表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/170

92:騒乱の始まり

00話に六章終了時、91話までの登場人物紹介を更新しました。



 王都騒乱の日。


 始まりは南門へと走ってくる銅級冒険者パーティーの叫びだった。

 何やら慌てた様子で向かって来る彼らを、門番の衛兵たちは訝し気に見る。

 やがてその叫び声が何と言っているのかが聞こえた。



「ぜえっ!ぜえっ!ま、魔物だーーっ!」

「魔物の群れが来るぞーーっ!」

「逃げろーーっ!」



 南門で入都手続きをしていた列もその声に反応する。

 振り返り見れば、彼らの後ろにも王都を出て行ったばかりの馬車も引き返してくる。

 魔物?一体何事だ?騒然となる列を余所に、衛兵が銅級パーティーに詰め寄った。

 よほど走って逃げて来たのだろう彼らは、膝に手をつき息も絶え絶えになりながら衛兵に説明する。



「魔物だって!?一体何があったんだ!」


「はぁっ!はぁっ!魔物の群れが向かってきてる!」

「とんでもない数だ!千は居るぞ!」

「パルモ山から!うじゃうじゃ湧いて来たんだ!」


「パルモ山だって!?じゃあ近くの村は……!」


「分からん!でもこっちに向かってるのは確かだ!」


「わ、分かった!お前らはギルドに報告してくれ!俺たちは騎士団に通達する!」



 最低でも千体の大群……その詳細が掴めない。しかしパルモ山からだとすれば距離はある。

 そこから彼らが走って来た事を考えても数時間の余裕はあるのでは……いや、それしか余裕がないと見るべきだ。

 衛兵となっていた先輩格の男が、他の衛兵たちに指示を出す。



「並んでいる列を速やかに入都させろ!お前は詰所に連絡!至急本部と各詰所に連絡をとれ!お前は警鐘だ!臨時警戒態勢の二番!」


「「「ハッ!」」」



 慌ただしくなる南門。入都検査をする事もせず、とりあえず並んだ列を王都に入れ始めた。

 やがて詰所から警鐘が鳴り出す。カーンカーンカーンと三回ずつ。

 それは魔物襲来時における避難指示。

 南門から聞こえ始めたその警鐘は、次第に王都全体で鳴り出した。



 南門からの報告を受けた騎士団本部は、ただちに斥候として竜騎士を飛ばす。

 ワイバーンに乗り込んだ竜騎士が一人、それを追うように別のワイバーンが一体。

 竜騎士が上空から目視で確認し、後追いのワイバーンにその内容を伝えてくれと言えば、ワイバーンを従魔としている本部の召喚士に念話で伝わる。召喚士を利用した最速の伝達手段である。

 主以外の命令を聞く必要がある為、これが出来るワイバーンはかなり知能に優れた者でないと無理だ。王国自慢の竜騎士隊でも三体しかいない。


 兎にも角にも飛び立った彼らは南門を越えて街道を直進、パルモ山へと向かう。

 街道を王都に向けて走る冒険者や馬車も見える。

 最初に飛び込んできた銅級冒険者とやらはどれほど速く、どれほどの距離を走ったというのか。ふと感心するものの、それどころではないと頭を振り払う。


 そしてそれはすぐに目に入った。



「こりゃ……とんでもないぞ……!」



 眼下に映る、群れ、群れ、群れ。

 上空から見れば黒点が蠢くように、波となって王都に向かっている。

 ゴブリン、コボルト、フォレストウルフ、オークも見えた。

 複数の種族が足並みを揃え、乱れる事なく歩みを進める。はっきりと分かる″異常″。

 なぜ別種族が同じ行動をとっているのか。なぜ走りもせずわざわざゆっくりと歩みを揃えるのか。竜騎士には理解できなかった。


 隊列を成した魔物の群れは縦にも横にも長い。

 山からもまだ出て来る。森から合流する群れもある。

 数千……この分では一万を越えるのでは……?

 身の毛もよだつ光景に震えを感じながら、竜騎士はとなりのワイバーンに報告した。



 一方、冒険者ギルド王都支部でも騒然となっていた。

 鳴り始めた警鐘と共に、駆け込んで来た銅級パーティーからの報告を受けて職員も冒険者も慌てだす。

 そんな中で騒ぎを聞きつけたギルドマスター・ユーヴェが二階から現れた。凛として透き通る声がギルド内に響きわたる。



「聞いたか!魔物の群れが南門に迫っている!臨時警戒につき銀級以上は強制依頼だ!銅級以下は任意!ただちに南門へ向かえ!」


『おうっ!』


「パベル、チュード!お前らも行け!ギルド代表として冒険者たちをまとめろ!レイナ、お前は【百鬼夜行】に連絡だ!」


『はいっ!』



 ユーヴェの統率力はさすが王都支部のギルドマスターと言えるもので、冒険者と職員たちは一斉に動き出した。

 それとは別にユーヴェ自身も動き出す。

 騎士団と連絡を取り、魔物の群れの詳細を知らねばなるまい。


 ユーヴェ自身が前線に赴く事は出来ない。

 それは冒険者たちの総指揮官としてギルドに残るという意味ではない。


 スタンピードの際に一番恐れるのは飛行する魔物による空からの強襲である。

 いくら城門を閉ざし城壁で守っても、空は無防備だ。だから防空を一番に考える。

 王都の防空戦力として重きを置くのは、竜騎士隊、【怠惰】のフェリクス、そしてギルドマスターのユーヴェである。部隊が一つと″元″が含まれるがアダマンタイト級が二人。


 もちろんビーツの従魔にも飛行系魔物は居るが、有事の際の【百鬼夜行】の役割はあくまで″最終防衛線″だ。

 敷地内攻撃無効による絶対防護。民を守る為の施設。そしてその運営として【百鬼夜行】の従魔はやたら動かせない。

 動かすとすれば冒険者でもあるビーツの独断で従魔の何体かを出せるのだろうが、そのビーツは現在不在である。念話で連絡を取り合う事も可能だと分かっているが、国もギルドもビーツの従魔を戦力として見ていない。

 それはビーツ不在となる前に国とギルドで話し合った結果でもあった。この期に頼る事をせず動かせなければ、ビーツへの依存がより激しくなるだろうと。


 ……とは言え、一万越えのスタンピードはさすがに予想外だったが。


 ともかく、ユーヴェは自分がいつでも空を守れるよう、準備を始めた。



 そしてダンジョン【百鬼夜行】にもその騒ぎが伝わる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ