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90:ビーツ、ダンジョンプロデューサーになる



 お土産の説明だけで終わった初日であったが、翌日は朝からダンジョン経営について相談し始めた。

 もっとも、当初はお互いに独自の管理法を教え合ったりというような″同盟″や″互助会″めいたものを想定していたが、ビーツが【奈落の祭壇】を走破した事で、その造りや管理方法などはあらかた分かってしまった。

 ヴェーネスにしても水晶越しではあるが【百鬼夜行】の管理層を見た事で、ビーツ独自の管理方法をすでに知っている。まぁ理解が追いつかない所も多々あるのだが……。


 そういったわけで、相談というのは「実際に走破してみて何か改善点はありませんか?」というヴェーネスからの一方的な相談である。

 これは何もビーツに不利益なわけではなく、改善時に見られる消費魔力量の差や、走破しただけでは気付かなかった点を知る機会でもある。改善した事で【百鬼夜行】の入場者が減るという事もないだろうし。

 むしろダンジョン作成マニアの二人による、和気藹々としたダンジョン改造というのは心躍るもので、ヴェーネスにしてもビーツにしても楽しみにしている所でもあった。



「えーっと、色々と感じたところはあるんですが……いいんですかね?陛下は女王様ですし、ダンジョンマスターの大先輩ですし、僕が偉そうに口を出すみたいで……」


「構いません。むしろ忌憚のない意見を望むところです」



 一応、遠慮する気はあったらしい。

 今までの言動を見るにヴェーネスに対して敬う気持ちがあるようには見えなかったが。

 大丈夫であろうか、王国貴族。



「では、えっと……とりあえず入口を広くしませんか?」


「えっ……入口ですか?」


「はい。まず辺境の森を抜けるのが大変だったので、近隣の村まで獣道のような小道を作った方がいいと思いました。それから谷底に降りるのも大変なので、いっその事崖を崩してスロープみたいにしちゃった方が、訪れやすいかと」


「ええと……どちらもダンジョン外の事なので、私には弄れないのですが……」



 真っ先にビーツが言い出したのは【奈落の祭壇】に辿り着くまでの不便さだった。

 これにはヴェーネスも幹部たちも「何言い出したの?」と言わんばかりである。



「出来ませんかねぇ。吸血鬼の膂力であれば簡単に出来そうなんですけど」


「いえ、もちろん出来る出来ないで言えば出来ます。しかし地表で我々が作業にあたるというのは秘匿している身としては……」

「それに魔物が谷底に来やすくなりますよ?逆に探索者が寄り付かなくなるのでは?」


「えっと地表の作業は真夜中にやればいいですし、谷底に魔物が来るのはむしろ有り難いかと」



 ヴェーネスも幹部も反対意見を出すが、ビーツはお構いなしに案を述べる。



「……有り難いとは?」


「まず【奈落の祭壇】に挑もうって探索者が、森の魔物に後れをとるわけがありません。谷底にいようが構わず倒すと思います。倒してここまで辿り着いているわけですから」


「まぁそれはそうでしょうが……」


「で、僕も倒しながら来たんで分かりますけど、この近辺にはハイコボルトやオークの群れがいるじゃないですか。谷底に来るとしたら、そいつらが多いと思うんです」


「確かに大型の魔物はもう少し深い場所に出ると聞きます。この辺りでは中型が多いと」


「ええ、なのでその魔物をダンジョンに入れちゃおうかと」


「「「「はぁっ!?」」」」



 探索者が少なければ魔物を入れちゃえばいいじゃない理論である。

 さすがにヴェーネスたちも唖然となった。


 【奈落の祭壇】の入場者は日に多くても一〇~二〇パーティーと聞く。

 それは数日に渡って潜っている探索者も含まれる。

 つまり一日のうち、地表の入口を利用する者などごくわずかしか居ないのだろうとビーツは思った。

 ならばそこに魔物が紛れ込んだところで探索者とかち合う事などほとんどないだろうと。

 そして魔物が入ればそれはダンジョン魔力の手助けになる。地表の魔物がダンジョン内で死ねば魔力が吸収されるというのは【百鬼夜行】で経験済みである。送還して遊ばせた従魔がお土産代わりに倒した魔物を持ってくるのだから。



「いえ、しかし、入口の石扉はあれ以上開きませんよ?我々の力であれが限界です。あの隙間ではコボルトは入るかもしれませんが、オークは無理です」


「ええ、ですので帰りがけにシュテンに頼めば全開にしてくれるかなーと」


「ハッ!お任せ下さい!」



 意気揚々と返事をするシュテン。

 あーそういえばシュテンが居たわー、絶対開くわー、と観念しだす吸血鬼たち。



「ですので、地上一階の床を魔物専用の落とし穴にする事を提案します。魔物にしか反応しないトラップは出来ますので」


「……なるほど、ビーツ殿の考えは理解しました」



 ヴェーネスは最初こそ狼狽えたものの、冷静になってみればビーツの言いたい事も理解できた。

 魔力という収入を増やそうにも、立地的・難易度的・風聞的に探索者を増やすのは困難。

 であれば、道を整備し、少しでも来やすくするついでに、魔物もおびき出しやすい形にする。

 そしてダンジョン内に入った魔物を落とし穴で殺す。

 確かに現状で考えうる魔力確保手段としては、やりやすいものだ。

 もっと大規模な手段としては入口の位置を変えたり、大掛かりな改築をして探索者の目を引いたりといった事もあるだろうが、コスト面を考えれば最善かもしれない。



「それが僕が思う手っ取り早く″入場者″を増やせる手段です。それと殺す以外に吸収魔力を増やす方ですけど、これはもう探索者に長い事潜ってもらうしかありません。要は継戦能力の維持ですね」


「ええ、その為に安全地帯や準安全地帯を設けていますので」


「なのでダンジョン内にお店を開くのを提案します」


「「「「はぁっ!?」」」」



 また何を言い出すのだ、と唖然とする吸血鬼たち。

 ダンジョンの中に商店?

 思い浮かべるのは【百鬼夜行】の地上にある露店だ。あそこもダンジョン内であり、そこで商売をしている。

 しかし同じ事を【奈落の祭壇】でやるとなると……



「つまり劣化吸血鬼を売り子にするわけですか?」

「それでは売り子が″ダンジョン関係者″だと分かってしまいます!」

「管理者の存在を公にするわけには……」

「そもそも何を売るおつもりなのです?」


「えーと、僕が考えているのは『食べ物と水と回復薬の自動販売機』です」


「「「「じどうはんばいき?」」」」



 ビーツが考えているのはまさしく前世にあった自販機である。

 金を投入し、品物を選び、それが出て来る。

 ″創造″の能力を自販機自体に付与すれば品物を補充する必要がないし、無礼な輩が壊して品物や金を盗もうとしても、ダンジョン設置物なので壊される事もない。

 集まった金で行商時の買い付けをしてもいいし、そのまま金をダンジョン魔力に変換してもいい。

 これは日帰りと復活が日常化している【百鬼夜行】では出来ない、いや、設置する必要のないものだ。

 ビーツはそういった事を説明した。



「なるほど……」

「そう聞くと素晴らしい案に思えてきます」

「しかし逆に深層に辿り着きやすくなるのでは?」

「うむ。ダンジョン制覇……ひいては管理層発見の恐れがあります」


「そこはバランスだと思います。継戦能力を上げるのとダンジョンの難易度を上げるのと。ひとまず安全地帯に設置すれば、仮に探索中に水がなくなっても『安全地帯にさえ着けば水が買える』と踏み込むでしょうし」



 かなり乗り気になってきた吸血鬼たち。

 ビーツのダンジョン魔改造は続く。




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