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93:避難場所【百鬼夜行】へようこそ!



『探索中の冒険者に連絡。こちらは冒険者ギルド王都支部です』



 地下八階を探索中の銅級パーティー【純白の漆黒】は突然響いた音声に歩みを止めた。

 とっさにモニター観戦をしていた際に聞いた実況を思い出すが、それは違うと思い直す。



『南門に魔物の群れが迫っています。臨時警戒発令につき、王国所属・銀級以上の冒険者パーティーは速やかに探索を中断し南門へ向かって下さい。銅級以下、また他国所属の冒険者の参加は任意となります。繰り返します―――』



 初めて聞くダンジョン探索中冒険者への緊急連絡。

 それを受けた彼らに動揺が走る。



「おい、魔物の群れって……」

「まじかよ。規模とか時間とか分かんないのか?」

「どうする?俺たちは任意らしいが……」

「探索どころじゃないでしょ。切り上げましょうよ」

「うん、参加するかどうかは別としても情報が欲しいし」



 彼らと同じように銅級以下や他国所属であっても探索を中断するパーティーが続出する。探索どころではないと誰もが思っていた。

 運悪くボス戦となっているパーティーも居る。階層の深部まで探索し転移魔法陣から離れているパーティーも居る。それでも続々と帰還室から出て来る冒険者たちで、地上の屋敷内は溢れかえった。



「詳細は未だ不明です!とりあえず南門へ向かって下さい!現地に職員が居ます!」



 彼らは受付の職員に情報を求めたが、詳細が分からないと知るや、南門へと走り出す。

 職員にしても悠長に説明している暇などないのだ。

 どんどん帰ってくる探索者たちを向かわせなければ屋敷内は鮨詰め状態になる。

 混乱が混乱を招くような事態にするわけにはいかないと。





 ギルド職員からの一報を受けたジョロは即座に動き出す。

 騒ぎ始めた屋敷と庭園の人波を縫うように、庭園へと出て屋敷の壁に大きな扉を造り出した。ビーツから″シェア″された″クリエイト″の能力だ。

 その扉は屋敷内のホールへと続くものではない。

 開けば屋敷と全く別の巨大広間となっている。ただの『石の広間(大サイズ)』である。

 新たに造り出した空間への扉を物理法則を無視して壁に造ったのだ。



「避難場所を造りました。皆さん、どうぞこの中へ」



 庭園に残っていた観客たちに声を掛け、ギルド職員や衛兵に、その扉と空間の事を告げる。

 観客たちはこぞって避難部屋へと入って行った。


 王都における緊急時の避難については全住民に通達してある。警鐘の種類、避難場所、避難に関するルールなども含めて周知させており、年に一度は避難訓練も実施されている。

 貴族は王城が避難場所となるし、平民にしても北西部の闘技場や、北東部の魔法学校、南は騎士団本部や広場など各所に避難場所は決められている。


 そして中央部の避難場所は【百鬼夜行】。

 一番人通りが多い場所という事もあるが、それ以上に【百鬼夜行】の絶対防護が王都民に知れ渡っている。王城以上に安全と噂されるそこには、どの避難場所よりも多くの避難民が駆け込んでくる。中にはわざわざ貴族区から来る貴族の姿もあった。



「避難は庭園だ!避難部屋への扉がある!左側によってくれ!冒険者が通るぞ!」



 大通りに面した柵門では衛兵が大声で誘導している。

 次々に訪れる避難民。

 次々に屋敷から南門へと向かう冒険者。

 柵門は交互通行の大渋滞であり、衛兵が身を張ってなんとか人波を動かしていた。



「避難はこっちじゃぞー!」

「慌てないでね~」

「大きい荷物は他の方の邪魔です。お預かりしましょう」



 衛兵だけでは捌ききれないので、マモリ・モクレン・ホーキも誘導に参加している。

 人語を介せる従魔でもヌラやギューキ、カタキラなどは見た目が怖いので避難民を怖がらせる恐れがある。というわけでジョロは三人を選抜した。

 緊急時における【百鬼夜行】の対応をジョロは完全に熟知している。避難場所の運営と避難民の誘導が最優先。

 とは言え、スタンピードの詳細を把握しておきたいというのも確か。



『クラマ、非番中に申し訳ないけど偵察に出られる?』


『おっ、我をご指名とは珍しいノヨ。もちろん行けるノヨ』


『悪いわね。もしかしたら応戦する冒険者たちに通達するかもしれないから、人語を話せる者でないとダメなのよ』


『なるほど。了解ナノヨ』



 飛べて尚且つ話せる従魔となれば限られる。

 現在管制を担当しているアカハチは動かせないのでクラマが妥当だろうと判断した。

 やがて屋敷から飛んで出て来たクラマは速度を保ったまま、人波に溢れる柵門を人々の頭上を越えてくぐり、南へと羽ばたいた。



「とりあえずこんな所かしら。さてご主人様に報告しないと」



 一通りの指示を終えたジョロはビーツへと念話を始めた。





 【奈落の祭壇】、ヴァレンティア王国の一室にて知らせを受けたビーツは飄々とした自然体を崩していない。

 しかし念話の内容を聞いたヴェーネスは気が気ではない。

 なぜビーツがこんなにも落ち着いているのか、不思議でならない。



「えっ、ビ、ビーツ殿!?スタンピードですか!?一万越えって……!」


「らしいですね。でもまぁ大丈夫だと思います」


「だ、大丈夫……なのですか?あ、あぁ【三大妖】以外の幹部の皆さんが居ますものね、いや、しかし一万越えの魔物相手では……」


「いえ、僕の従魔は出ないと思います。多分出る幕ないんじゃないかと」



 ヴェーネスの唖然とした表情に女王としての貫禄はない。

 一万を越える魔物が王都に迫っているというのに、なぜ落ち着いているのか。

 ジョロ・マモリ・ヌラを始めとした従魔たちを出撃するのかと思えば、出る幕がないと言う。

 王都の最高戦力がビーツの従魔である事は周知の事実。

 なのにそれを出さないで迎撃すると言うのか。

 ヴェーネスの疑問符はいつまでも頭によぎるのだった。




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