。





 南門の外は冒険者たちですでに溢れている。

 騎士団の姿もあるが、竜騎士以外の騎士団はその多くが避難誘導に当てられている。

 とは言え迎撃全てを冒険者任せにするわけにもいかず、いくつかの部隊がすでに展開していた。

 しかしながら数としては断然冒険者が多い。必然的に迎撃の主戦力となるのは冒険者たちである。



「金級以上のパーティーはもう少し前で待機してくれ!横に広くていい!その後方に銀級だ!パーティー同士が邪魔にならない程度に広がってくれ!」



 ギルド職員のパベルが声を上げる。体格の良い元ミスリル級冒険者の指示とあって現役冒険者たちの聞き分けも良い。

 しかし騎士団のように集団戦の練習をしているわけでもなく布陣も組めないので指示としては大雑把なものである。広く・厚く、各パーティーがそれぞれに対応しつつ、隙間をなくしたい、そんな陣とも言えない陣だ。


 そんな中、やっと到着したアレクとクローディアは、顔なじみのパベルと同じくギルド職員のチュードに声をかけた。



「パベルさん!チュードさん!」


「おおっ!アレクにクローディア!お前らも来てくれたのか!」


「来ないわけないでしょう!」

「オレは陛下からのお達しですよ。宮廷魔導士代表で。他の魔道士は防空警戒してるんで、オレだけは迎撃にあたれ、と」


「なんにせよ助かる。アダマンタイトが三人も居れば士気も上がるしな!」

「最前線は任せるぞ!」


「お任せを…………って三人?」

「フェリクスさんも居るの?」


「いや、俺だよ。アレク、クローディア」



 背後からの声に振り返るアレクとクローディア。

 そこに居たのは一八〇センチを超える長身に清潔感のある短い金髪。顔立ちは細く温厚そうだが法衣に隠れた身体にはしっかりとした筋肉が備わっている。

 青と白を基調とした法衣に全く似合わないタワーシールドとメイスを担ぎ、彼は笑顔で二人を見ていた。



「デューク!」

「帰ってたの!?」


「おう、帰って来て早々こんな騒ぎで驚いたよ」



 デューク・ドラグライト。

 英雄パーティー【魔獣の聖刀】の盾戦士兼回復術士。二つ名は【聖典】。

 彼は王国所属のアダマンタイト級冒険者の肩書を残しつつ、神聖国の教会組織にも名を連ねていた。つまり二つの国に所属している事になる。

 これが許されているのは本人の希望と両国の思惑が合わさった結果であり、世界でもそんな冒険者は二人と居ない。


 しばらく神聖国へと行っており、王都に帰って来た矢先に未曾有のスタンピードという事態である。溜息も出るというものだ。

 急いで駆け付けたものだから着ているのも法衣のままで、とりあえず武器と盾だけ持ってきたというわけだ。



「しばらくこっちに居られるのか?」

「ああ、もう当分呼び出されないだろう」

「奥さんも一緒?」

「もちろん一緒だよ」

「「爆発しろ」」

「おいっ!」



 久しぶりの再会に喜び合いたい所だが、パーティー唯一の既婚者に対する風当たりは強い。

 一八歳の貴族ともなれば結婚していて当たり前なのだが、四人とも前世の記憶がある為、それが弊害となっている所があった。そんな中無事に結婚したデュークは有能である。さすがは自称・パーティー唯一の常識人である。


 和気藹々と話している最高位冒険者に苦言を呈せるのはその場において先輩であるパベルとチュードくらいであった。



「お前らいい加減に配置につけ。デュークは前線か?後方支援か?」

「回復術士が足りてるなら前に出ますけどどうです?」

「とりあえず最前線の守りを任せるか。もし後方が不足となったら呼び戻す」

「了解です」



 三人は揃って最前線へと躍り出る。

 これでビーツが居れば【魔獣の聖刀】勢揃いだったのだが、仮に王都に残っていてもダンジョン【百鬼夜行】で避難場所の運営をしていただろう。


 やがて竜騎士の目視したスタンピードの情報が耳に入る。

 冒険者たちも騎士団たちも騒然とし始めた。

 複数の種族の魔物、一糸乱れぬ行軍、明らかに普通ではない事態だと。

 数は一万五千ほどと見る。とんでもない数だ。


 南門で守る冒険者と騎士団の数を合わせても千と少々。

 守り切れるのか?生きて帰れるのか?不安に駆られ逃げ出したくなる思いで、心の支えともいうべき最前線のアダマンタイト級の三人を見た。



「うそっ、ビーツ【奈落の祭壇】に行ってるの?」

「そうそう、あとで話すけどかなり面白い事態でさ」

「えー、デュークにも言うのー?」

「えっ、なんでハブられんの俺!?」

「そりゃあんた既婚者だし」

「酷い!既婚者差別だ!」



 …………なんか平気そうだな。

 何やら楽しそうな三人を見て冒険者たちはそう思った。




魔獣の聖刀のイニシャルは揃えてます。

AA:アレキサンダー・アルツ

BB:ビーツ・ボーエン

CC:クローディア・チャイリプス

DD:デューク・ドラグライト


元々前作を書こうとしている際に主人公候補が四人いて悩んだ結果「だったら四人とも出してパーティー組ませればよくね?」となったのが魔獣の聖刀です。

以上、製作裏話でした。

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